7 / 28
第二章 ホグハンター
2
しおりを挟むそして四年が経ち、俺も今では一人前のホグハンターとして働いている。
朱雀メンタルクリニックでコバルトを用いた治療をする際には、俺が横で待機。
コバルトで出たトラウマのホグは、基本的には治療に当たっている院長先生やケイが狩るのだが、万が一ホグが暴走した場合には俺がきっちりと狩る。
基本、ホグハンターは二人で行動する。
一人が狩り損ねた場合には、もう一人が確実に狩るってわけだ。
コバルトによる治療がない日はほぼ受付と雑用が俺の仕事。
そして週末には時折「濃紺のホグが出た」と、さまざまなクラブから助けを求める電話がかかって来る。
ホグハンターの仕事は週末がメインなんだ。数は少ないが、例え一件だとしても放っておくとPTSD患者が一人増える可能性がある。
まぁ、遊びでコバルトを食った本人の自業自得なんだが、それでもあの恐怖を消せるのであれば絶対に消した方がいい。
クラブ側もコバルトの使用をなくすよう客に呼びかけてはいるようだが、なかなか減らないのが現状だ。
そんなある日、隣の県で黒いホグが出て暴走したというニュースが飛び込んで来たんだ。
「黒のホグ??!」
マジかよ。なんだそりゃ?
暴走するホグは青みが濃くなるほど凶暴でタチが悪い。それが黒って事は・・・?
ケイが続けて話す。
「あぁ、何でも黒のホグは他のホグを喰うらしい。」
「!!!・・・それって・・・喰われた方のホグを出した人はどうなるんだ??」
濃紺のホグに攻撃され、自分が出したホグを傷付けられたり消滅させられたりしただけで、精神的に傷付きトラウマを負う人が続出しているのに。
「・・・錯乱して自己崩壊。挙げ句の果てに自殺したとの事だ・・・」
「・・・・・何で?何でそんな事になるの??!コバルトは・・・決して悪い薬じゃないよ。だって俺は・・・コバルトに救われたんだ・・・・」
「マコ、落ち着け。コバルト自体に問題なくても、混ぜ物がバッドトリップを引き起こしているんだ。それか化学構造式が違うコバルトに似たドラッグか。
今、クラブで出回っているコバルトに純粋な物はほぼない。大概何らかの混ぜ物が入ってるってのは知ってるだろ?」
「知ってるけどさっ?!何で混ぜ物を入れるのっ??!遊びでホグを出すにしても普通の純粋なコバルトを食えばいいじゃんっ!!?」
「まぁ、コストの問題だろうな。巷で出回るドラッグは、医療用の純粋な薬とは違う。アッパー系の高揚感を求めて何の精神疾患もないヤツらが買うんだから。
MDMAにしたって、クラブなんかで買える物で純粋なメチレンジオキシメタンフェタミンの塊なんかないに等しい。
下手したら主成分がパラメトキシアンフェタミンとか。それはもうMDMAじゃなくてPMAだ。構造が簡単で、しかも少量でMDMAの効果を劇的に高めるからと混ぜられてるんだが、効きすぎてヤバいらしい。PMAを混ぜるとかなり安く大量に作れるみたいだしな。
ほぼ覚醒剤ってのもざらにある。
それと同じでコバルトのメチルレンジルメオメタンフェタミンを合成するより、似た成分で作るか、少しの本物に相乗効果のある何かを混ぜたりした方が簡単で安上がりなんだよ。
その分儲けになる。
ホグさえ出せればコバルトだって言い切れるからな。素人でアッパー系ドラッグの効き方の違いが分かるヤツなんて、そんなにいないだろ?」
そりゃそうだろうけどさ・・・
ケイの話は続く。
「けど、この黒いホグってのは、メタンフェタミンやアンフェタミンやらの作用を越えてる気がするんだよなぁ・・『喰う』という行為を促す作用のある何かを混ぜ込んだのか・・・全く、ホグを凶暴化させるだけでなく意志を持って捕食させるなんて狂気の沙汰だよ。」
「そ、そんな・・・捕食する黒いホグを出す薬が混ぜられてるって事?」
何で?!何の意味があってそんな事するんだよ??
ケイが自分の見解を話し出す。
「最近の濃紺のホグの原因はまぁ、覚醒剤に近い成分だと思う。メタンフェタミンもアンフェタミンも人を攻撃的にするし、反動での落ち込みもキツい。それが影響して負の感情の塊的な攻撃型ホグになるんだろう。
だが黒にまでなるっていうのは、それ以上に攻撃的になって捕食したいという欲求を引き起こす何かが混ぜられてるんじゃないかと思うんだが・・・」
「・・・意味分かんない。」
俺の正直な感想だ。
「あぁそうだな。儲けの為に混ぜ物として合成された安い何かが、たまたまそんな作用を引き起こす成分だったのかもしれないが・・・」
「それ以外に何があるっての??」
「さあな?オレにも分からないよ。」
そんな会話をしていたら突然電話が鳴り響く。
ケイが電話を取った。
「はい、朱雀メンタルクリニックです。えっ??!・・・はい・・・分かりました。すぐに向かいます。」
暴走するホグが出たのか??
電話を切ったケイが切羽詰まった顔で言う。
「・・・この近辺のクラブで黒のホグが出たそうだ・・・」
いきなりかよっ?!
さっき黒のホグの話を聞いたばっかりなのに。もうこっちでも出た?って事は・・・同じ種類のコバルト、いや、コバルトもどきが主要都市ですでにばら撒かれてるって事か?
ケイが運転する車に乗り、十五分ほどで繁華街のど真中にあるクラブに着く。都会は信号や一方通行の道が多いから、車だと逆に時間がかかるよな。かと言って、電車はもう動いてない時間だからどうしようもないんだけど。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
✖✖✖Sケープゴート
itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。
亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。
過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。
母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる