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卒業式
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しおりを挟む僕の名前はリン。人族の父と上位魔族の母ランから生まれた。父の記憶はない。母が人族の国に遊学していた際に出会い、意気投合してその場で結婚したが、僕が生まれるまでに愛想を尽かせて魔族の国に帰って来たらしい。
母は何というか、そういう勢いのある人だ。常に自分がやりたい事をして、誰に対しても言いたい事を言う。前魔王様に対してあんな口の利き方をする魔族を母以外知らない。
そして、歳はかなり離れているのに魔王様の妹のカグヤ様と仲が良く、魔族の最強魔女コンビとして上位魔族からも恐れられている。母もなかなかに強いし、カグヤ様は実際に魔族最強と言われている方だ。なんせ契約精霊が白虎だもんなぁ・・・
猫科の契約精霊の中で、最強は虎。しかも純白は漆黒とともに一番格が高い。文句なしにカグヤ様が最強だろう。
二番目に強いライオンを契約精霊に持つ先代魔王様と、三番目に強いジャガーで漆黒の契約精霊を持つ現魔王様が同レベルで二位。三位にピューマを契約精霊に持つ魔王様親衛隊の長であるシグ様か、豹を持つ母か?ってとこだろうか?
そんな最強レベルの魔族を間近で見て育った僕は、どうやら強さの定義が普通の魔族とは違ってしまったようだ。
魔族に義務付けられている魔族学校に五歳で入ってからの十年間でそれを思い知らされた。僕は学校に入る前にユキヒョウのネルと契約し、完全憑依も出来るようになっていたが、同級生で当時契約精霊がいるのはコウだけだった。
そのコウにしても入学当時は完全憑依が出来なかった。コウはそれまで他の友達より先に精霊と契約した事を自慢に思っていたらしく、同じく契約精霊がいる僕を勝手にライバル扱いしたんだ。
精霊の格的には大差はないが、すでに完全憑依が出来るリンネルな僕と、普通の憑依しか出来ないコウとでは勝負にならない。
僕は容赦なくコウを叩きのめした。
そして・・・懐かれた。
あれから十年が経ち、今日は魔族学校の卒業式。
「リン!卒業記念に勝負しようぜ!」
「・・嫌だ。」
「何でだよ?!」
「面倒臭いし、そんな時間もない。」
「じゃあ始めるぞ!ジン、完全憑依!!」
「話聞けよ?!この脳筋がっ!!!」
コウはこういうヤツだ。そして今では力はほぼ互角なはずなのに、脳筋故に頭を使って攻撃する僕にはなかなか勝てない。十回勝負して一回勝てたら良い方。下手したら二十回に一回。なのに、事あるごとに僕に挑んで来る。
しかも最悪な事に、連勝したらオレと付き合えとかほざきやがる。
バカなの???!!
何で僕がこいつに懐かれているのかは全く分からない。一年前の魔王様と王妃様の結婚式でも僕と恋人だとか言いやがって、心底ビックリした。
後から「ああ言わないと魔王様は絶対にオレたちが王妃様と仲良くする事を許さないと思って」とか言い訳をしてたけど、お前が王妃様に「可愛い」とか言ったからだろっ??!!
「いくぞ!」
コウジンが剣振りかざしてかかって来た。
慌ててリンネルになり飛び退く。
猫科動物憑依で武器を使う者はそんなに多くない。半分もいないんじゃないかな?
だが、コウジンは剣で戦う。コウは騎士を目指しているんだ。
騎士と言っても魔王様に近衛兵はいらない(充分すぎるほど強いし親衛隊もある)から、街の治安を守る騎士団しかないけどな。
僕は体術と魔法を組み合わせて戦うタイプ。剣をやたらと振り回すコウジンに牽制の意味を込めて氷の礫を飛ばし、自分に身体強化の魔法をかけてコウジンの懐に飛び込み、腹に拳をぶち込む。
「ぐほっ?!!」
「バカか?いっつもいっつも真正面から振りかぶりやがって。腹や他の急所がガラ空きなんだよ!!剣を使うのならもっと効果的に使え。寧ろ剣なしの方が強いだろお前。」
「オレは剣で強くなるんだ!!そしてお前に連勝して恋人にするっ!!」
だ、か、らぁ!!何で連勝したくらいでコウの恋人にならなきゃなんねぇんだよっ?!
せめて十連勝・・いや、十回勝負で半分以上勝ち越してからじゃない?って違う違う。そもそも恋人になるっていう前提がおかしい。僕は惚れた相手としか付き合う気はないからな!
それが男でも女でも構わないけど、とにかくお互いに惚れ合った相手じゃないと嫌だ。
「バカの相手はしてらんねぇわ。じゃっ、卒業おめでとう。」
「待てよっ!まだ勝負はついてないだろ?!」
「・・拘束。早く解かないと卒業パーティーに遅れるぞ。」
氷で出来た輪がコウジンの両足を纏めて拘束する。氷だからその内に溶けるし、その前にコウジンの馬鹿力なら割れるだろう。
全く、僕はこいつのせいで冷血王子ちゃんとか呼ばれてるんだ。毎回毎回容赦なく氷魔法を使ってコウを叩きのめすから冷血で、そこそこ容姿が整っているから王子。で、小柄だからちゃん付きなんだそうだ。
僕はギャーギャー喚くコウジンをその場に残し、パーティー会場に向かった。
歩きながら憑依を解く。ネルが僕の中から飛び出して来た。
「全く、コウもジンも懲りないね。ジンも精霊の格はそこまで僕と大差ないはずなのに、何でああもバカなのかなぁ?まぁ、僕の方が上なのは確かだけど。」
「契約者がコウだからね。しょうがないよ。頭使わないんだから。」
「「悪いヤツじゃないんだけどねぇ・・・」」
二人でため息を吐きながらパーティー会場に入る。すでにたくさんの魔族であふれかえっていた。
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