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第一章 コバルト
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しおりを挟むケイの声に励まされ、次に実体化出来たのは人形用のような小さなベッド。トウマが寝ていた保健室のベッドのミニチュア版だ。あぁ、やっぱりトウマにキスした事がすべての始まりだからな・・・その象徴のベッドをセキが片足でひと蹴り・・・あまりにも簡単に心のつっかえが消えて行くのでまた笑いが込み上げて来た。
調子に乗った俺は、恐怖の象徴であった階段を出す。ミニチュア階段の周りには無数の目・・・流石に少し怖くなるも、その目は院長先生のペーパーナイフによって切り裂かれ消滅して行く・・・あぁ、俺を見てあざ笑うヤツはもういないんだ・・・そしてセキが翼によるエアカッター?で木っ端微塵にし、階段は消滅した。
自然に涙が溢れる。
「あぁ、セキ・・・ありがとう・・・俺、多分もう大丈夫・・・」
「まだだ、マコ・・・一番思い出したくないヤツがいるだろ?すごくいい感じにホグを出せてるから人間でも出せるはずだ。今ならイケる。そのものじゃなくてもいい。マコのイメージのそいつを実体化しろ。大丈夫。オレもセキも院長もついてる。オレたちを信じて・・・」
ケイの言葉に俺の心が決まった。
あれ以来、極力思い出さないようにしていたトウマの顔を思い浮かべる・・・あいつは・・・何だろう?悪魔?魔王?いや、そんな上等なもんじゃない。どっちかっていうとケイの方が魔王っぽいよな・・・って、俺は自分の思考に驚いた。あんなに好きで、焦がれて、愛していたのに・・・愛して?・・・本当に??
愛なんて言えるようなもんじゃなかったのかもしれない。ただ、スクールカーストの頂点なイケメンの横に居る自分に酔っていただけじゃないのか?確かに顔が良かったし、あの自信満々な態度も高校生の俺にとっては焦がれて崇拝する対象だった。
けど今なら分かる。トウマは全然完璧な男なんかじゃない。あいつは自分以外信じない。そして自分の価値観を押し付け、それに従わない者を排除するただのガキだ。
人として最低じゃないか。
ケイの方がよっぽどいい男だ。
あの高校という閉じられた場所での頂点だっただけ。そう、猿山のボスと同じ・・・
そこまで考えたら、青いモヤモヤの中から自然にトウマに似た猿が見えて来た。普通の猿より小さめの、トウマの顔をした猿・・・青が濃い・・・紺色とまではいかないが、さっきまでのホグより確実に濃い色をしたトウマ猿が俺を見て威嚇する。濃い色のホグは暴走する事がある・・・
咄嗟に込み上げる恐怖心。
「よし!コイツを消滅させればトラウマは消える。大丈夫だ。マコ、オレとセキを信じろっ!!」
セキの色が更に赤みを帯び、赤紫にまでなっている。そんなセキがクチバシを開き、深紅の炎を出した・・・えっ?ホグって青以外の色になれるの?!って、炎の色っ??!完全に赤じゃんっ??!
セキの炎に身を焼かれ、のたうち回るトウマ猿を見た俺は恐怖心を打ち消すべく踏ん張った。あれは猿だ。いくらいきがった所でお山の大将。本物には敵わない。セキの方が、そしてケイの方が格上だ。俺はそんなヤツにいじめられていたのか・・・トウマ猿が何だか哀れに思えて来る。早く消滅すれば良いのに、俺のトラウマが根深いせいかなかなか消えてくれない。
くっそっ!お前なんか所詮猿山のボスだからなっ!!猿はそんなに強くないんだよっ!!ライオンや虎に一撃でやられる存在じゃねぇかっ?!!
俺は、極自然に猫くらいの大きさの虎のホグを出し、燃え盛るトウマ猿を前足で引き裂いた。びっくりしたのか炎を出すのをやめたセキ・・・虎はトウマ猿の首に食らいつき・・噛みちぎった瞬間、トウマ猿は消滅した・・・
「ははっ・・・?!マジかよ・・・自分で出したホグを新たに出したホグで狩りやがった・・・」
「はぁっ?!自分のトラウマを自分のホグで狩るなんて前代未聞だぞ??!」
「ああ。だが、マコは虎のホグを出して自分のトラウマの元凶な猿のホグを狩った。つまり、マコはホグハンターだ。前例はないがそういう事だろう。」
そんな会話をしている朱雀親子を尻目に、俺は自分が出した虎と戯れていた。部屋でかかっていたアンビエントな音楽に身を委ね、ゆったりと虎を漂わせる・・・
・・ねぇ、君。トウマ猿を倒してくれてありがとう。君に名前を付けてもいい?う~ん、君は何だか青白いよね?本当は白いのかな?白虎?・・だったら白夜とか・・・ビャクはどう?えっ?嫌なの?えっと、他に白から連想する言葉・・マシロ・・・ハク・・・ん?ハクに反応した??ハクがいいの?本当にそんな捻りのない名前でいいの?白夜の方がカッコよくない??うわっ?!ごめんっ、噛まないでよ・・・分かった分かった・・・
「・・・君の名前はハクだね?」
ハクは嬉しそうに俺の周りをクルクルと回っている。そんなハクを見ながらケイが言う。
「おい・・・セキって名前をバカにしたくせに自分はハクかよっ??まんまじゃないか!」
「バカにしたわけじゃないよ。ちょっと単純だなぁって思っただけ。それに分かった。いくらカッコいい名前を考えても、ホグ自身が気に入らなかったら意味ないんだね。ハクもハクがいいんだって。」
俺がケイと話していると、ハクはセキに気付いたようで、嬉しそうに擦り寄って行った。セキはそんなハクを興味深そうに観察し、やがてハクを認めたのか翼でハクを優しく包みこむ・・・その瞬間、俺はケイに包まれているような感覚に落ち入り・・・ケイの心に触れた・・・
いつも理詰めで語るからか、少し冷たい印象のケイの胸の内にあったのは・・・
慈愛に満ち溢れた崇高な魂。
・・・あぁ、やっぱりケイは優しい・・・俺を心から心配し、慈しんでくれている。あぁ・・・俺は今、幸せだなぁ・・・
俺・・ケイが好きだ・・・
コバルトのせいでそう錯覚しているのかもしれないけれど・・・これが錯覚なのか本心なのか・・・これからゆっくり考えればいい・・・
とにかく今の俺は・・・ケイが好きで・・・セキに包まれるハクの幸せを・・・俺自身の幸せとして感じている・・・
それがすべてだ。
ーーーーーーーー
こんな治療があるわけない!と言うツッコミは当然あるかと思いますが、架空の物語なのでご容赦くださいませ。
今のところ、まったくミステリーじゃなくてすみません。
ルコ
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