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ユラとウルとラウ
ユラ1
しおりを挟むそうこうしているうちに、トールのお母さんから撤収命令が出る。オレとトールは、もう寝る時間だと天幕に押し込まれてしまった。
トールのお父さんは山の民の男衆とともに、まだ宴で酒を飲んでいるよう。お母さんはため息を吐きながらも、放っておく事にしたようだ。お姉さん、マリさんと一緒に引き上げ、馬車の荷台へと帰って行った。
天幕の中でも隠し持っていた肉の串刺しを頬張るトール。まだ眠くないからと言い張り、なんだかんだとよく喋る。
しばらくオレも付き合って喋っていたが、トールは途中で串を手に持ったまま眠ってしまった。危ないので手から串を取り上げ、天幕の外に出しておく。
はぁ、流石に疲れたな。
あっ、そうだ。祈らなきゃ。
オレは「狼の精霊と契約出来ますように。そしてサンに会えますように・・・」そう心の底から祈った。
その後もオレは起きていてサンと契約精霊の事を考えていたが、いつの間にか眠っていたようで・・・・・・
・・・ユラ、ユラ、起きて・・・起きて天幕の外に出て・・・ほら、あの子が来る・・・・・・
・・・えっ?ここはどこだっけ・・・あっ、そうだ、山に来てるんだ・・・えっ?えっ?サン???
寝起きで回らない頭の中にサンの声が響く。暗くてよく分からないが、トールのお父さんも帰って来ているようで、イビキが天幕に響き渡っている。
オレは魔法で弱い光の玉を作り、天幕の入口を探した。靴を履き、二人を起こさないようにそっと外に出る。
外に出ると、月の光りが煌々と降り注いでいる山は、昼間のように明るかった。もう光の玉は必要ない。
あぁ、今日は満月だったな。
こんなに明るいのに、山の全てが眠っているかのように静かだ。ここは山の民の集落なので動物たちは近づかないのかな?それでも虫の声一つしないっていうのは・・・?
て言うか、宴ってそんなに早く終わるもんなの?一晩中騒いでるのかと思ってたよ。
中天にかかった月がより一層輝き出したように見える。
「ユラぁぁぁっ!!!」
えっ?!!遠い場所から誰かに名前を呼ばれた。サンからのように頭に響く声ではなく、耳から聞こえるリアルな声。静まり返った山全体にこだましている。
空に浮かんだ何かが、山の上の方からすごいスピードでこちらに向かって飛んで来て・・・なっ、何??!ちょ、逃げた方がいいのか?・・・いや、あれはオレの名前を呼んでいたし、害をなすモノではないはず?それよりも寧ろオレが切望していた・・・精霊??!
「ユラっ!!!はぁ、はぁ・・・やっと会えた。ユラ、おれと契約してっ!!」
びっくりするくらいのスピードで飛んで来た銀色っぽい塊が、オレの前で急停止してそう言った・・・そう、オレの目の前には翼が生えた大きな銀狼の精霊が浮かんでいたんだ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
突然のあり得ない出来事に、オレの脳と体は活動を停止してしまったようだ。
硬直しながら、まじまじと銀狼の精霊を見つめるだけのオレ。
本当に狼の精霊が来たよ・・・ていうか今更だけど、精霊って猫科動物以外にもいたんだ・・・
「ユラ?・・・おれと契約するのは嫌??」
泣きそうな表情の銀狼の精霊・・・それを見た瞬間、オレの硬直が解けた。あぁそうか・・・この子じゃなきゃダメだったんだ。オレの半身はこの銀狼だから。
「あっ、あぁ・・・って、違う違う。契約するのが嫌なわけじゃない!寧ろオレからお願いしたいくらいで・・・」
「本当?!すごく嬉しい!!じゃあユラ、おれに名前を付けて?」
考えなくてもごく自然に銀狼の精霊の名前がオレの口から出た。
「・・・ウル。君の名前はウルだ」
うん。ウルだ。それ以外あり得ない。
「ウル!おれはウルなんだね。うんうん、そうだ、おれはウルだ」
良かった。ウルも納得してくれたよう。
「ねぇ、ユラ。色々と説明したいけど、言葉じゃ伝えきれないから完全憑依しよう!そしてサンに会いに行くんだ!!」
「えっ??いきなり完全憑依って出来るもんなの?普通契約してから何年もかかってやっと出来るようになるんじゃ・・・ってか、サン!サンに会えるのっ?!」
「ははっ!ユラ、落ち着こう。完全憑依は多分出来るよ。だってユラは小さな子どもじゃないし、何よりユラとおれは元は一つだから」
よく分からないけど、確かに五歳くらいで契約すると魔力を完全に制御出来なかったりするのかも。完全憑依は精霊を体内に取り込んで、その精霊の魔力と自分の魔力を混ぜた上で体の中に留めないといけないらしいから、完璧な魔力の制御が必要って話だ。
「まっ、とにかくやってみようよ。おれがユラの中に入るから、ユラはそれを受け入れてくれたらいい。大丈夫。ユラとおれは元々は一つ・・・いや、一匹の狼だったんだ。この山に住んでいて、サンとともに居たんだよ。
おれにも今は断片的にか記憶はないけど、完全憑依したら全ての記憶が戻ると思う」
一匹の狼?!・・・そう言われて納得した。あぁ、そうか。オレはこの山で狼として暮らしていたんだ。サンと一緒に・・・だからあんなに山が恋しかったんだ・・・オレは・・・サンに・・・・・・
「うん、分かった。完全憑依してみよう」
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