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前世のショウとルイ
ショウ3
しおりを挟むライブが始まった。
ナオさんのドラムスティックでのカウントの後、親父の爆音ギターが鳴り響き、照明がステージをカッと明るく照らす。
ジュンさんがマイクスタンドを握り、歌い始める。
何だよこれ??!!!これが五十過ぎたおっさんたちの音なのかよっ?!
音もヤバいが、ジュンさんの歌声もヤバい。自分のじいさんの声に色気を感じるってどうなんだよっ??!普段でも普通の人とは違うオーラがあるが、ステージ上ではレベルが違う。
これはある種の暴力だ。
ガキの頃には分からなかった世界が目の前に広がっている。
音の暴力。
オレの浅はかな虚飾や誤魔化し続けているルイへの想いが音によって剥がされていく。
マジで何なんだよこれ・・・
ユイさんが「堪らない!」って感じで人をかき分けて前に進んで行く。オレも何だかいてもたっても居られなくなって、ユイさんの後に続いた。
最前列で見るジュンさんは圧巻の一言。
これはもう人じゃないだろ?魔王じゃね??あんなに人を魅了出来る人間がいる???しかもそれがオレと血の繋がったじいさんなんだぜ??!
もう、オレはどうしていいか分からなくなって、ユイさんとともにひたすら踊り続けた。そして踊っていると、親父のギターがヤバすぎる事にも気付く。
こんな爆音が気持ちいいなんてありえなくね??
何て言うか・・体が音に持って行かれる。あぁ、いいなぁ・・・オレもこんな音を出してみたい。
そして、再度気付く。丸裸になったオレの心にはルイしか存在していなかった。
そんな風に音に身を委ねてると、ユイさんがオレを引き寄せて耳元で言う。
「ショウくん、今感じてる事がすべてだよ。最高の音の前では自分の感情が丸裸になるでしょ?その気持ちが真実だから。迷ったら今の気持ちを素直に思い出して?」
いつもだったら「うるさいな!何言ってんの?」くらいな大人の意見も、今なら素直に受け入れられた。
親父もジュンさんもすごい。オレの身近すぎる家族はこんなにすごい存在だったんだな・・・
その後もオレは踊り続け・・MAGの年に一度のライブが終わった。
フロアの最前列のスピーカーの前で放心状態のオレ。
ポンと肩を叩かれ、振り向くと母さんが居た。
「ユイから聞いたわよ?いい感じに一皮剥けたみたいね。あんたは拗らせすぎなのよ。まったく!ここまで意固地に引っ張り続けるとは思わなかったわ。けどもうタイムリミットだからね?多分ここであんたが素直にならなかったら、ルイは誰か別の子に取られるわよ??」
「それとね、カグラがルイに本気で惚れなかった事に感謝なさい。これは本当に奇跡なのよ?何であんたが惚れてるのにカグラが惚れないって安心してるのかが分からないわ。普通惚れるかも?って危機感を持たない??」
そ、そうか・・カグラがルイに惚れなかったのは奇跡なんだ・・・更に母さんはオレに追い討ちをかける。
「まっ、これが最後のチャンスだと思いなさい。あんたはルイしか愛せないかも知れないけど、ルイは多分カグラとでも幸せになれるわよ?」
何かすげぇショックだった。半身だと思っているのはオレだけで・・・ルイはカグラでもいいんだ・・って、よくよく考えてみたら、オレはルイをいじめてて・・・カグラはそれを慰めて・・しかも女だから子どもも生める。ルイが男の、しかもいじめっ子だったオレを普通なら選ぶわけがないんだ。
そう気付くとすっげぇ焦った。辺りを見回してもルイはいない。オレの行動を見た母さんが言う。
「ルイならカグラと一緒に楽屋に行ったわよ?」
その言葉を聞いてすぐさま楽屋に走る。
楽屋のドアは開いていて、ジュンさんと喋るルイが見えた。気付けばオレは叫んでいた・・・
「ルイ!!今までごめん。オレ、お前の事が好きだ!!!」
一瞬にして静まり返る楽屋の空気。目を見開き、驚愕の表情のルイ・・あっ、やっちまった・・・
けど、ルイは真っ赤になりながらニコッて微笑んで・・・
「・・ぼ、僕もショウが好きだよ?」
そう言ってくれたんだ。
その後の楽屋はお祭り騒ぎになった。みんなに拍手され、親父にはバシバシ背中を叩かれた・・ウザい。
カグラには呆れ顔で、
「ここまで引っ張ったんだから、せめてもうちょっとちゃんと告白出来なかったの?何もこんな公衆の面前で言わなくても良くない?まぁ、今の勢い任せじゃないと言えなかったんでしょうけど。」
って言われた。ぐう、正論。
確かに、こんな公衆の面前で告白してしまって、ルイには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。けど・・・ルイもオレが好きだって言ってくれた!!
夢じゃなくて??!
幸せすぎてどうにかなりそうだ。
これからは、今までいじめてしまった分を取り返せるくらい、ルイを甘やかして愛そうと心に決めた。
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