【完結】朱雀と白虎は黒を狩る

ルコ

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第一章 コバルト

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 俺もトラウマを持つ元PTSD患者なんだ。

まずはそれに付け加えてカミングアウトをする。

俺はゲイだ。


 最近やっと日本でも同性婚を認めようとする風潮があるが、そういうのが許されるのは都会の一部だけでの話。まだまだ万人に祝福される同性カップルは少ない。
地方ではいまだに同性愛者への偏見があり、差別対象になっている。

そして、都会だと思われている都道府県でも、端っこの方は隣の県と何ら変わりのない田舎なんだ。

俺は、そんな中心部は都会だが、端っこにある田舎な地元でゲイだという事がバレた。
それも大好きだった親友、いや、元親友によって・・・

 
 俺が高校二年生で十七歳だった頃の話だ。

 俺がゲイだと自覚した最初のきっかけは、その元親友への恋心だった。

地元でそこそこの私立進学校なS校に受かった俺は、高校生活を楽しんでいた。たくさんの友達が出来たが、その中でもスクールカーストのトップに君臨するワイルドな美形の元親友、黒野 斗真(くろの とうま)の事が気になって仕方がなかった。男らしい精悍な顔付きで、背も高い。自信漲る雰囲気は人を従わせる何かがあった。

俺もそれなりに整った容姿をしており、トウマは俺といると女子受けがいいとふざけて言っていた。

いや、実際そうで、それだけだったんだと思う。俺が勝手に親友だと思っていただけで、トウマにとっては自分と違うタイプ(俺はどちらかと言うと線が細く女性っぽい顔付きだ)の美形が側にいると見栄えがするし、寄ってくる女子が増える。ってだけの便利な存在だったんだろう。

そして俺は女子には興味がなかったので、トウマは寄ってくる女子を選び放題。俺はトウマが同性愛を毛嫌いしているのも知っていたし、自分の思いを叶えたいなんてこれっぽっちも思っていなかった。

それでも良かった。トウマの側で居られるだけで。

本当に、あの自信に満ち溢れた綺麗な顔を真横で見られるだけで良かったんだ。

 なのに、高二のある日、昨晩女子と朝までヤッていたから睡眠不足だ、と、保健室で眠っているトウマを起こしに行った際に、俺はやらかしてしまった。トウマの寝顔を見ているうちに我慢が出来なくなって、軽くキスをしてしまったんだ。

本当に魔が差したとしか言いようがない。

そしてそのキスで目を覚ましたトウマに殴られた。

「気持ち悪い。二度とオレに近づくな。」

そんなセリフとともに、俺のスクールカーストは最下位に転落した。トウマは俺がゲイだと言いふらし、「同性愛は気持ち悪い、悪だ。排除しろ」という風潮を学校内に作り上げてしまったんだ。ある意味洗脳だよな。

それを率先して煽ったのは、俺の後にトウマの親友ポジションに収まった寒川 優人(さむかわ ゆうと)だ。
トウマに傾倒していたこいつは、ありとあらゆる手段を使って俺を貶めていった。

それはおかしい、と思う者も少なからずいたが、面と向かってトウマにそう言った同性愛擁護者はすべて俺と同じくスクールカースト最下位に落とされ、酷いイジメを受ける事になってしまう。

そしてその元凶な俺はその擁護者からも恨まれるようになり・・・病んだ。

詳細は語りたくないが、昔の戦争を引き起こした人種差別的な、徹底した同性愛者差別が高校で起きたんだ。

・・・俺がトウマにキスをした事によって。

数人居た同性愛者もそれを隠し、俺を攻撃する事によって自分は違うと主張するようになった。俺の味方はいなかった。
先生も見て見ぬふり。トウマはこの辺りでは有名な資産家の息子だったからな。S校への寄付金も相当な額だったようで、口出し出来なかったみたいだ。

いや、一人だけ俺を庇ってくれた先生がいたな。副担任で化学を教える雪村 朔夜(ゆきむら さくや)先生。二十代半ばの若い新任教師だ。
サクヤ先生は担任や校長先生に掛け合ってれたが、誰も取り合ってはくれなかったようだ。そんな訴えはなかった事にされたんだ。
逆に「教師を続けたければ、黒野に逆らうな」って言われたらしい。

うん、そりゃ、俺を庇った事で教師をやめさせられるなんて申し訳ないし。サクヤ先生には「もう俺にかかわらないで欲しい」って伝えた。

サクヤ先生は、出来る限りの事はしてくれた。それでもどうにもならなくて、本当に申し訳なさそうに俺に謝ってくれたけど、全然いい。先生が庇ってくれたって事実は忘れないから。

S校での思い出で、今も嫌じゃないのはサクヤ先生の事くらいだ。
実は今でも時々メッセージアプリで連絡を取っている。で、たまにお茶やランチをする関係だ。


 そしてそんな日々の中、ついに俺は階段から突き落とされ、打ちどころが悪ければ死んでいたかも?という目にあう。

犯人は分からないままだが、誰が犯人でもおかしくない状況だったので正直どうでもいい。ただ、個人的には寒川な気がしている。

幸い軽い捻挫だけで済んだが、このままではいつか殺されるという思いは俺の中から消えなかった。

 俺は今まで家族に愛され、友達にも恵まれていたから、こういったイジメに対する免疫がまったくなかった。サクヤ先生以外は話を聞いてくれず、ただただ悪意をぶつけられる日々に耐え切れるはずもなく、それ以来学校に行けなくなったんだ。

何もせず、部屋に閉じこもる日々。

せめてもの救いは、家族が俺を受け入れてくれた事。父母は戸惑いながらも理解を示してくれた。
これで家族にまで否定されていたら、命を絶っていたかもしれない。兄弟も姉が一人で良かった。もし、弟か妹がいて同じ学校に通っていたら、確実にイジメにあっていただろう。

六歳上の姉の梨紗(りさ)は同性愛に寛容で、「その高校がおかしいだけでマコは悪くない。」と言ってくれた。そして、姉の同級生、朱雀 慧の実家、朱雀メンタルクリニックを紹介してくれたんだ。
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