【完結】朱雀と白虎は黒を狩る

ルコ

文字の大きさ
上 下
21 / 28
第六章 対決

1

しおりを挟む

 フェス開演の時間だ。

俺とケイはルナエリアにいる。
ちょうど今、最初のDJがプレイを始めたところで、客もフロアに集まり出した。

流石にまだ誰からもホグは出ていない。

ケイとタイムテーブルを確認する。DJが六人で、ソロライブが二人。DJは二時間ずつ、ライブは一時間のようだ。

おそらく夜十一時から始まる一人目のライブ以降が本番だろう。その後、もう一人この地域での人気DJをはさみ、ジュン様のライブ。そして某有名DJへと続く。

もし俺がただ単にこのフェスに遊びに来ていたとして、コバルトを食うとしたらジュン様の前のDJの最中だと思う。やはり日付が変わる辺りか?となるとホグが出るピークは午前一時~二時くらい?

まぁ、早めに食うヤツもいるだろうし、一概には言えないが。早い時間にプレイするDJのファンもいるだろうから。

 六時になり、他のエリアから連絡が入るがまだどこにもホグは見あたらないようだ。こっちもゼロだとメッセージを送る。

七時、八時、とゼロの報告が続く。だが、九時には、ソーラーエリアから六体の青ホグが同じ場所にかたまって出ているとメッセージが来た。

「六体か・・仲間内みんなで食ったって感じかな?」

「そうかもな。ソーラーエリアはそろそろ人気バンドのライブだろ?今からどんどん増えるだろうな。」

ケイが俺の言葉に答える。

「・・・って言ってる間にこっちにも出たよ。」

フロアの前方スピーカーの前辺りに、小さな小鳥とハムスターがふよふよ浮かんで漂っている。

俺はハクを、ケイはセキを出して警戒態勢に入った。

その後もちょくちょくホグは増え、十一時の報告ではソーラーエリアで約三十体、ルナエリアで十二体、コズミックエリアで三体。いずれも普通の青ホグだ。
フードエリアとキャンプエリアではまだ確認されていない。

「・・・こうやって幸せそうに遊んでるだけなら、別に悪い事じゃないように見えるのにね。」

何となくつぶやいてみる。

「そうだな。ドラッグ自体は悪じゃない。コバルトだってPTSDの治療には素晴らしい薬だろ?
だが、治療とは違う目的で摂取するのなら、自分で自制出来なければな。
アルコールと同じだよ。酒に飲まれておかしくなったりアルコール中毒になってしまうヤツがいるように、ドラッグの高揚感や酩酊感が忘れられずに何度も手を出してしまうヤツがいるって事だ。
それに自分の適量も知らずに、キツい作用を持つドラッグを必要以上に食ってぶっ飛んだりするから危険なんだよ。
用法容量は守るべきだろ?まぁ、混ぜ物による不可抗力もあるんだが・・・
日本人はドラッグの事を知らなすぎる。例えば・・大麻と覚醒剤を同じレベルで危険だと思っているヤツの多さは、世界的に見てちょっと異常じゃないか?
実際大麻解禁の国は多いし、医療用大麻は必要だ。逆にアルコールが禁止の国もある。そういった情報を高校ぐらいで教えるべきだと思うがな。」

「そうなんだろうね。だって今も木村博士はビールを飲んでるだろうけど、仕事はちゃんとしてくれそうだし。
俺たちホグハンターだって、コバルトの作用を分かった上でホグを出してるんだ。で、コバルトなしでホグを出せるけど、それはコバルトを一錠食えばどうなるか理解してるから出来るんだもんね。」

「木村博士だけじゃなくゲンも今頃酒を飲んでるだろうなw
そういうヤツらはいいとして、自分の容量も分からずに遊びで食うもんじゃないって事だよ。
海外のようにその土壌があれば軽いドラッグ遊びもいいだろうが。それがどの程度危険なのか理解した上で嗜めるのは日本ではアルコールくらいだろ?
特に精神的に不安定な人間はな。気軽にドラッグに手を出すもんじゃない。素直に精神科を受診したら適切な向精神薬を処方してやるのに。」

 日本のドラッグ問題についてケイと語っているうちに日付けが変わり、青ホグは二十三体にまで増えていた。そろそろきっちりとは数えていられないな。

お腹が空いて来たので、近くを巡回していたスタッフさんにフードエリアからタコスとミンチカツを買って来てもらうように頼んだ。
タコスはケイの分も頼んで無理矢理押し付けた。だって腹が減っては戦は出来ないからね!

午前一時の報告では、ソーラーエリアで約五十体。二体の濃紺ホグを狩り済み。
ルナエリアで約ニ十体。コズミックエリアで八体、フードエリアでも五体は確認済み。キャンプエリアからはまだ出ていない、って言ってもテントの中にいたら分からないよね?

 そしてルナエリアではいよいよJUNのライブが始まる・・・うん、ここからが本番。気合いをいれようっ!!

いきなりMAG初期の代表曲のテクノバージョンからだ。

控えめに言ってもこれは上がる。

コバルトを食って音を鮮明に感じたい気持ちも分かるよ・・・

今、このフロアには三千人ほど入っていて、三十体~四十体くらいのホグが出てるんじゃないかな?みんな気持ち良さそうに空中を漂っている。
曲のサビで観客が拳を突き上げると、ホグも手を上げたり、さらに高く跳び上がったりと楽しそうだ。

俺も音にハマり、自然に体が動く。ハクも俺の頭の上で飛び跳ねているのをケイが苦笑しながらセキと見ている。あぁ、こんな時だけど楽しいなぁ・・・その後もJUNのライブを堪能。結構ガッツリ踊ってしまった。

次のDJがステージに現れ、ジュン様に耳打ちをしている。そろそろ交代の時間かな?

ラストの曲でも盛り上がり、観客のボルテージは上がりっぱなし。ホグも一気に十体くらい増えた。

そして、その興奮がさめやらぬうちに次のDJに突入。時刻は午前三時。
かなり有名なユニットのソロDJなので観客も増えている。別のエリアから移動して来たのかな?

その瞬間、ケイのスマホが震えた。

「・・・ジュンさんだ。『いる』?!」

俺とケイは同時にステージに目を向ける。ステージの後方に下がったジュン様が、俺たちから見て左方向を指差していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―

流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】 どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら 企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。 サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント! ※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

捜査一課のアイルトン・セナ

辺理可付加
ミステリー
──アイルトン・セナ── F1史上最速との呼び声も高いレーサーながら、危険な走法で 「いつか事故るぞ」 と言われ続け、最期はまさにレース中の事故で非業の死を遂げた天才。 そのアイルトン・セナに喩えられるほどのスピード解決。 僅かな違和感から、「こいつだ」と決め打ちかのように行う捜査手法。 それらが「いつか事故るぞ」と思われている様から 『捜査一課のアイルトン・セナ』 の異名を取った女、千中高千穂、階級は警部補。 お供の冴えない小男松実士郎を引き連れて、今日も彼女はあらゆる犯人たちのトリックを看破する。 バディもの倒叙ミステリー、開幕。 ※『カクヨム』『小説家になろう』でも連載しています。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

✖✖✖Sケープゴート ☆奨励賞

itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。 亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。 過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。 母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...