上 下
8 / 28
第二章 ホグハンター

3

しおりを挟む

 現場では大パニックになっていた。

そこそこ大きいハコだったので、入口にはフロアから逃げて来た人で溢れかえっている。

あ~こりゃ、警察沙汰になるな。流石にそろそろコバルトも「指定薬物」にされそう。嫌だな・・・ますますコバルトのイメージが悪くなる。

人をかき分けて、ケイと俺はクラブの中に入る。すぐに責任者が出て来て現場のフロアに案内された。

ハクを呼び出して頭の上に待機させる。体重はないので重くはない。だが、見た目に間抜けなので何度も肩に乗るように言い聞かせてるんだけど、頭の上がいいらしい。

ケイの左肩にもセキが乗っている。

 サイケデリックトランスが鳴り響くフロアに入る。暗闇の中でミラーボールにストロボの光が反射し、数体のホグが逃げ惑っているのを照らしていた。五体くらいか?

そんな中、黒い蝙蝠の姿をしたホグが、子犬の姿の青いホグを捕まえ、まさに喰らおうとしているのが見えた。

「マコ!黒ホグから青ホグを解放させるようセキが仕向けるから、離れた瞬間黒ホグを攻撃!長引かせるな、即、狩れっ!!!」

「了解!!」

ハクもセキも言葉を理解するので、瞬時に臨戦態勢に入った。

セキが赤い炎を出し、黒ホグに直撃させる。びっくりした黒ホグが青ホグを離した瞬間、風が吹き、青ホグはセキのもとに運ばれる。

そして、何が起こったのか分からず動きを止めた黒ホグにハクが飛びつき、その蝙蝠の首に噛み付いた。

一瞬で蝙蝠の頭と体が切断され・・・黒ホグは消滅する。
 

 今回は、黒ホグが生まれそうな黒いモヤを見たスタッフさんがすぐに朱雀メンタルクリニックへ電話をかけてくれた為、青ホグが喰われる前に間に合った。

まぁ、その人に黒モヤとホグが見えたって事は、コバルトを食ってたって事だけど今回はそれで助かったんだから良しとして欲しい。
稀にコバルトなしでも見える人はいるみたいだけど、あの感じからして食ってたと思う。瞳孔が開いてたしね。

けどそのスタッフさん、ホグハンターになれるんじゃないかな?黒いモヤが見えたって言うけど、普通は他人が出したホグなんて、完全に実体化してても頑張って意識して何とか見える程度だから。

出来たらスカウトしたいくらい。

ホグハンターは深刻な人手不足なんだよ。

隣の県のように自殺者を出さなくてすんだんだ。スタッフさんは警察に任意同行したから、今頃事情聴取を受けているだろうけど見逃してあげて欲しいな。

 あの後、俺たちは子犬のホグを出して黒蝙蝠ホグに捕まっていた女性を保護し、朱雀メンタルクリニックへと帰って来た。ホグを喰われる前だったけど、トラウマにならないように様子を見る為、朝まで緊急入院させる事になったんだ。

黒蝙蝠を出した男性は、別の精神科医のところで治療されている。被害者と加害者を同じ場所で治療するわけにはいかないからね。そしてその男性は、話が出来そうならその後、警察で事情聴取を受ける予定だ。

 俺たちが連れて帰って来た女性は桜井 深結(さくらい みゆ)さん、二十歳。親元から離れ一人暮らしをしている大学生らしい。

バッドトリップにならないよう、ケイが上手く誘導しながら会話をしている。精神科医というより今はセラピストだな。

ケイが桜井さんから聞き出した情報によると、黒蝙蝠を出した男性は大学は違うがインカレサークルで一緒だという事。コバルトを摂取したのは今日が初めて。その黒蝙蝠の男性にもらったらしい。

そこそこの値段がするのは知っていたからお金を払うと言ったが、「気に入ったら次から払ってくれればいいから」と言って強引に渡されたらしい。

それ以上の情報は聞けなかったようだ。

今日の事がトラウマにならないよう、コバルトが完全に切れるまで入院してもらう事になったのだが、ハクが黒蝙蝠を消滅させた時点で恐怖感が消えたとの事だった。

PTSDの治療と同じ効果があったのだろうか?

まぁ、その辺はケイと院長先生が後で議論するだろう。

 桜井さんが落ち着き、コバルトがまだ効いているだろう時間なのにウトウトし出したので部屋を出る。ケイは、当直の看護師さんに定期的に見てもらうようお願いしたようだ。

「コバルト食ってても眠れるんだね。普通、アッパー系はなかなか眠れないんじゃないの?」

自分がコバルトを摂取した時を思い出しながら、疑問をケイに投げかける。

「熟睡は無理だが、体が持って行かれてウトウトするのは普通にある現象だ。浅い眠りで妙な夢を見る事が多い。すぐに起きるとは思うが、少しでも休めるのなら休ませた方がいい。桜井さんは精神的にもかなり疲労しただろうし・・・かと言って鎮静剤なんかを打つと、コバルトとのカクテルで逆にぶっ飛ぶ場合もあるからな。」

「妙な夢って・・・今日の恐怖が夢に出て来なきゃいいけど・・・」

思わず呟く俺にケイが答える。

「まぁ、ハクが黒蝙蝠を消滅させたのを見て恐怖が消えたらしいから、トラウマになるような事はないとは思うが・・・普通に軽い悪夢は見るかもしれんな。」

まぁ、それくらいなら自業自得かな?

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

✖✖✖Sケープゴート

itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。 亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。 過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。 母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アンティークショップ幽現屋

鷹槻れん
ミステリー
不思議な物ばかりを商うアンティークショップ幽現屋(ゆうげんや)を舞台にしたオムニバス形式の短編集。 幽現屋を訪れたお客さんと、幽現屋で縁(えにし)を結ばれたアンティークグッズとの、ちょっぴり不思議なアレコレを描いたシリーズです。

処理中です...