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魔族の子
ユラ1
しおりを挟むオレの名前はユラ、十ニ歳の魔族だ。
少し前、街に学校ってやつが出来た。八歳から十二歳の子供に勉強を教えてくれる場所で、オレもそこに通っている。
勉強なんて特に面白くはなかった。元々親に教えてもらっていたから簡単な文字は読めるし書ける。計算も出来るし、魔法だって得意だ。
だから学校なんて時間の無駄だと思っていた。
けど、地理の授業でこの街の周辺地図を見た瞬間、オレの中で何かが目覚めたんだ。
オレは山に行かなければならない。
この街の北側に位置する、晴れていたなら何とか肉眼で見える、けれども遥か遠くにある山へ。
山は二つ並んでいるが、オレが行くべきなのは右側にある山だ。
何故かそれが分かった。
もっと小さい頃から何となくあの山がある方向が気になっていたんだ。気がつくといつもそっちの方を眺めていた気がする。
それが地図に描かれた山を見た瞬間、気になるのは方向ではなく、この山だったんだって気がついたんだ。
けれど山までは遠い。子どもの足で歩いて行くのは無理だろう。
あぁ、契約精霊がいたらな。
憑依して飛んで行けば何とか辿り着けそうなのに。
オレには契約精霊がいない。いや、精霊は何匹も契約したいとオレの前に現れてくれたんだが、全部断った。
だって何かが違うんだ。
精霊が要らないわけじゃない。むしろオレは昔から、自分には何かが足りない気がしていて、その何かはオレの半身となる契約精霊だと思っている。
オレは魔力が多いらしく、かなり上位の精霊も来てくれたんだが・・・豹もジャガーも、ライオンですら断った。白くて銀色がかったユキヒョウにはちょっと心惹かれたけど、やっぱり違うと思ってしまったし。
周りのみんなからは「もったいない」って言われまくったけど、一生を共に生きる相手なんだ。妥協はしたくない。
けどオレももう十ニ歳。契約精霊を持つ魔族は、ほとんどが五歳から十歳のうちに契約する。精霊は子どもの無垢な魂が好きだし、魔力が高い者を好むので、早い内にこれといった魔族を自分のものにするってわけだ。
流石に五歳以下だと幼すぎてきちんと判断出来ないので、精霊も自重しているよう。それでも魔王様になるレベルの魔力の持ち主には、三歳くらいから精霊がわんさか寄って来るみたいだが。それくらいのレベルの魔族となると頭もいいのが当たり前。喋り出す頃にはしっかりと自我も育っているので、三歳でも問題ないらしい。
つまりオレは、精霊との契約を結婚に見立てるなら行き遅れってわけで・・・普通ならもう契約精霊を持てない可能性が高い。
けどオレは信じてるんだ。
どこかにオレの半身が居るって。
そして、その半身に会う為なのかどうか分からないけど・・・とにかく山に行かなきゃならないって思ったんだ。
とは言えオレはまだ子ども。両親は二人とも上位魔族で魔王様の補佐をしている(ちなみに父さんの契約精霊はピューマ、母さんのはカラカルだ)。忙しい身なので「山に連れて行って」なんてわがままは言えない。
だがある日、そんなオレに朗報が舞い込んだ。
「えっ?週末に山で木の実や果物を取る仕事?!」
「そ、ウチはパン屋なんだけどさ。パンに入れる木の実やジャムの材料を月に一度あの山で調達して来るわけ」
学校で同じクラスのパン屋の息子トールが、オレが気になっている山を指差してそう言った。今日は晴れているから山がよく見える。
「俺も姉さんも毎月借り出されるんだけど、今の季節は木の実が多くてさ。人手が足りねーの。だから友だちで手伝ってくれそうな子を見つけろってさ。
姉さんも友だちを一人連れて来る予定なんだ。
土曜の朝早くに出発して、山に着くのは昼過ぎ。それから日が暮れるまで木の実を取って、その日は山に天幕を張って一泊。次の日も朝早くから仕事して昼前には山を出る。帰って来るのは日曜の夜になるけど・・・どう?ユラやらない?」
「やるっ!!!」
その話を聞いて、子どもにしては結構なお金を貰えるこの仕事をやりたいってヤツはたくさん居た。十ニ歳にもなれば家の仕事はもちろん、割りのいい仕事の話があれば出稼ぎに行くのはごく当たり前の事だから。
けどトールはオレを選んでくれた。
魔法が得意なオレが適任だろうって。背の高い木から実を落としたりするかららしい。契約精霊がいて憑依が出来るヤツが飛んで行くって手もあるけど、魔法で一気に落とす方が効率がいいんだって。
棘がある実なんかは手で触れないしね。
正直、契約精霊がいるヤツらよりも、オレの方が魔法のコントロールも上手いんだ。うん、オレが適任。
それに、トールのお母さんには契約精霊がいるから、憑依して飛んで上から実が成っている木を識別出来るらしいし。
まぁ、即答したオレの勢いに押されたのもあるかもだけど。
家に帰ってから両親にも許可をとった。一泊になる事にちょっと渋っていたけど、オレが「どうしても山に行かなきゃならない気がする」って必死で訴えたら、最後には折れてくれた。
オレには行かないって選択肢は絶対になかったから助かった。許可してくれなかったら、家出してでも行くつもりだったからね。
オレの本気が伝わって良かったよ。
そんなわけでオレは今週末、山に行く事になったんだ。
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