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第一章 コバルト
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しおりを挟む俺の名前は、白崎 真琥(しろさき まこ)、二十一歳。大学に通いながら、朱雀メンタルクリニックで働くホグハンターだ。
ホグハンター?って何?
当然の質問だね。けどその前に世間のドラッグ事情について説明する。
まず、今の日本ではコバルトというドラッグが蔓延している。正式名称は何たらかんたらメタンフェタミン。カンニングして言うと、メチルレンジルメオメタンフェタミン。俺には何回聞いても覚えられない化学薬品名。
コバルトは日本の製薬会社によって合成された。
PTSDの治療薬として開発された薬で、先に出回っていたMDMAの改良版らしい。MDMAは芸能人も御用達のドラッグとして有名だが、元々は向精神薬として注目されていたんだ。
そしてコバルトも、今度こそ純粋に医療用にと開発されたにもかかわらず、あまりにぶっ飛んだ作用の為に結局ドラッグ好きに一気に広まってしまった。
その作用とは、とてつもない多幸感とともに、自分のトラウマの化身を実体化出来るというもの。そのトラウマは、最初は幻覚として患者の目に映り、次第にホログラムのように見えて来る。患者はトラウマを目にしても、コバルトの効果で多幸感に包まれ、恐怖感が麻痺している為いつものような恐怖は感じないという。
その時の幻覚が青みがかったコバルトブルーに見える為、コバルトと呼ばれるようになったらしい。そして、ホログラムのように見える幻覚はホグ(ホログラムの略)と言われ、次第に形を持った何かとして実体化される。ホグは、ナイフであったり、人の目だったり・・・トラウマの象徴的な小さな物である事が多い。
そのホグを、精神科医が除去する事によってトラウマが取り除かれるってわけだ。
基本的にホグは自分にしか見えないが、同じくコバルトを摂取した者と精神的に同調すれば同じホグを見る事が出来る。何というか、チャンネルを合わせるように相手と同調するんだ。
また元々感受性の高い人間や、過去にコバルトを摂取しホグを出した事がある者にも見える場合がある。まぁ、見えなくても患者の様子から大体のホグの位置は分かるので、精神科医はそれを切り裂いたり握りつぶしたりと、何らかのパフォーマンスでそのホグを除去し、治療する。
しかし、重度のPTSDを持つ患者には使えない。いくら多幸感に包まれていても、耐えきれないトラウマの持ち主には逆効果だからだ。そこを見極めて処方するのが難しく、逆にPTSDを悪化させる例も続出。現在もコバルトは向精神薬として認められているものの、気軽に処方はされなくなっている。
だが、その多幸感とともにホグを出せるという作用に世のドラッグ好きは飛びついたんだ。
クラブのパーティーでコバルトを摂取し、ホグを出して踊り狂うのが流行った。MDMAやコバルトを摂取すると、肌が敏感になり、音楽が鮮明に聞こえ、音が見えるかのような感覚になる。
そして、トラウマのない人間がコバルトを摂取すると、多幸感に包まれ、自分の思いの化身としてのホグが出せる。
一般の人間の想像力では、握りこぶし大のホグが限界で、小さな動物、鳥などの生き物が多く、本人の周りを幸せそうに浮かんでいるだけだ。ひたすらハートを出すヤツもいたな。簡単なアニメのキャラなんかも多い。
摂取後、一時間くらいでホグが出せ、薬が効いている三時間~五時間は持続する。
そして、同調した恋人や友人とハグをすると、ホグ同士でもハグがなされ、それがまたとてつもなく幸せな感情を引き起こすんだ。
また、その状態でSEXをすると、肉体だけでなく、ホグを通して精神的にも繋がるような感覚になり、すごい快感が得られる。後、MDMAでもそうだが、体が弛緩し肛門が緩む。だからゲイ受けがいい。
それだけの効果なら、ドラッグ中毒等の自己責任だけで済むのだが、極稀に起こるバッドトリップがコバルトの厄介な所だ。
コバルトでは、基本的に他のドラッグよりはバッドトリップする可能性は少ない。だが、病院で処方されるような純粋な物ではなく、クラブで出回っているような混ぜ物が入ったコバルトはヤバい。
重度のPTSDを持つ患者のように、負の感情やトラウマがキツイ者が混ぜ物が入ったコバルトを摂取すると、ホグが暴走する事がある。
その悪意が強いほどホグの色は濃くなる。青→紺→濃紺という感じだ。
軽いバッドトリップならちょっと濃い青。だが、暴走するようなホグは濃紺色をしている。
バッドトリップにより、負の感情の塊として放出された濃紺のホグは、なんと周りのホグを攻撃するんだ。そして攻撃を受けたホグの傷や恐怖は、ホグを出した本人にダイレクトに伝わる。こうして新たなPTSD患者の出来上がりってわけ。
俺の仕事は暴走したホグを仕留める事。そう、それがホグハンター。
長かったけど、みんな理解してくれた?大丈夫かな?
朱雀メンタルクリニックには、ホグハンターは二人。俺と、朱雀 慧(すざく けい)、二十八歳のケイは、俺の上司であり、元主治医でもある。
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