1 / 28
第一章 コバルト
1
しおりを挟む俺の名前は、白崎 真琥(しろさき まこ)、二十一歳。大学に通いながら、朱雀メンタルクリニックで働くホグハンターだ。
ホグハンター?って何?
当然の質問だね。けどその前に世間のドラッグ事情について説明する。
まず、今の日本ではコバルトというドラッグが蔓延している。正式名称は何たらかんたらメタンフェタミン。カンニングして言うと、メチルレンジルメオメタンフェタミン。俺には何回聞いても覚えられない化学薬品名。
コバルトは日本の製薬会社によって合成された。
PTSDの治療薬として開発された薬で、先に出回っていたMDMAの改良版らしい。MDMAは芸能人も御用達のドラッグとして有名だが、元々は向精神薬として注目されていたんだ。
そしてコバルトも、今度こそ純粋に医療用にと開発されたにもかかわらず、あまりにぶっ飛んだ作用の為に結局ドラッグ好きに一気に広まってしまった。
その作用とは、とてつもない多幸感とともに、自分のトラウマの化身を実体化出来るというもの。そのトラウマは、最初は幻覚として患者の目に映り、次第にホログラムのように見えて来る。患者はトラウマを目にしても、コバルトの効果で多幸感に包まれ、恐怖感が麻痺している為いつものような恐怖は感じないという。
その時の幻覚が青みがかったコバルトブルーに見える為、コバルトと呼ばれるようになったらしい。そして、ホログラムのように見える幻覚はホグ(ホログラムの略)と言われ、次第に形を持った何かとして実体化される。ホグは、ナイフであったり、人の目だったり・・・トラウマの象徴的な小さな物である事が多い。
そのホグを、精神科医が除去する事によってトラウマが取り除かれるってわけだ。
基本的にホグは自分にしか見えないが、同じくコバルトを摂取した者と精神的に同調すれば同じホグを見る事が出来る。何というか、チャンネルを合わせるように相手と同調するんだ。
また元々感受性の高い人間や、過去にコバルトを摂取しホグを出した事がある者にも見える場合がある。まぁ、見えなくても患者の様子から大体のホグの位置は分かるので、精神科医はそれを切り裂いたり握りつぶしたりと、何らかのパフォーマンスでそのホグを除去し、治療する。
しかし、重度のPTSDを持つ患者には使えない。いくら多幸感に包まれていても、耐えきれないトラウマの持ち主には逆効果だからだ。そこを見極めて処方するのが難しく、逆にPTSDを悪化させる例も続出。現在もコバルトは向精神薬として認められているものの、気軽に処方はされなくなっている。
だが、その多幸感とともにホグを出せるという作用に世のドラッグ好きは飛びついたんだ。
クラブのパーティーでコバルトを摂取し、ホグを出して踊り狂うのが流行った。MDMAやコバルトを摂取すると、肌が敏感になり、音楽が鮮明に聞こえ、音が見えるかのような感覚になる。
そして、トラウマのない人間がコバルトを摂取すると、多幸感に包まれ、自分の思いの化身としてのホグが出せる。
一般の人間の想像力では、握りこぶし大のホグが限界で、小さな動物、鳥などの生き物が多く、本人の周りを幸せそうに浮かんでいるだけだ。ひたすらハートを出すヤツもいたな。簡単なアニメのキャラなんかも多い。
摂取後、一時間くらいでホグが出せ、薬が効いている三時間~五時間は持続する。
そして、同調した恋人や友人とハグをすると、ホグ同士でもハグがなされ、それがまたとてつもなく幸せな感情を引き起こすんだ。
また、その状態でSEXをすると、肉体だけでなく、ホグを通して精神的にも繋がるような感覚になり、すごい快感が得られる。後、MDMAでもそうだが、体が弛緩し肛門が緩む。だからゲイ受けがいい。
それだけの効果なら、ドラッグ中毒等の自己責任だけで済むのだが、極稀に起こるバッドトリップがコバルトの厄介な所だ。
コバルトでは、基本的に他のドラッグよりはバッドトリップする可能性は少ない。だが、病院で処方されるような純粋な物ではなく、クラブで出回っているような混ぜ物が入ったコバルトはヤバい。
重度のPTSDを持つ患者のように、負の感情やトラウマがキツイ者が混ぜ物が入ったコバルトを摂取すると、ホグが暴走する事がある。
その悪意が強いほどホグの色は濃くなる。青→紺→濃紺という感じだ。
軽いバッドトリップならちょっと濃い青。だが、暴走するようなホグは濃紺色をしている。
バッドトリップにより、負の感情の塊として放出された濃紺のホグは、なんと周りのホグを攻撃するんだ。そして攻撃を受けたホグの傷や恐怖は、ホグを出した本人にダイレクトに伝わる。こうして新たなPTSD患者の出来上がりってわけ。
俺の仕事は暴走したホグを仕留める事。そう、それがホグハンター。
長かったけど、みんな理解してくれた?大丈夫かな?
朱雀メンタルクリニックには、ホグハンターは二人。俺と、朱雀 慧(すざく けい)、二十八歳のケイは、俺の上司であり、元主治医でもある。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
双子協奏曲
渋川宙
ミステリー
物理学者の友部龍翔と天文学者の若宮天翔。二人は双子なのだが、つい最近までその事実を知らなかった。
そんな微妙な距離感の双子兄弟の周囲で問題発生!
しかも弟の天翔は事件に巻き込まれ――
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
✖✖✖Sケープゴート ☆奨励賞
itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。
亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。
過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。
母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる