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魔族の子
ユラ3
しおりを挟むパン屋御一行様の馬車は、予定通り昼過ぎには山の麓の川辺に着いた。隣の山とこの山の間には大きな川があるんだな。
二つの山の上流から流れて来て、この麓で合流した川はなかなかデカい。砂利が敷き詰められた川岸も結構な広さがある。その川岸から山への入り口付近まで来て馬車は止まった。
ここから少し山に入った所に、この山に住む民族の集落があるらしい。毎月来ているトールの家族はその民族とも交流があり、いつもそこに馬と荷台を預けているとの事。他にも何かと便宜を図ってもらっているようだ。
もちろんタダというわけではなく、預かり料の他に大量のパンを渡しているらしい。馬車の荷台に置かれた食べきれない量のパンはこの為だったんだな。山の民にもトールの家のパンは大好評のようだ。うん納得。だって美味いもん!
馬車がギリギリ通れる幅の山道をゆっくりと進んで行く・・・えっ?何??・・・馬車が山に入った瞬間、オレは何とも言えない感情に見舞われた・・・
・・・やっと会える・・・?・・・君に・・・君だよね??・・・君は誰?・・・オレ、絶対に君を知ってるよね?・・・オレは君に会いに・・・けど、君が誰だか分からな・・・どうして?オレは・・・まだ完全なオレじゃないから・・・はっ?何それどういう・・・あぁ、けどオレは君に会いに・・・会いたくて・・・君は・・・君は・・・サ・・・ン・・・・・・サン?!・・・
オレの頭の中に突然少年?いや、青年?の顔が浮かんだ。十八歳くらいかな?オレより歳上だけど線が細く華奢な体つきの、綺麗な顔立ちをした男性が・・・オレを愛おしむような、それでいてものすごく力強い眼差しでオレを見つめている・・・その翠色の瞳には様々な感情が込められていて・・・サン・・・君はサンて名前なの??・・・あぁ、オレはサンを探していたのか・・・はっきりとは分からないけど・・・とにかくオレの心は今、サンを求めている・・・
「ユラ?ユラ!どうしたんだよ?さっきからボーっとしたままで。ほら、山の民の集落に着いたぞ。ここに馬車を置いて天幕を張ったら、早速一仕事だからなっ!」
トールの言葉で我にかえった。
そうだ。オレは仕事をしに来たんだから。ちゃんとやらなきゃ次は誘ってもらえないかもしれない。だめだ、だめだ、オレが子どもの間は気軽にここに来ることは出来ないんだから。この山に来る手段はキチンと確保しとかなきゃ。
じゃなきゃサンに会えない。
「おう、悪い。もう大丈夫だ。えっと、天幕を張るんだっけ?オレ、手伝うよ」
オレは役立つ所を見せようと、自分に身体強化の魔法をかけ、荷台から天幕を軽々と降ろして見せる。そしてトールに言われるがまま組み立てていった。
あっという間に天幕が完成する。
改めて周りを見渡すと、山の民の集落も家というより丈夫な天幕が多い。そう言えば、山の民は放浪民族なんだっけ?ここだけでなく、山のあちこちに移動しながら生活をしているって学校で習ったな。確かここはその拠点となっている中心的な場所で、いつも誰かが在中しているとか。
天幕を建てた場所はそんな集落の端っこの広場で、少し離れた所には簡単な馬小屋がある。パン屋の馬も今日はそこで預かってもらうようだ。
「あらぁ!もう出来たの?いつもより早いじゃない。ユラくんは本当に魔法が得意なのね。身体強化をかけてもそれをコントロールするのはなかなか難しいのに」
へへっ、トールのお母さんに褒められた。オレが建てた天幕は、山の民の住処よりも簡単な作りだからね。組み立てるのは子どものオレたちだけでも難しくない。だだ、結構な大きさなので支柱なども重く、いつもは苦労しているみたい。
この天幕で寝るのは男性陣。トールとオレ、そしてトールのお父さん。元々家族四人で使う大きさの物なので、三人で寝るには余裕がある。
今回は女性陣は馬車の荷台で寝る事になっているそうだ。
寝場所の確保も出来たし、日が沈むまでにはまだ時間がある。オレたちは早速仕事に取り掛かる事になった。
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