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第六章 対決
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しおりを挟むフェス開演の時間だ。
俺とケイはルナエリアにいる。
ちょうど今、最初のDJがプレイを始めたところで、客もフロアに集まり出した。
流石にまだ誰からもホグは出ていない。
ケイとタイムテーブルを確認する。DJが六人で、ソロライブが二人。DJは二時間ずつ、ライブは一時間のようだ。
おそらく夜十一時から始まる一人目のライブ以降が本番だろう。その後、もう一人この地域での人気DJをはさみ、ジュン様のライブ。そして某有名DJへと続く。
もし俺がただ単にこのフェスに遊びに来ていたとして、コバルトを食うとしたらジュン様の前のDJの最中だと思う。やはり日付が変わる辺りか?となるとホグが出るピークは午前一時~二時くらい?
まぁ、早めに食うヤツもいるだろうし、一概には言えないが。早い時間にプレイするDJのファンもいるだろうから。
六時になり、他のエリアから連絡が入るがまだどこにもホグは見あたらないようだ。こっちもゼロだとメッセージを送る。
七時、八時、とゼロの報告が続く。だが、九時には、ソーラーエリアから六体の青ホグが同じ場所にかたまって出ているとメッセージが来た。
「六体か・・仲間内みんなで食ったって感じかな?」
「そうかもな。ソーラーエリアはそろそろ人気バンドのライブだろ?今からどんどん増えるだろうな。」
ケイが俺の言葉に答える。
「・・・って言ってる間にこっちにも出たよ。」
フロアの前方スピーカーの前辺りに、小さな小鳥とハムスターがふよふよ浮かんで漂っている。
俺はハクを、ケイはセキを出して警戒態勢に入った。
その後もちょくちょくホグは増え、十一時の報告ではソーラーエリアで約三十体、ルナエリアで十二体、コズミックエリアで三体。いずれも普通の青ホグだ。
フードエリアとキャンプエリアではまだ確認されていない。
「・・・こうやって幸せそうに遊んでるだけなら、別に悪い事じゃないように見えるのにね。」
何となくつぶやいてみる。
「そうだな。ドラッグ自体は悪じゃない。コバルトだってPTSDの治療には素晴らしい薬だろ?
だが、治療とは違う目的で摂取するのなら、自分で自制出来なければな。
アルコールと同じだよ。酒に飲まれておかしくなったりアルコール中毒になってしまうヤツがいるように、ドラッグの高揚感や酩酊感が忘れられずに何度も手を出してしまうヤツがいるって事だ。
それに自分の適量も知らずに、キツい作用を持つドラッグを必要以上に食ってぶっ飛んだりするから危険なんだよ。
用法容量は守るべきだろ?まぁ、混ぜ物による不可抗力もあるんだが・・・
日本人はドラッグの事を知らなすぎる。例えば・・大麻と覚醒剤を同じレベルで危険だと思っているヤツの多さは、世界的に見てちょっと異常じゃないか?
実際大麻解禁の国は多いし、医療用大麻は必要だ。逆にアルコールが禁止の国もある。そういった情報を高校ぐらいで教えるべきだと思うがな。」
「そうなんだろうね。だって今も木村博士はビールを飲んでるだろうけど、仕事はちゃんとしてくれそうだし。
俺たちホグハンターだって、コバルトの作用を分かった上でホグを出してるんだ。で、コバルトなしでホグを出せるけど、それはコバルトを一錠食えばどうなるか理解してるから出来るんだもんね。」
「木村博士だけじゃなくゲンも今頃酒を飲んでるだろうなw
そういうヤツらはいいとして、自分の容量も分からずに遊びで食うもんじゃないって事だよ。
海外のようにその土壌があれば軽いドラッグ遊びもいいだろうが。それがどの程度危険なのか理解した上で嗜めるのは日本ではアルコールくらいだろ?
特に精神的に不安定な人間はな。気軽にドラッグに手を出すもんじゃない。素直に精神科を受診したら適切な向精神薬を処方してやるのに。」
日本のドラッグ問題についてケイと語っているうちに日付けが変わり、青ホグは二十三体にまで増えていた。そろそろきっちりとは数えていられないな。
お腹が空いて来たので、近くを巡回していたスタッフさんにフードエリアからタコスとミンチカツを買って来てもらうように頼んだ。
タコスはケイの分も頼んで無理矢理押し付けた。だって腹が減っては戦は出来ないからね!
午前一時の報告では、ソーラーエリアで約五十体。二体の濃紺ホグを狩り済み。
ルナエリアで約ニ十体。コズミックエリアで八体、フードエリアでも五体は確認済み。キャンプエリアからはまだ出ていない、って言ってもテントの中にいたら分からないよね?
そしてルナエリアではいよいよJUNのライブが始まる・・・うん、ここからが本番。気合いをいれようっ!!
いきなりMAG初期の代表曲のテクノバージョンからだ。
控えめに言ってもこれは上がる。
コバルトを食って音を鮮明に感じたい気持ちも分かるよ・・・
今、このフロアには三千人ほど入っていて、三十体~四十体くらいのホグが出てるんじゃないかな?みんな気持ち良さそうに空中を漂っている。
曲のサビで観客が拳を突き上げると、ホグも手を上げたり、さらに高く跳び上がったりと楽しそうだ。
俺も音にハマり、自然に体が動く。ハクも俺の頭の上で飛び跳ねているのをケイが苦笑しながらセキと見ている。あぁ、こんな時だけど楽しいなぁ・・・その後もJUNのライブを堪能。結構ガッツリ踊ってしまった。
次のDJがステージに現れ、ジュン様に耳打ちをしている。そろそろ交代の時間かな?
ラストの曲でも盛り上がり、観客のボルテージは上がりっぱなし。ホグも一気に十体くらい増えた。
そして、その興奮がさめやらぬうちに次のDJに突入。時刻は午前三時。
かなり有名なユニットのソロDJなので観客も増えている。別のエリアから移動して来たのかな?
その瞬間、ケイのスマホが震えた。
「・・・ジュンさんだ。『いる』?!」
俺とケイは同時にステージに目を向ける。ステージの後方に下がったジュン様が、俺たちから見て左方向を指差していた。
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