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サンの奮闘
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しおりを挟むサンの視点に戻ります。全二話。せっかくラウと再会出来たのに、またその前の奮闘編に戻ってしまってごめんなさい。後でもう一話投稿します。
ーーーーーーーーーー
あれから僕は、一の滝と犬科動物の精霊界を繋ぐ為に全力を尽くした。
元々、猫科動物の精霊界とこちらの世界を繋ぐ道は無数にあって、僕の中にも数カ所ある。木の根本が繋がった三本杉、割れた大岩、小さな鍾乳洞・・・そういった派手ではないが、自然の力が漲る場所に道があるんだ。
僕に意思が芽生える前から、本当にごく当たり前のように精霊界に繋がる道はあった。
だから新しく道を繋ぐ事がそこまで難しいなんて思ってもみなかった。もちろん、この世界と繋がりのない精霊界との道だから、ある程度困難な覚悟はしていたんだけど・・・
無から作り出す事の難しさに挫折しそうになったよ。
諦めなかったけどね。
なんて言うかな?まず、僕の中の一番のパワースポットである一の滝に、道を繋ごうとした僕が浅はかだった。
パワースポットという名の通り、一の滝にはこの山の力が漲りすぎていた。今から思えば、あれ程分かりやすく派手な二の滝に道がない事をもっと重要視して考えるべきだったんだと思う。
パワースポットは他からの干渉を嫌い、それを跳ね除けるほどの独自の力がある。謂わばこの山の自我そのものの場所。
だから、最初から他の世界との道を繋ぐ場所ではなかったんだろう。
けれど僕も意地になっていた。
だって、一の滝は僕の源流。
命の源。
そこに道を繋げたかった。
僕とラウを再び繋ぐ道を。
僕の中で一番のパワースポットに。
何度も何度もチャレンジしては失敗。
単純に僕の力不足?
どうしたら道が出来るのかさえ分からないまま、時間だけが過ぎて行く・・・
そうしてやっと気付いたんだ。
この山と「サン」がイコールではなくなっている事に。
僕は山だ。山の意識が実体化した存在。それは間違いない。けれど、山の化身であるサンはラウを中心に考えすぎている。
そしてそれは山として最善ではないんだ。
犬科動物の精霊界との道を繋ぐ事は、山にとっては絶対に必要ではない。猫科動物の精霊が居れば充分。
それが山の意思だった。
だから、一番この山の力が強い場所でそれをやろうとしたサンを山が拒んだんだ。
僕は山に拒まれた・・・
ショックだったよ。だって、自分に拒まれたんだから。
まぁ、それほど僕のラウへの思いが強いって事なんだけどね。僕が「サン」になりすぎているのか・・・けれど、僕がサンなんだから仕方がない。
だから僕は考えたんだ。
山と僕の意思が違うのなら、同じにすればいい。山が犬科動物の契約精霊を必要と認めるようにすればいいんじゃないかな?って。
その日から僕は、山の民と積極的に交流する事した。
ウンピョウの契約精霊を持つ長は健在だ。普通の魔族の平均寿命は百歳くらいだけど、契約精霊を持つ魔族はその倍くらいの寿命になるからかね。
外見も若い時期が長いので、サンの見た目が変わらなくても目立たない。長も百歳はとっくに超えているはずなのに、中年のイケおじにしか見えないし。
その長以外はサンが山そのものである事を知らない。どうやら、街に住んでいてたまに山に来る物好きな魔族、だと思われているっぽい。けど僕にも都合がいいのでその設定のままで通している。
まずはこっそりと長に会って話をする。
長は、あの狼の群れとワイバーンの死闘を子どもの頃に見ている。しかも、その前からの「山は神で狼はその御使い」という信仰に篤い。だから僕はもちろん、狼の事も崇拝している魔族なんだ。
そして、ラウと僕の関係も理解してくれているので今回の話もしやすい。
僕は単刀直入に言った。
「この山に犬科動物の精霊界との道を作ろうと思う。僕の中に狼の契約精霊を迎え入れたいんだ」
「・・・な、なんと!!サン様、素晴らしいお考えでございます。
今思えば、狼が支配していた頃の山は良かった。我々山の民も今より文明は低く、強い魔獣や動物に怯える日々ではありましたが・・・何と言いますか、自然の摂理の理想系であったかと。
山に住む一つの生命として、あの強き群れには、畏怖と憧憬を持って敬わずにはいられませんでした。
狼は神(山)の御使い。それが精霊となってこの山に・・・という事は、これから狼の精霊と契約する子どもが出て来る?あぁ!なんて素晴らしい・・・・・・」
う、うん。思ってた以上に乗り気だな。
なら話は早い。
「けどね、今のままじゃ道は繋がらない。何故かと言うと、誰もそれを望んでいないから。狼や、その他にも犬科動物の契約精霊がいるなんてみんな知らないでしょ?
知らなければ望む事もない。
もし知ったとしても、猫科動物の契約精霊がいるのに、わざわざ他の世界の精霊を望むか分からないよね?」
「はぁ。それはまぁ・・・」
「だから協力して欲しい。山の民が狼や犬科動物の精霊に会いたいと、子どもたちが契約したいと、望むように。
山に住むみんなが望めば、僕はそれを叶えやすくなる。みんなの願いが僕の力になるからね」
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