20 / 51
ユイ クラブでライブ
2
しおりを挟むマデリカ二号店から徒歩十分弱。繁華街のど真ん中にあるそのクラブは、昭和の香りが漂うビルの地下にあった。
すでに地上の入口付近にはそれらしい格好をした人々がいて、地下から音も漏れている。
「うわぁ!緊張する・・・」
「大丈夫だよ。こういう夕方からのパーティーは子連れで来てる人も多いし、そこまで閉鎖的な雰囲気じゃないから。て、俺も最初来た時はビビりまくってたんだけどな。」
冬崎先輩の言う通り、子どもも結構いるな。よし、大丈夫だ!
お金を払おうと思ったら、なんとジュン様が四人ともゲストで入れるようにしてくださってるとの事!!
ジュンさんのゲストだよ?!すごくない??!!!
ドリンク代の五百円を払ってドリンクチケットをもらい、手の甲にスタンプを押されて中に入る。
でも、普通に払っても二千五百円でワンドリンク付きって安くない?って思って冬崎先輩に聞いてみたら、音楽重視のクラブで、特にメジャーな海外アーティストとかが出ないパーティーだとこんな感じなんだって。
無料のデイ パーティーも結構あるらしくて、どうやって経営が成り立ってるのか不思議に思った。
階段を降りるとかなり広い空間にテクノが鳴り響いていた。クラブだというのにステージがあって、その上でDJをしている人がいる。色とりどりの照明と、DJの後ろには、映画のような映像が流れていた。
それをじっと見ていると、映画の一場面と、違うシーンや景色、人物などが途切れ途切れに繋がれ、一つの作品となっているのが分かる。
これがVJか!!!
カットアップってヤツだな。すげぇ!!
DJの音にも合っている。音楽と映像が作り出す世界にすっかりハマってしまった俺は、音に合わせて体を揺らしながら、食い入るようにVJが繰り出す映像を眺めていた。
「はい!」
突然冷たい水のペットボトルを差し出されてびっくりした。冬崎先輩とシグだ。
兄は知り合いと話をしているらしい。
「すごく見入ってたね。やっぱりVJに興味あるんだ?」
「はい。凄いと思います。俺もやってみたい!」
「レンさんが紹介してくれるって言ってたじゃん。後で色々教えてもらいなよ。
あっ!そろそろジュンさんに代わる時間だよ。ほら!ジュンさん出て来た!」
あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!ジュン様だ!!生ジュン様!!!
ヤバいカッコ良すぎる。俺鼻血出そう・・・
興奮状態の俺に若干引き気味の冬崎先輩と、分かる分かると頷くシグ。
あれっ?俺ってシグと同類??!
そんな事はどうでもいい。生ジュン様だ、生ジュン様!!
ジュン様は、DJの人と二言三言話した後
、自分のパソコンと機材、ライブセットの前に立った。いよいよ始まる!!!
DJがかけていた曲が終わり、ブン、ブン、とアナログシンセの野太い音が響き渡る。そして、四つ打ちのテクノが展開され・・・えっ?このメロディって・・・ragじゃね??!!!
MAG初期の代表曲のrag だよ!!何これ??rag のテクノmix ??!!!
「冬崎先輩!これrag だよ!!」
「うん!そうだね。こんなバージョン初めて聞いた。カッコいいね!!」
ヤバいヤバいヤバいぃぃぃ!!!
踊るしかない!!!!!
もう、むちゃくちゃ踊った。踊り方なんて分からないから、ピョンピョン飛んだりとにかく本能のままに体を動かした。
フロアも大いに盛り上がっている。
あぁ、もうすぐサビの所だ。
そしたら・・・ジュン様が・・・マっ、マイクで、うっ嘘?!歌ってくださるのぉぉぉ??!!!
「rag rag rag ・・・・・」
あぁぁぁぁぁぁ~!!!!!
ほんのワンフレーズだけだけど、確かにジュン様が歌っている・・・
何この色気??!!!!!
この歌声に魅了されない人なんかいないだろっ??何て言うか・・魂が揺さぶられる歌声?魅惑の魔法をかけられたみたい。心が震えて涙が止まらないよ・・・
涙越しにジュン様をみれば、その後ろには初期から最近までのMAGのライブでの一コマと、ボロボロの服を着た外国(ロンドンかな?)のパンクスが交互に流れる映像。その合間にデザインされた「JUN」のロゴも入る。
あぁ、これだ。俺がしたいのはこういう事なんだ。
そう自覚した後は、ひたすら踊った。この空間にいる事がとにかく嬉しくて、rag のテクノmixがカッコ良すぎて、ジュン様の歌声が尊すぎて・・・
「rag rag rag ・・・・・」
拳を突き上げて、ジュン様と一緒に絶叫して、またひたすら踊った。
ふと横を見るとシグがいて、嬉しくなって抱きつくと、腰を抱いてよしよしと頬を撫でてくれた。
頭はセットが乱れるからな!
そんな気遣いも嬉しくて、ギュッとハグをする。
その後も、俺はひたすらジュン様と映像を見ながら踊り続けた。
この最高な音をレンさんが調整していると思うと、ますますテンションが上がる。
JUNのライブはいろんなセットがあって、デイ パーティーではアンビエントが多いって冬崎先輩が言ってたけど、今日はテクノ寄りだ。ちょっとノイズっぽい曲もあるが、基本踊れる選曲だ。
そしてこの曲・・・何だろう?水の音にゴウゴウとノイズが混じってる感じ?
これもベースは四つ打ちのキックで、引き続き踊れるようになっている。
けど・・何故か胸が締め付けられる。
VJが映す映像も、暗い水の中で何かが蠢いてるイメージ。
ちょっと不安になって、横にいるシグの手を握る。
そこから段々と浮上して行き、何かが水面から顔を出した瞬間、急に色の洪水が溢れ出す。いろんな色がグルグルまわって、一つの矢のようになり何かの元に吸収されて行く。そこに産まれたての赤ちゃんが一瞬映り、あぁそうか、お母さんのお腹の中から赤ちゃんが産まれたんだ。と、理解した。
あの矢はこの先の未来の可能性なんだ。
そこからは、様々な自由なイメージの映像が続く。鳥が空に向かって羽ばたいたり、イルカが海で遊んでいたり。草原を駆け巡るライオンもいた。
そこに、いきなりライブ中継なのかこのフロアが映る。
そうか、同じなんだ。
鳥もイルカもライオンも、このフロアで踊る俺たちも自由なんだ。好きに生きていいんだ。
何となくシグが横にいるって事実に安心しハグをする。シグも優しく抱きしめ返してくれた。
考え込んだのはそこまでで、後は自由にひたすら踊った・・・
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる