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第一章 コバルト
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しおりを挟むこうして俺は、コバルトを使った治療を受ける事になった。
父と母からも最初は反対されたが、次の診察日に同行し、院長先生から「私もホグを出す為に使用したが、一度の摂取で中毒になる事はない。ホグの暴走も今までウチでは起こった事はないし、万が一そうなってもホグハンターである息子が居る。」などの説明を受け、納得してくれたようだ。
もちろん、いきなりコバルトを投与すると言うわけではなく、しばらくケイにカウンセリングを受けてからになるらしい。今日を含め数回のカウンセリングの後、二週間後に投与と言う事になった。
そして二週間が経ち、その当日、俺はいつものようにリサ姉の車で朱雀メンタルクリニックへと到着。本日の診察時間終了後から始めて、念の為に一泊入院する予定だ。
父と母も同行すると言ってはくれたが、頼み込んでやめてもらった。さすがに家族総出は恥ずかしい。
リサ姉を待合室に残し、早速カウンセリングルームへと向かう。もう帰ってもらってもいいんだが、待つと言って聞かなかったんだ。まぁ、それもそうか。逆の立場だったら俺も待つと思う。家で待っている父母もそうだが、心配してくれる家族がいるってのは心強いしありがたい。
カウンセリングルームには、院長先生とケイがすでに座っていた。あらかじめ説明は受けているので、今日はリラックスする為に普通の会話をするだけだ。
部屋にはアンビエントな曲がかかっている。俺は生音バンドより、テクノやハウスのようなエレクトロミュージックの方が好きなのでいい感じにリラックス出来そう。
そしてついに・・・ケイとリサ姉の高校時代の話を聞いている最中に、俺は出された小さな錠剤をコップ一杯の水で飲み込んだ。
雑談をしながら特になんて事のない時間が過ぎる。だが三十分を過ぎた頃からじんわりと体、特に胃が熱くなり、軽く発汗。更に十分くらい経った頃、突然照明の光が降って来た。キラキラとした光のシャワーが降り注ぐ・・・粒子が見えてる?そんなわけないか。
「えっ?何?綺麗・・・」
「うん、瞳孔が開いてる。光が綺麗に見えるんだろう?効き始めたね。」
院長先生の声が聞こえ「あぁ、俺、瞳孔が開いてるんだ。暗い所で見る猫の目みたいにまん丸になってるのかな?」って、他人事のように思った。
「マコ、そのまま気を楽にして。幸せな気分になって来るから、そのままそれを受け入れて好きにしてればいいよ。」
そう言うケイを見つめていると、顔がニヤけて来る。この人って無駄にイケメンだよな。うん、ワイルドさはないけど凛々しいし・・メガネ取った顔も見てみたいな・・・何だかハグしたくなって来た。
「・・ケイ先生、ハグしてもいい?」
ケイはクスっと笑って・・・
「いいよ?おいで。」
俺はケイにそっとハグをする。ケイの手が俺の頭を撫でる。あぁ、気持ちいいなぁ・・・ケイの手から俺を癒す何かが出てるんじゃないかってほど気持ちいい。手だけじゃなく、ケイの温もりが心地よくて、ペタペタとケイの体を触ってしまう。あ~これってセクハラかな?患者が先生にセクハラ??そのシュチュエーションが妙に面白くてヘラヘラと笑っていると、ケイが俺の顎を親指と中指で両耳の下を挟むように掴んだ。
「マコ、無意識に奥歯を噛み締めてる。なるべく力を抜いて。ほら、これでも噛んでな。」
俺の口を開かせガムを放り込むケイ。そうだ、コバルトが効き始めると無意識で歯を食いしばる人が多いから、なるべく気を付けるように言われてたんだった・・・ガムを噛むと爽やかなミントの風味が口の中に広がる。そして、いかに自分が奥歯を噛み締めていたのかを実感しつつ、顎を動かした。
「幸せで気持ちいいだろ?マコ、オレの相棒を紹介する。そろそろ見えるんじゃないか?」
ん?相棒?
ケイから体を離し、ケイの全身を見つめてみる・・何となく左肩の辺りが青い・・・目を凝らし、集中して見つめていると、その青が鳥らしき輪郭となってボンヤリと見えて来た。青がだんだんと赤みを帯びて紫に近い色味になっている。青なのに、本来は赤色をしているのが何故か分かる・・・街中でよく見る鳩、いや、鴉よりもひと回りほど大きい。
何あの鳥・・やたら物々しいって言うか、何か・・・偉そう??
「オレのホグ、朱雀のセキだ。」
セキは翼を広げて、やっぱりちょっと偉そうに俺を見下ろしている。
「プッ!!セキってもしかして赤って事?単純過ぎない?!せめて紅って書いてコウとかあるじゃん?!」
何かやたらと可笑しい。ヒイヒイ言いながら笑い転げる俺に、セキが再度翼を広げて威嚇して来た。
「まぁ、そう笑うな。セキは自分の名前が気に入ってるんだから。」
「そ、そうなんだ。ごめんねセキ・・うん、分かる。君はコウよりセキって感じだ。笑ってごめん。セキはカッコいいよ。」
すると、セキがケイの肩で満足そうに頷いた・・・やっぱ偉そうっ!!また笑いそうになったが我慢する。
「マコ、セキは強い。お前を苦しめているものなんて翼で叩くだけで消滅させる。だからすべて吐き出せ。」
「そうそう、いっぱい出しなさい。私は相棒のホグは出せないが、患者が出すトラウマの象徴のホグを狩るのは得意だよ。セキがメインを仕留めている間に、雑魚ホグは私が始末してあげるからね。」
ペーパーナイフをもて遊びながら院長先生が言う。そうか、いっぱい出してもいいんだ・・・俺は、事前に教えられたように恐怖の対象を思い浮かべ、いつの間にか周りに見えている青くモヤモヤした煙みたいな物を凝視する・・・
まず形になったのは人の目。普段、こんな物が見えたら恐怖で卒倒しかねないが、今は何も怖くない。ただ「あぁ、俺をあざ笑う目や敵意を持った目はヤダな。で、この一番嫌な目は寒川のだろw」って客観的に思うだけ。数個の目はセキの翼の一叩きで消滅した。少し心が軽くなる。
「いいぞ、その調子だ。他に恐怖の対象は?」
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