【完結】狼の求愛は山に届く

ルコ

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山と月と山

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 その山がある程度の日常を取り戻し、多少の余裕が出て来た頃、僕はラウの話をした。

ラウがサンにとってどれだけ大切な存在かを切々と話す。そして、ラウが狼の精霊として生まれ変わって来るかもしれないという事を・・・だから、どうにかして僕の中に犬科動物の精霊界と繋がる道を作りたいという願望を・・・

僕はひたすら語り続けた。

その山はものすごく親身になって話を聞いてくれた。

・・・羨ましいよ。そんな存在が居たから君はサンとして実体化出来たんだね。うん、わかった。こっちに居る精霊に、犬科動物の精霊界でこことは違う世界に行きたい精霊がいないか聞いてみるよ。そのラウが精霊に生まれ変わっていたら、すぐにでもサンの下へ行きたいだろうから・・・

僕は心の底からありがとうと感謝する。

果たしてラウは、本当に狼の精霊に生まれ変わって来るのだろうか?もちろん魔族として生まれ変わるかもしれない。もしかしてドラゴン族だったりしたらビックリするけど・・・あぁ、その可能性も考えておくべきか?

いや、それはないな。ラウは絶対に魔族か狼の精霊に転生するはずだ。

だってラウはそう言っていた。

ラウは僕に会う為に生まれ変わって来るんだ。

そう思わなきゃ、あの時にラウを死なせてしまった僕を許せない。いや別に、どう考えても力不足だった自分を許さなくてもいいんだけど。

僕は、僕は・・・とにかくラウに生まれ変わって来て欲しい。そして、狼のラウとなら十年ほどしか過ごせなかった日々を・・・魔族となったラウと百年以上過ごしたい。精霊として生まれ変わって来てくれたなら、それ以上の年月を・・・ただただラウと過ごしたいんだ。
 
あっ!ちょっと待って?精霊って契約者がいない状態でもこちらの世界にとどまっていられるのかな?通常、契約出来なかった精霊は精霊界へと帰るよね?えっ、なら僕・・・僕と契約するってのは?山と契約って・・・出来るのかな?
無理なら魔族の誰かと契約するって事??えっと、その魔族は僕の事を受け入れてくれるんだろうか?

 そんな事をつらつらと考えていると、その山から再度返事が来た。

・・・ねぇ!犬科動物の精霊界で、サンの所に絶対に行きたいっていう精霊が居るよ!しかも狼の精霊なんだ。これはもしかしたら本当にラウの生まれ変わりなんじゃないかな?
その子の他にも居るんだ。猫科動物の精霊に興味がある好奇心旺盛な子と寒がりの子。こっちは雪山だからね。寒いのが嫌だから契約してないって精霊が数匹いるみたいなんだ。
けど、そこまで頭数が居るわけじゃないから、サンの所に一箇所道を作ればいいんじゃないかな?・・・

えっ、えぇっ?!ラウ?!!

ラウの生まれ変わりの狼の精霊かもって??!その子が本当に僕の所に来てくれるの??!
しかも他にもこっちに来てくれる犬科動物の精霊が居るって?!

どうしようむちゃくちゃ嬉しい!
本当にラウかは分からないけど、単純に狼がまたこの山、つまり僕の中に存在するかもって事実だけでも嬉しいんだ。

僕はその山にお礼を言って、その精霊たちに「頑張って道を作るからぜひ僕の所に来てください」と伝言を頼んだ。

とりあえず犬科動物の精霊界と通じる道を作らなきゃっ!!

あぁ、やっと、やっとだ。どんな形でラウが戻って来ても迎え入れられる準備が整いそうだ。

・・・本当にラウなのかな?

けど、もしその狼の精霊がラウじゃなくても、ラウに会える日が近づいて来ているような気がして・・・僕は嬉しくて仕方がない。


 僕は山のすべてを俯瞰する。

ぐるりと山全体を見渡して、犬科動物の精霊が僕の中へとやって来る為の入口に相応しい場所を探す。
自然の力が漲る場所・・・真っ先に頭に浮かんだのは滝だ。そうだ滝がいい。

僕の中には二つの滝がある。

まず、山の奥深くにある二の滝。この滝はかなり大きい。百メートルを超える高さから轟音をたてて流れ落ちるその荘厳な姿は、山の生命そのものに見える。
ゴツゴツとした岩肌の間から叩きつけるように流れ落ちた水は、滝壺に到達すると辺りに舞う水霧となり、木漏れ日に反射しキラキラと美しい。

滝壺は広く、深い場所には大イワナやナマズなどヌシ的な巨大魚が住んでおり、浅い場所は動物たちの水場となっている。もちろん魔族が水を汲みに来る事もある。

そしてその二の滝の更に上流には、鬱蒼とした樹木が生い茂る、足場も悪い山の深層がひっそりと広がっている。
そんな、魔族はもちろん動物でさえなかなか辿り着けない場所に一の滝がある。

 二の滝のような派手さはない。岩石の地層から滲み出る水流が、長い年月をかけて削られた岩の間を流れ落ちている。数メートルのそんな小さな滝。


だが、この滝こそが僕(山)の生命の源。


ここを道としよう。


犬科動物の精霊が僕の中へとやって来る道を開通させるんだ。


ーーーーーーーーー

 お読みいただきありがとうございます。

私自身がシリアスな場面は一気に読んで安心したい派なので、ここまで連続投稿とさせていただきました。

明日からは基本一日一回か、たまに二回?の更新となります。そこまで長いお話ではありません。

これからもどうかよろしくお願いいたします。


ルコ
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