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魔族の子
ユラ4
しおりを挟む「じゃあ、私とミール(トールのお姉さん)は食事の支度をしてるから、トールとユラくん、マリちゃんはお父さんと一緒にこの辺りの木の実の採集をお願い。
すぐに日が暮れるから、あんまり遠くへは行かないでね。山の上の方には果物もあるし、そっちの採集は明日の朝からよ」
トールのお母さんの指示に従い、オレとトール、マリさんは、お父さんの後に着いて行く。
集落のすぐ近くにも栗や胡桃、ハシバミが成る木があり、今日はそれらを採集するようだ。少し歩くと、実を付けた木がたくさん生い茂っている山の斜面に着いた。
まずは胡桃の木。熟した実が割れ、中から胡桃の殻が覗いているものが収穫し時らしい。
「じゃあマリちゃん、どの木の実が一番熟してるか憑依して上から見て来てくれるかな?」
「は~い」
マリさんはもう何回もこの仕事を手伝っているらしく、勝手は分かっている模様。猫の精霊と憑依するなり、翼を広げて木の上空へて飛んで行った。
ベージュの翼が夕日に照らされて赤く染まって見える。その美しさに一瞬見惚れてしまった・・・あぁ、やっぱり契約精霊が欲しいなぁ・・・
・・・大丈夫。もうすぐ会えるよ・・・
えっ?!頭の中に声が響いた・・・そして目に浮かぶのは翠色の目をした綺麗な青年・・・サン??!えっ?えっ?どういう事??サンがオレの契約精霊・・・って、んなわけねーだろっ!会えるってサンに??
オレの頭の中はパニック状態だ・・・うん、ちょっと落ち着こう・・・今話しかけて?来たのはサンだよな・・・?サンは・・・よく分からないけど多分契約精霊じゃない。それをオレは知っている・・・何故かは分からないけど・・・じゃあ、誰なんだろう?・・・なんていうか、普通の魔族じゃないよな?・・・えっと・・・・・・サン?君は誰??・・・
・・・僕は・・・・・・えっとね、ユラ・・・ユラが思い出すまで正体は明かせない。ユラ、待ってるよ・・・早く僕を思い出してね・・・そしてもうすぐ会えるのはユラ、君の契約精霊だよ・・・
そっ、そんなぁっ!!!
オレは一刻も早くサンの事を知りたいのに!!で、でも、契約精霊って?!!待って、待って、だからどうゆう事??!
けど、それっきりサンはオレの頭の中に話しかけてはくれなかった。
もういっぱいいっぱいだった。それでも「仕事をしなくてはまたこの山に来れない」という思いから、トールのお父さんの指示に従って必死で働いた。
身体強化の魔法を自分にかけマリさんが見つけた木を揺さぶったり、風魔法で上の方の枝を揺らしたり、と、我ながらいい働きっぷりだったと思う。「いつもより短時間でたくさん採れた」と、トールのお父さんも地面に落ちた実を拾いながら喜んでくれた。
その後もしばらく周辺の木の実を採集し、日が暮れて来た頃にオレたちは、トールのお母さんとお姉さんが待つ集落へと戻った。
「あらまぁ!すごくたくさん採れたじゃない!」
「ユラの魔法であっという間に木の実が地面に落ちるんだ。拾うのが大変だったよ」
出迎えてくれたお母さんに、何故かトールが自慢げに言う。
「何であんたがそんな偉そうに言うのよ?」
「だって、ユラを連れて来たのは俺じゃん?だから俺の功績ってわけで。小遣い増やしてもらえそ」
「それならマリを連れて来たあたしのお小遣いも増えてるはずでしょ?マリが来てから、母さんが行かなくても熟した木の実を探せるようになったんだから」
マリさんが来るまでは、お母さんが一人で木の上を飛び回って採り頃の実を探していたらしい。
「はい、はい、マリちゃんにもユラくんにもかなり助けてもらってるから、本人にはそれなりに考慮して渡すわよ?あんたたちは・・・まぁ、明日の働き次第かしらね?
それより今日は満月でしょ?山の民の宴の日なのよねぇ。そんな日にお邪魔してしまって申し訳ないんだけど、山の民の長は『気にせず参加してくれたらいい』なんておっしゃってて・・・」
あぁ、それで集落の真ん中にある広場に火が焚かれてるのか。人も集まってるみたいだし。
「やったぁ!ご馳走にありつけるんじゃね?」
能天気なトールに対してお母さんはため息を吐きながら言った。
「少しだけ参加させてもらうけど、すぐに引き上げるわよ。ご馳走にがっつくのもなんだし、シチューも作ったからとりあえず食べてからね。
明日は日の出とともに起床よ!山の上の方まで行くんだから。あなた、分かってるでしょうね?お酒も少しだけよっ!」
そう言いながらお父さんを睨むお母さん。お父さんは目を逸らしながらも頷いている。
そうして、トールのお母さんが温かいシチューをよそってくれた。日が落ちるとちょっと肌寒くなって来たからありがたい。もちろんパンも山盛りあったけど、この後のご馳走の為にオレもトールもシチューだけにしておいた。
晩ご飯を食べ終えたオレたちは、山の民の宴に参加した。よく分からないが、何やら祈りを捧げている人や、太鼓のリズムに合わせて踊っている人も多い。
ご馳走もたくさんあった。肉の串刺しや、川魚の串刺し、鳥をまるごと焼いた物、果物などもふんだんに有る。その横にトールの家のパンも並んでいてかなり人気のようだ。
オレたちも山の民の子どもたちと一緒にご馳走をいただく。
「ねえねぇ、何か願い事があるなら山に祈るといいよ。本気で願えば山と心が繋がって通じ合えるんだ。そしたら山がその願いを叶えてくれるよ!宴の日は特にそうなりやすいからみんな祈るんだっ」
「それにね、狼の契約精霊がこの山に来てくれるかもしれないんだったって!もしかしたらあたしと契約してくれるかもでしょ?だから、来てくださいってお祈りするの~」
パンをモグモグと食べながら、山の民の子たちがそう教えてくれた。
狼の契約精霊?!!
もしかしたらオレを待ってるのって・・・祈ろうかな?そうしたら契約精霊の事もサンの事も分かるかも・・・
そう考え込むオレの横で、トールはひたすら肉を食べていた。うん、なんて言うかトールを見ていると安心するなぁ。
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