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現在の山狼族
アスミ2
しおりを挟む「今、この山峡で暮らしているのは六人。オレとオレの伯父にあたる長老、その孫で、つまりオレとは従姉妹の双子姉妹、別家族の二人兄弟、以上。全員が契約精霊持ちだ」
「ちょっ、ちょっと待って?!六人全員に契約精霊がいるの??犬科動物の?!!犬科動物の契約精霊は絶滅したってまで言われてるんだよ?俺はいるって信じてたけどもっ!!」
いきなりの衝撃的な事実に唖然とする。だって俺、前世の小説でもケンショーさんのリューしか登場させてねーし!!
「昔は契約精霊持ちも多かったし、部族としてなら何百人もいたんだがな。
何と言うか、元々の数と種類も少ない上に、犬科動物の精霊は忠誠心が強すぎて、本気で仕えるに値する魔族としか契約しねぇんだよ。特に狼は。
山狼族の長は狼と契約した者、と決まっている。だが、前の長が死んでからオレとリューが契約するまで、結構間が空いたんだ。
その間に群れを出ていくヤツは多かった」
なるほど。やっぱり狼は滅多に契約してくれないのか。俺たち魔族だって、虎と契約しているのは魔族最強のカグヤ様と、次代魔王候補のショウ様だけだもんな。
そして、前の長が亡くなった後に、山を離れた山狼族を受け入れた魔族たちから、絶滅の噂が流れたんだろう。
「で、オレがリューと契約したら、精霊界でリューを慕っていた四匹、ジャッカル、リカオン、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーが、それぞれオレの周りに居る同世代のヤツらと契約したんだ。
後一匹は、前長亡き後オレが族長になるまでの間、代理で群れを率いて来た長老の契約精霊のコヨーテ」
あぁ、納得。ケンショーさんと、その五匹の精霊の契約者がここに残ってるってわけか。
「オレが長になってからも、この国で人族、ドラゴン族との国交が始まると、契約精霊がいない者は街に出て魔族に混じるヤツが多くなった。山に篭っているより発展した街で過ごしたいってな。
まっ、時代の流れだ。オレはそれを許可した。
山にいてもなかなか精霊とは契約出来ねぇしな。猫科動物の精霊と契約出来る可能性があるから街に行きたいって思うのは、子を持った親なら当然だと思う。
だが、いまだに犬科の契約精霊持ちで山から山へ渡り歩いているヤツもいるし、気に入った別の山に定住しているヤツもいる。
オレは長として一つの群れだった山狼族を解体したんだよ。みんな好きに生きればいいって。
まぁ、そうは言っても契約精霊を通して集合の令をかければ、今でも三十人くらいは集まるが」
そうか。う~ん、何か感慨深いな。
五十嵐 明日望が前世で書いたのは、ケンショーさんが山狼族の長って事くらいだったのに、ここではちゃんとした理由があって、少ないながらも山狼族が現存している。
この世界で今まで生きてきた「アスミ」が追い求めて来た山狼族が生きている。
だって、ここは小説の世界じゃなくて現実だから。
「そっか~色々大変だったんだな。けど、オレは族長としてのあんたの決断は間違ってなかったと思うよ。生きたいように生きればいいってのは正しいんじゃねーかな。
だからあんたも街に来たりしてたのか?もしかして俺たちすでに会ってたりして」
「いや、番に会って気付かないはずがない。オレがアスミちゃんに出会ってれば、躊躇なく口説いてるはずだ」
おいっ、やめろ!すぐに口説く癖は前世のままかよっ?!キメ顔で言うんじゃねーよ!!無駄に整ってるから腹立つわっ!
「ソーデスカ」
「いや、本気なのに流すなよ。オレはいつどこででも、アスミちゃんに出会った瞬間、口説く自信があるぞ?」
だからそのノリが軽いっちゅーのっ!!
「・・・それより、その他の山狼族のみなさんもこの近くに居るのか?コヨーテにジャッカル、リカオン、ゴールデンレトリバーにラブラドールレトリバーの精霊かぁ。会ってみたいなぁ」
「そんなに興味があるならウチの集落に来るか?」
「えぇっ?!いいの?!!行く、行く、行きたいっ!!!」
願ってもないチャンス!!これを逃す手はないだろ。
「・・・なぁアスミちゃん。お前、オレの番として連れて行かれるって分かってる?」
「へっ?!い、いや、いきなりそんな風に紹介しなくても・・・あっ、山で迷ってた魔族って設定とかどう?」
「長なオレが、そんな怪しいヤツを集落まで連れて行くはずねぇだろ。行くのなら、番としてだ。オレと番い、山狼族として山で暮らす覚悟がないなら連れては行けねぇな」
いやいやいや、いきなりすぎるだろっ?!会ったその日に「山狼族として山で暮らす覚悟」って・・・
「まっ、オレとしてはアスミちゃんを山狼族に縛り付ける気はないから安心しろ。番う事は絶対だが二人で街で暮らしてもいい。
ただ、その場合は山狼族とは関わらないで欲しい。
オレだけ山に通うから。瞬間移動で毎日行って帰って来るからよ」
おちゃらける事もなく真剣な口調でそう言われ、俺は少し考え込んでしまった。
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