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前世の記憶

アスミ1

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 朝露で湿った土と草木の青臭い緑の香りが立ち込める山の奥深く。

あぁ、チュンチュンやらグギャーやら、普通の鳥と魔鳥の鳴き声が入り混じってこだましているな・・・と、聞き流しながら足を進める。

そんないつも通りの休日の朝、俺の頭の中に突然前世の記憶が蘇った。

 俺の名前はアスミ。黒猫で漆黒の翼を持つ精霊、ミイと契約している二十歳の上位魔族だ。それは間違いない。なのに、今の俺の頭の中には、日本という国で大学生だった五十嵐 明日望(いがらし あすみ)の記憶が混在している。

「アスミ?ねぇ、どうしたの?そんなバカみたいな顔して固まって。早く狼の精霊を探しに行こうよ。僕、今日こそ見つかる気がするんだよね~」

「・・・んっ?!あぁ、ミイ・・・なぁ、俺ってずっとこの世界にいたよなぁ?」

「この世界?何言ってんの??アスミが五歳の時に僕と契約してからはずっと一緒じゃん」

・・・そうだよな。俺にはこの世界で生まれて今日まで生きて来た記憶もちゃんとある。

 色々と混乱しているが、まずはこの世界で生きて来た俺の話をしよう。

 俺は魔族の国で生まれ、魔王城の城下町で育った。家は日用品がメインのよろず屋だが、実は武器や骨董品まで扱う何でも屋。

父さんは武器マニアで結構な目利きだ。偏屈な武器職人とも仲が良く、武器の品揃えにも定評がある。そのおかげで店はなかなか繁盛している。
そして母さんは、何というか民俗学の学者くずれのような人。常にどこかにフィールドワークよろしく旅立ち、ついでに妙な骨董品を仕入れてくるちょっと困った魔族なんだ。

そんな母さんの影響か、俺は幼い頃から魔族以外の民族に興味があった。

 この世界には、魔族、人族、ドラゴン族が住んでいる。魔族と人族の違いは魔力があるかどうか。見た目はほとんど変わらない。
そして、魔族で魔力が高い者の中には、翼の生えた猫科動物の姿をした契約精霊(後で詳しく説明予定)を持つ上位魔族が存在する。
ドラゴン族には伝説のドラゴンの姿をした契約精霊がいるが、その数は少なく、ほぼ王族としか契約していない。
人族には魔力がない為、基本的には契約精霊はいない。

これがこの世界の前提だ。

 俺が生まれる少し前に、人族の国と魔族の国との国交が始まった。そしてつい最近、魔族とドラゴン族も和解し、今では三カ国で国交がある。その中で一番発展している魔族の国では、人族、ドラゴン族の留学生を受け入れているんだ。

俺は嬉々として、魔族学校に留学生としてやって来た人族やドラゴン族と交流を深めた。
特に、人族なのにオオヤマネコの契約精霊を持つトワと、ドラゴン族の中でも、王族ではないのに、倶利伽羅龍王なんてレアな伝説のドラゴン精霊を持つリュウセイと仲良くなり、色々な話も聞けて大満足(実はこの二人は番で、留学期間が終わるとすぐに結婚した)。 

トワとリュウセイのおかげで、人族とドラゴン族に対しての興味が満たされた俺は、授業の中で知った魔族の中の少数部族に惹かれるようになる。


 昔、山の奥深くで群れを成して暮らしていたという、狼の契約精霊を持つ上位魔族が率いる部族。通称「山狼族(さんろうぞく)」。特定の神を持たない魔族とは違い、山そのものを信仰している。

そして、俺たち魔族との最大の違いは、犬科動物の精霊と契約している事だろう。

しかし、だんだんとその数が減っていったんだ。理由は諸説あるが、犬科動物の精霊の数が猫科動物の精霊より極端に少なかったから?と言われている。

何故か山の限られた場所でしか、犬科の精霊とは契約出来ないようなのだが、年々その数も減っていったらしい。

魔力が多い者のなかには、せめて自分の子どもには猫科動物でもいいから契約精霊を持たせたい、と、山を下りて町の魔族に混じる者も多かったとか。契約精霊がいなければ、普通の魔族と見分けがつかないからね。

すでに伝説のようになっており、実在するかどうか分からない部族だが、俺は絶対に今でも居ると思っている。

だって、精霊が簡単に絶滅してしまうはずがない。ミイに聞いた話では、精霊界では精霊の寿命はかなり長いらしい(契約すると相手の魔族が死ぬと同時に精霊も死んでしまうんだけど)。

だから、かつて狼の精霊が存在したならば、契約前の狼がいる精霊界があるはずで(猫科動物の精霊界と伝説のドラゴンの精霊界は全く別で、ミイはドラゴンの精霊の存在すら知らなかった。狼の精霊界があったとしても同様だろう)、そこに居る精霊と新たに契約した山狼族がいるかもしれないよね??

で、今の時代に誰も見た事がなくても、山奥でひっそりと隠れ住んでるかもしれないじゃん?!だって山狼族は元々、山から山へ移動しながら暮らしていた部族なんだから!

そう結論づけた俺は、魔族学校を卒業後、実家のよろず屋を手伝いつつ、時々山に入り山狼族を探すのが趣味みたいになった。


・・・で、いつもの如く休みの日に朝から山に入った。そんな俺に、どういうわけか全く分からないけど、前世の現代日本で大学生だった記憶が蘇ったんだ・・・

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