【完結】狼の求愛は山に届く

ルコ

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山狼族

ユラ2〜ラウ1

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 こうしてオレとウル、そしてラウの、サンとの生活が始まったんだが・・・

最初にオレたちの関係性をはっきりとさせておこう。

オレとウルは前世のラウの魂が半分ずつ入ってはいるが、別人格の一個人。
だが、精霊と契約者は二人で一人のようなもの。完全憑依して今世のラウになると、ユラとウルの記憶も丸ごと引き継ぐのだから。

つまりラウはユラでありウルである。

完全憑依を解いてユラとウルに戻ってもラウとしての記憶は残る。そう、この三人は文字通り一心同体なんだ。

そして、サンの魂の番はラウ。

だから、いずれ体を繋げる時が来たらサンを抱くのはラウだ。サンはユラもウルも大好きで、キスやハグは当たり前のようにしてくるが、一線を超えるのはラウとだけだろう。

それはオレもウルも暗黙の了解で、お互いに何の不満もない。

だって、二人ともラウになれはサンを抱けるのだから。


 あの運命の出会いの後、初めは毎週末に完全憑依して山まで飛んで行く日々だった。ウルも本心では山でサンと暮らしたかっただろうが、オレに付き合って週の五日は我慢してくれた。

月に一度はトールの一家も山に来るので、ルンもウルや他の犬科動物の精霊に会えて嬉しそうだ。

 そうして数ヶ月経った頃、魔王様に謁見する事になったんだ。両親が犬科動物の精霊の件を魔王様に報告したら、詳細を聞きたいって事で。
山の民は独立した民族なので、魔王様が介入する権利はないんだが、ウルと契約したオレがしばらく街に住むからね。

ライオンを契約精霊に持つ魔王様は、目を見張るくらいの超絶美形の男性。けれど、気さくで優しいお方だった。
山狼族の事を聞かれたので、長から聞いた話をする。口止めされているわけではないので、衛生観念に優れている話もすると、えらく感動された。

その後魔王様は、オレとウルに悪意がない事を確かめ、犬科動物の精霊界と繋がる道はサンの山の一ヶ所だけだと知ると、なんと瞬間移動の方法を教えてくださった。

「ユラのままでは厳しくても、完全憑依してラウとなれば魔力も増えるから大丈夫だろう。これは有益な話を聞かせてくれた礼だ」っておっしゃったんだ。

瞬間移動は、一度行った場所になら一瞬で移動出来る。これで山と街の行き来が自由自在になり、本当に助かった。それまでは、オレが成人後完全に山に移り住む事に対して難色を示していた両親も、一瞬で帰って来れるなら、とやっと認めてくれたんだ。

魔王様には本当に感謝しかない。

 こうして十五歳までの三年間は街と山を行き来しながら過ごし、成人してからは山で三年、長の下で次代の長としての勉強の日々。

 山の民は基本的に放浪民族で、山から山へ渡り歩く集団の総称だ。けれど、サンのこの山は放浪民族の拠点のような場所になっていて、この場所に定住している者も多い。

そして長はこの拠点を守る存在。

基本的には、放浪がキツくなった老人や怪我人や病人が多いが「他の山を渡り歩いたがこの山が一番いい」という者も結構居る。

それに加え、この世界で犬科動物の精霊と契約出来る唯一の場所となったので、子どもが小さい間はここで暮らすという家族も増えた。

だからオレはこの場所を、サンの本体であるこの山を、山の民の故郷として根付かせようと心に決めたんだ。
 

 そして今日・・・

「ユラ!ウル!」   

サンがオレたちを呼んでいる。

 十五歳で山に移り住んでから三年が経ち、オレは十八歳になった。サンと並んでも、もう歳下には見られない。背も伸びたから背伸びしなくてもキスが出来るし、手を背に回せばすっぽりとサンが入る。

オレは胸を張ってサンの下へと歩いて行く。ウルも嬉しそうにオレの横で浮いている。

今日は、オレが長を引き継ぐ日。

そして「山の民」という名称も「山狼族」に変わる日となる。

読み方は「さんろうぞく」。オレが考えたんだ。

「サン」の名が入っているし「ろう」も「ラウ」と「ウル」が混じっているみたいでいい。ユラは入ってないけど、サンと狼で充分だ。オレはラウでもあるしね。

「山狼族」

山の民よりいいと思わない?



 今宵は満月。

月に一度の宴の日。

日が沈み月が夜空に輝く中で、

オレは前の長から長の座を拝受した。

その後は堅苦しい古い慣わしなんかいらない。

みんなひたすら楽しめばいい。  

何かに没頭してトランス状態になり、山とシンクロすれば山(神)と繋がれる。

契約精霊がいる者は完全憑依をし、決まった相手がいるならば、相手のすべてを受け入れるべく体を繋げる。そうすればさらに山とシンクロしやすくなる。
 

 それが山狼族の満月の夜の儀式だ。


オレも完全憑依し、ラウとなっている。
ラウは、成長し立派な美丈夫となったユラの姿をベースに、狼の耳と尻尾、そして白銀の翼を持つ獣人だ。
 
オレはラウだが、ユラとウルの記憶もある。つまりユラもウルもオレなんだ。


 さて、今日はついにサンと体を繋げる日。

サンと再会してからもう六年。何もしなかったとは言わない。しないわけがない。

けど、最後の一線は超えなかった。

オレが不安定なままでサンと完全に繋がるのは、サンに負担をかけると思ったから。

サンは山で、みんなの心を受け入れている。それは山狼族からの一方的な祈りで・・・山を、サンを讃美し、そして自分の願いを押し付ける。そんな行為。
でもそれはサンの糧となる。

けれどオレがそれと同じでは駄目なんだ。

オレはサンと対等でいたい。いや、サンに甘えられるような存在になりたい。

一方的な思いではなく、愛し愛され、その感情に自信を持って・・・

生まれ変わったラウとして、山の神として祈りを糧として生きるサンの、唯一対等な存在となるんだ。

でないと、完全にオレとシンクロしたサンが心から安らげないから。

だから、オレがサンを抱きしめたら、腕の中にすっぽりと収まるくらい大きくなって。

見た目にも釣り合うくらいの外見になって。

そして、山の民改め山狼族の長となり、山のすべてを網羅する魔力と力をも手に入れて。

今日、初めてオレは、自分がサンの横に立つ男である事を認めたんだ。

自分で自分を認めるまでは我慢する。

オレの自分勝手な自己満足にサンも付き合ってくれた。


 そして今日・・・



 ーーーーーーーーー

 な、長かった・・・やっとイチャエロが書けます!

 ルコ
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