【完結】狼の求愛は山に届く

ルコ

文字の大きさ
上 下
15 / 31
魔族の子

ユラ2

しおりを挟む

 オレは今、パカパカと歩む馬に引かれた馬車の荷台でトールとともに揺られている。

幸いな事に山までの道のりはそんなに険しくなく、街と街の間は平坦な草原が続く。草原にはところどころに水場もあり、休憩もしやすい。そしてなんと、朝食、昼食休憩の際にはたくさんの美味しいパンが食べ放題なんだ。

流石パン屋さん!

オレはありがたくパンを頬張り、一緒に用意されていた干し肉も果物もたっぷりと頂いた。パンが本当に美味いんだよ。
食事付きの仕事だなんてありがたい。
母さんが許してくれたのはそれも大きいのかも。「たくさん食べなきゃ大きくなれないわよ!」が口癖だもんなぁ。

 夜明けとともに出発してから結構な時間が経つが、休憩中も馬車で移動している間もいたって平和。この辺りは魔獣や魔鳥も滅多に出ないからのどかな旅だ。

けどそれは、魔王様のおかげなんだよ。魔王様が街周辺に出る魔物や魔獣、魔鳥を徹底的に駆除してくださったんだ。で、実際にそれを遂行した魔族の一人がオレの父さんってわけで・・・その時は話を聞いても「ふ~ん」としか思わなかったけど、こうして遠出をしてみて初めてありがたみが分かった。
父さんに感謝だな。照れくさいから本人には絶対言わないけどね。


 御者はトールのお父さんとお母さんが交代で務めている。荷台には左右の端に板がしっかりと打ち付けられており、座れるようになってはいるが、結構揺れるし正直尻が痛い。

トールのお母さんが、干し草を入れた布を用意してくれていたので何とか座っていられるけど。
トールなんかはそれを枕にして床に寝転がっている・・・って、どうやら本気で寝ているようだ。振動が酷くてとても眠れないと思うんだけど、慣れかな?ちょっと尊敬するよ。

 トールのお母さんと、トールのお姉さんの友だちのマリさんには契約精霊がいる。二人とも猫の精霊。契約者の横でフワフワ浮きながら戯れあっているのが可愛い。

自分で何匹もの精霊を断っておいてなんだけど、正直羨ましい。いいなぁ。オレだって本当は精霊と契約したいんだよ。

はぁ、オレの半身であるはずの精霊は、どうしてオレの前に現れてくれないんだろう。精霊界からオレを見つけられないのかな?オレが何か目立つ事をすればいいのか?

 そんな事を考えながら猫の精霊たちを見つめていると、いつの間にか山が大きく見えるようになっていた。

だんだんと山に近づいて行くにつれ、オレの心に奇妙な感情が湧き出て来る・・・

・・・あぁ、戻って来れた。やっと君に会える・・・

えっ?君って誰?オレは誰に会いたいの?契約精霊??・・・うん、確かに契約精霊にも会いたいし、何なら会える気もするんだけど・・・君とは違うよね?オレが会いたいのは・・・・・・

「ユラ?どうしたんだよ?何か固まってたけど大丈夫か?もうすぐ山に着くぞ」  

いつの間にか床から身を起こしたトールが心配そうにこっちを見ている。

「・・・あっ、あぁ。大丈夫。ちょっと眠くなって・・・」

「ばっかだなぁ!だから俺みたいに早いうちにから寝てれば良かったんだよ。けどまっ、いいんじゃない?その方が夜によく眠れるよ。慣れない天幕じゃ寝付きにくいかもだし」

オレはトールの言葉に曖昧に頷きながら、間近に迫った山をじっと見つめる。

 とにかくこの山にはオレが求める全てがある。そう確信しながら、オレは馬車の揺れに身を任せた。そうして、徐々に近づく山への期待ではち切れそうな胸の高鳴りを・・・無理矢理抑え込んだんだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

処理中です...