【完結】狼の求愛は山に届く

ルコ

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サンの奮闘

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 僕は、長の協力のもと「狼の契約精霊がいるらしい」「この山に来て欲しいと願えば叶う」「子どもたちが契約出来るかもしれない」という噂を山の民にばら撒いた。

元々山を信仰し、狼を崇拝していた民族だ。この山に動物の狼が居なくなってしまった事を、残念に思っていた者も少なくない。

だから狼の精霊がいると知った山の民は、どんな形であれ「狼」をこの山に迎え入れる事を熱望した。

山に住む生命の願いはこの山の、僕の力となる。

僕は自分の願いを山の民に代弁させたんだ。

卑怯かもしれない。

けど・・・それでもいい。なりふりなんて構ってられない。


だって僕は絶対にラウと再会するんだから。


ラウが狼の精霊に生まれ変わって来るかなんて保証はない。それでも可能性があるのなら、僕は全力でその道を作る。


それだけだ。


 そして今日、満月の日に山の民からの願いの力が満ちた。

そんな中、僕は待ちに待っていたラウの気配を察知する。

夕方近くに、今まで感じた事のない気を持つ魔族が僕の中に入って来たんだ。まだ十二、三歳の少年のよう・・・けど間違えようがない。かなり薄いがこれはラウの気配だ。

えっ?魔族??ラウは魔族に生まれ変わったの?なら、犬科動物の精霊界と僕を繋ぐのって無意味なんじゃ・・・

魔族の子が僕の中を進むにつれ、僕はその子の事を理解していく。歳は十二歳で男の子。名前はユラ。透けるような金髪に、意思の強そうな涼しげな目元。まだ幼い顔付きだが、それでも多くの魔族を惹きつけてやまないだろう。それほどまでに魅力的な少年だった。
そして、魔力もかなり高いが契約精霊はいない・・・

 あぁ、そうか。僕はユラを観察して確信する。

この子は半分なんだ。

おそらくもう半分が狼の精霊。

ラウは魂を半分に分けて生まれ変わっていたんだ。

なら・・・今日、僕と犬科動物の精霊界が繋がれば・・・もう半分の狼の精霊がやって来る。

ユラと狼の精霊が出会えば・・・僕のラウに会えるかもしれない!!

もちろん、あのままのラウでない事は分かっている。この子はユラであって、狼の精霊もまた一個人。それでもラウの二つに別れた魂が揃うんだ。しかも完全憑依したなら一つになる・・・

うん、前のラウの記憶がなくてもいい。

だってラウはラウだから。


 夕暮れ時、もうすぐ宴が始まる。

山の民の力が漲り万能感に見舞われた僕は、待ちきれなくなってユラと繋がり話しかけてしまった。
普通は魔族といきなり繋がるなんて出来ないけれど、ユラはラウだから当たり前のように会話が出来た。

ふふっ、びっくりしているユラが可愛い。そして僕に会いたがってくれるんだね。ユラ、早く会いたいのは僕も一緒だよ。いや、僕の方が会いたい気持ちは強いんだ。けど・・・君の魂のもう半分を呼ぶまで待って・・・僕も今はサンの姿を保てないし・・・


 そして宴が始まり、山の民からの祈りの力は一気に加速する。


 結果から言うと、僕は一の滝と犬科動物の精霊界を繋ぐ道を開通させる事が出来た。

それだけ山の民が狼の精霊を求める声は大きかったってわけだ。

けれど、別世界を繋ぐ道を作るのは本当に大変だった。自分の中に異物が入り込む道を自ら作るんだ。しかも自分の核ともいえる場所に。そりゃ、異物感も不快感も半端なく、あって当然。

道が犬科動物の精霊界に繋がろうと、一の滝の流れに逆らってどんどん伸びて行く。それに引っ張られた僕は全力で自我を守る。

山として全力で踏ん張らなければ意識が飛んでしまいそう。自我が何かに侵略されている気分だ。でも僕は踏ん張って、全てを受け入れながらも自分を、この山とサンの意識を守る。

ラウを迎え入れる為に「サン」が消えてしまえば本末転倒だから。

この山が侵略されるわけではない。山に犬科動物の精霊を受け入れるだけ。一の滝に繋がった道を通って僕の中にやって来る精霊たちを受け入れる、ただそれだけの事・・・サンとして何度も何度も繰り返したシュミレーションに山の意識が同調し、やっと道が道として安定していく・・・徐々に異物感や不快感も薄れていった。

 そんな中、ユラからの祈りが届いた。

ユラが僕と狼の精霊を求める祈り・・・

自分の半身を求める祈りは、犬科動物の精霊界からも届く。

そう、ユラの祈りと、ラウの魂のもう半分である狼の精霊からの祈りは、二つの世界をぐんと近づけた。

サンの自我も、その二人の祈りによって強固になる。

もう大丈夫だ。

僕が消えてしまう事はない。


 こうして宴も最高潮に達し、満月が中天に輝く頃、山の民の願いのパワーに後押しされて伸びた道は、ついにこの世界の壁を破って犬科動物の精霊界と繋がったんだ。


その道を、一匹の銀狼が白銀に輝く翼をはためかせながら駆けて来て・・・そう、一の滝の中から飛び出したのは・・・

ラウっ!!!

ラウそのものの銀狼・・・けれど翼があるから契約精霊だ。そして確かにラウの気配がある。ユラよりも記憶が残っているのかな?

どうやら僕の事を分かってくれているよう。

「サン?!あぁサンだ・・・やっと会えた。はぁ、何とかサンの中に来れたよ。けど、おれはまだ完全じゃない。
サンの事もはっきりとは思い出せてないんだ。だから今からおれの半身に会って契約して来るね。
そしたらきっと、ラウの記憶も戻るから・・・ちょっとだけ待ってて!!」

そう言って、すごいスピードで僕の頂上から駆け下りて行く銀狼の精霊・・・僕は慌てて、天幕で寝ているユラを起こす。


 こうして、一の滝と犬科動物の精霊界が繋がった際の影響で、僕の中の全ての生命体が眠りについている中で・・・

ユラは銀狼の精霊と契約し、ウルと名付けた。

そしていきなり完全憑依したユラとウルは・・・ラウとなり、前世の記憶も取り戻した。僕はそんなラウに引き寄せられるように実体化し・・・


サンとしてラウの前に立ったんだ。
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