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第二章 ホグハンター
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しおりを挟むそして四年が経ち、俺も今では一人前のホグハンターとして働いている。
朱雀メンタルクリニックでコバルトを用いた治療をする際には、俺が横で待機。
コバルトで出たトラウマのホグは、基本的には治療に当たっている院長先生やケイが狩るのだが、万が一ホグが暴走した場合には俺がきっちりと狩る。
基本、ホグハンターは二人で行動する。
一人が狩り損ねた場合には、もう一人が確実に狩るってわけだ。
コバルトによる治療がない日はほぼ受付と雑用が俺の仕事。
そして週末には時折「濃紺のホグが出た」と、さまざまなクラブから助けを求める電話がかかって来る。
ホグハンターの仕事は週末がメインなんだ。数は少ないが、例え一件だとしても放っておくとPTSD患者が一人増える可能性がある。
まぁ、遊びでコバルトを食った本人の自業自得なんだが、それでもあの恐怖を消せるのであれば絶対に消した方がいい。
クラブ側もコバルトの使用をなくすよう客に呼びかけてはいるようだが、なかなか減らないのが現状だ。
そんなある日、隣の県で黒いホグが出て暴走したというニュースが飛び込んで来たんだ。
「黒のホグ??!」
マジかよ。なんだそりゃ?
暴走するホグは青みが濃くなるほど凶暴でタチが悪い。それが黒って事は・・・?
ケイが続けて話す。
「あぁ、何でも黒のホグは他のホグを喰うらしい。」
「!!!・・・それって・・・喰われた方のホグを出した人はどうなるんだ??」
濃紺のホグに攻撃され、自分が出したホグを傷付けられたり消滅させられたりしただけで、精神的に傷付きトラウマを負う人が続出しているのに。
「・・・錯乱して自己崩壊。挙げ句の果てに自殺したとの事だ・・・」
「・・・・・何で?何でそんな事になるの??!コバルトは・・・決して悪い薬じゃないよ。だって俺は・・・コバルトに救われたんだ・・・・」
「マコ、落ち着け。コバルト自体に問題なくても、混ぜ物がバッドトリップを引き起こしているんだ。それか化学構造式が違うコバルトに似たドラッグか。
今、クラブで出回っているコバルトに純粋な物はほぼない。大概何らかの混ぜ物が入ってるってのは知ってるだろ?」
「知ってるけどさっ?!何で混ぜ物を入れるのっ??!遊びでホグを出すにしても普通の純粋なコバルトを食えばいいじゃんっ!!?」
「まぁ、コストの問題だろうな。巷で出回るドラッグは、医療用の純粋な薬とは違う。アッパー系の高揚感を求めて何の精神疾患もないヤツらが買うんだから。
MDMAにしたって、クラブなんかで買える物で純粋なメチレンジオキシメタンフェタミンの塊なんかないに等しい。
下手したら主成分がパラメトキシアンフェタミンとか。それはもうMDMAじゃなくてPMAだ。構造が簡単で、しかも少量でMDMAの効果を劇的に高めるからと混ぜられてるんだが、効きすぎてヤバいらしい。PMAを混ぜるとかなり安く大量に作れるみたいだしな。
ほぼ覚醒剤ってのもざらにある。
それと同じでコバルトのメチルレンジルメオメタンフェタミンを合成するより、似た成分で作るか、少しの本物に相乗効果のある何かを混ぜたりした方が簡単で安上がりなんだよ。
その分儲けになる。
ホグさえ出せればコバルトだって言い切れるからな。素人でアッパー系ドラッグの効き方の違いが分かるヤツなんて、そんなにいないだろ?」
そりゃそうだろうけどさ・・・
ケイの話は続く。
「けど、この黒いホグってのは、メタンフェタミンやアンフェタミンやらの作用を越えてる気がするんだよなぁ・・『喰う』という行為を促す作用のある何かを混ぜ込んだのか・・・全く、ホグを凶暴化させるだけでなく意志を持って捕食させるなんて狂気の沙汰だよ。」
「そ、そんな・・・捕食する黒いホグを出す薬が混ぜられてるって事?」
何で?!何の意味があってそんな事するんだよ??
ケイが自分の見解を話し出す。
「最近の濃紺のホグの原因はまぁ、覚醒剤に近い成分だと思う。メタンフェタミンもアンフェタミンも人を攻撃的にするし、反動での落ち込みもキツい。それが影響して負の感情の塊的な攻撃型ホグになるんだろう。
だが黒にまでなるっていうのは、それ以上に攻撃的になって捕食したいという欲求を引き起こす何かが混ぜられてるんじゃないかと思うんだが・・・」
「・・・意味分かんない。」
俺の正直な感想だ。
「あぁそうだな。儲けの為に混ぜ物として合成された安い何かが、たまたまそんな作用を引き起こす成分だったのかもしれないが・・・」
「それ以外に何があるっての??」
「さあな?オレにも分からないよ。」
そんな会話をしていたら突然電話が鳴り響く。
ケイが電話を取った。
「はい、朱雀メンタルクリニックです。えっ??!・・・はい・・・分かりました。すぐに向かいます。」
暴走するホグが出たのか??
電話を切ったケイが切羽詰まった顔で言う。
「・・・この近辺のクラブで黒のホグが出たそうだ・・・」
いきなりかよっ?!
さっき黒のホグの話を聞いたばっかりなのに。もうこっちでも出た?って事は・・・同じ種類のコバルト、いや、コバルトもどきが主要都市ですでにばら撒かれてるって事か?
ケイが運転する車に乗り、十五分ほどで繁華街のど真中にあるクラブに着く。都会は信号や一方通行の道が多いから、車だと逆に時間がかかるよな。かと言って、電車はもう動いてない時間だからどうしようもないんだけど。
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