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湖畔の城

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 今日は、コウと湖畔の城に行く日だ。朝から母に二人分のお弁当と、精霊が好きなお菓子も用意してもらった。ありがたくマジックバックに収納する。

僕とネルも用意をしていると、コウとジンが迎えに来た。

「ありがとう母さん。行ってきます。」

「気を付けてね。まぁ、今のリンとコウくんなら大概の魔物は倒せると思うけど。」

そう言う母に見送られ、憑依した僕とコウは翼をはためかせて飛び立った。

普通の憑依だけだと、精霊の人格も契約者の中にあり、頭の中で会話も出来る。
空を飛ぶだけだとこの状態。

そしてお互いに意識を完全に同調させる事(これが完全憑依)も、切り離してシャットアウトさせる事も可能だ。
同じ体にいてもトイレに行く時とか、プライベートを守りたい時もあるからね。

山を見下ろしながら飛んでいると、オークの群れを発見した。先に探索魔法を持つネルが気付き、みんなに報告する。

ちなみに、一度繋がった精霊同士は意識の共有が出来る。これは性的な繋がりだけでなく、家族や友達とも共有できるんだ。ネルはジンだけじゃなく、母のファーやレンさんのクー、ユイくんのルーとも繋がっている。それはテレパシーみたいな物で、精神的な性的繋がりとは違うんだって。

「オークの群れかぁ。放っておいたら山の麓まで下りて来るかもな。リン、どうする?」

「うーん、ネル、ルーに言ってロー様経由でこの事をシグ様に伝えてもらって?」

『了解。』

頭の中でネルの声が響く。しばらくすると返事がもらえたようだ。

『殲滅して欲しいって。後で報酬も出すから綺麗に根こそぎ希望だってさ。オークキングがいたら、氷漬けにしておいて欲しいそうだよ。後から回収に来るらしい。』

「ん。コウ、殲滅していいって。オークキングがいたら氷漬けにするから殺さないで。」

「分かった!オレ頑張るよ!!」

うーん、マジで尻尾振ってるな。ウンピョウなのにワンコっぽいw
早速剣を振りかざしてオークの群れに突っ込んで行くコウ。いや、コウジンになってるか?剣一振りで何十匹ものオークが倒れていく。

本当に強くなったよな。あらためて考えてみても、カグヤ様に鍛えてもらうなんて、いくら頼んでもお金積んでも無理だからね?よく興味を持ってもらえたよ。
まぁ、確かにちょっと前までのコウはカイさんに似た残念具合だったもんな。

そんな事を考えているうちに、コウがオークの群れを殲滅し終わったようだ。

「リン!オークキングいたっ!!」

「了解。今行く。」

そこにはコウジンに蔦で拘束されたオークキングがいた。本当にコウジン一人で殲滅しちゃったよ。めっちゃ楽してるな僕。
速攻で氷漬けにする。後は穴を掘ってオークの死体を埋める。これが地味に大変だ。炎魔法が使えたら焼くんだけどな。
よし、これで一仕事終わり。

「お疲れ。コウジン一人で終わっちゃったね。報酬も出るらしいから全部もらいなよ。」 

「えぇ?いいよ。埋めるのも大変だったし。半分こにしよう。」

「だって僕、凍らせただけだし。穴もほとんどコウが掘ってくれたじゃん。」

「じゃあさ、その報酬で何か食べに行こうよ!」

「うーん、コウがそれでいいのなら。」

「全然いい!寧ろリンとご飯行けて嬉しい!!」

だから、尻尾振りすぎだって!!

その後は魔物にも遭遇せず、湖畔の城に着いた。

「うわぁ・・・すごい。」

大きな湖の真ん中にポツンと浮かぶ孤島。その島の高い崖の上にそびえ立つ美しい城。まさに天然要塞だ。
城の美しさもさることながら、空と湖の青さと城のまわりの木々の緑、崖の白さ等、全てが相まって完璧な美を織り成している。

晴れてて良かった。最高のロケーションだよ。

湖の辺りには、憑依が出来ない魔族の為にボートが置いてあった。

「僕ボート乗りたい!」

「いいよ、乗ろう。」

憑依を解くと重量オーバーになりそうだったので、そのままボートに乗り込む。
コウが漕いでくれた。

「うわぁ!水面がキラキラしてて綺麗!」

「ねぇリン、完全憑依して?」

「へっ?いいけど何で?」

わけが分からないまま完全憑依してリンネルになる。コウもコウジンになったようだ。

コウジンに見つめられ、ドキッとする。リンの時よりドキドキが止まらない。ネルの気持ちが入ってるから??
抱き寄せられて、尻尾を僕の体に巻きつけて来る。気持ちのいい拘束。僕も長い尻尾をコウジンに巻きつけた。

コウジンの顔が近づいて来て、キスをされる。んんっ!コウの時より激しい・・ピチャピチャと音がするくらい、絡ませた舌とともに唾液を流し込まれる。溺れそうになりながらも、最早どちらのものか分からない唾液をコクリと飲み込んだ瞬間、コウジンの意識が僕の体内を駆け巡った。

完全憑依と似ているが、ネルのように僕に同化するわけではない。コウジンのままで、僕の体内を愛おしそうに駆け巡る。
あぁ、これが精神的な愛撫か。コウジンの一途な愛情が、これでもかと僕を愛でてくる。言葉にしなくても痛いほどに伝わる感情。

精霊が肉体的な繋がりより、精神的な繋がりを重視するって意味が分かったよ。リンネルのリンの部分でもそれを体感した。

ふと我にかえり、自分の感情もコウジンに流れ込んでいる事実に怖くなる。僕はそこまで一途な愛を返せない。だってコウの事が好きだと自覚したのも最近で、自分でも半信半疑なところがあるから・・・









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