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山と月と山
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しおりを挟むまず、月は僕の現状をその山に伝え、会話をする為に繋がる気があるか確認したようだ。
返事は「是非とも」だった。
早速繋がろうと試みるも、流石に遥か遠くにある知らない山に、どうやって思念を送ればいいのか分からない。戸惑う僕に月は言う。
「最初は私が中継するわ。私に向かってあちらの山に話しかけなさい。そのやりとりで波長が合えば直接繋がる事が出来るかもしれない・・・ふふっ、もしラウが狼の精霊として転生するのなら、あたたのこのがんばりは必然なのかもね。でも・・・朝までに無理なら諦めてもらうわよ?」
僕はお礼を言って月に語りかける。その山に伝えたい事・・・まずは大変だったね、と。後は僕に住む魔族について。長が居てみんなをまとめている話。回復魔法が使えなくても出来るよう、軽い怪我などの治療法が広く伝えられている話。などをする。
その治療法とは・・・水を煮沸し冷ました物を常に大量に用意しておく。治療の際にはきちんと手洗いをし、最初に傷口をその水で洗いそのまま清潔に保つ。これだけでかなりの効果があり、軽い傷が化膿して重症化する事が激減する。なぜかというと、湧き水や川の水には微生物などがいて、それらが傷口に入る事によって化膿する事があるからだ。煮沸すれば微生物は死ぬ。
更に出血がある場合には、傷口に清潔な布を押し当て、しばらく上から押さえると止血出来る。
後、体が弱っている者には生水ではなく煮沸した湯冷ましを飲ませる。
そして日常的にこまめに手洗いをする・・・などなど。
どうしてこんな知識があるのかというと、僕に住む魔族の中の一人に前世の記憶があったから。その魔族と繋がった際に知ったんだ。この世界より、めちゃくちゃ文明が発達した世界に住んでいた記憶があるんだって。その代わり魔法がなくて契約精霊もいない世界らしい。
その世界の文明は高度すぎてここでは再現出来ないみたいだけど、このような医術の知識はとても役に立つ。実際、これを実行しただけで死者の数が激減したんだ。
そういった事をその山に伝えようと、月に向かって強く念じる。すると、感嘆したような声が僕の頭の中に届いた。
途切れ途切れに「・・・すご・・・!」とか「ほん・・・と・・・に?」とか。
その山も積極的に繋がろうとしてくれているみたい。僕も負けじとその山と繋がろうと試みる。
・・・まずは相手を思い、感情に同調する・・・あぁ、ケルベロスなんて天災レベルだよ。仕方がない。君はよくがんばった。だってケルベロスを倒したんでしょ?君の中に住む魔族と契約精霊と一緒に。だから今からは、君に住む生命体をこれ以上失わないように努力しようよ。魔族とは繋がれる?なら、繋がった際に怪我の治療法を示唆しなよ。それで助かる魔族は多いはず。だって僕の中でもその方法を試してからは、死者が激減したから・・・
・・・そんな思いをつらつらと垂れ流す僕。けど、そんな僕に心からのお礼が届く・・・「ありがとう!早速実践してみる!」って、今度はクリアな声で・・・あぁ、お月様、ありがとうございます。僕とその山は繋がれたようです・・・
そう月に話しかけるも、返事がない。
月はまた、僕たちを見守るだけの存在に戻ったらしい。
こうして僕とその山は会話が出来るようになった。普通に考えると、別世界と言われるくらい離れた場所にある山同士が繋がるなんて不可能に近いけど・・・それでも僕たちは繋がれたんだ。
おそらく満月の力のおかげだろう。
月には感謝しかない。
まずはケルベロスに壊された山の生態系を戻す為に、僕も知識の限り協力した。魔族の怪我人たちも、軽傷者には僕が教えた対処法で治療した結果、回復魔法待ちの間に重症化する確率が激減したようだ。良かった。本当に良かった。
その間に他の動物や植物のケアもするなど、なんとか山が元の日常に近づくようアドバイスを送る。
その山の生態系が落ち着いて来ると、僕たちは色々な話をした。
僕にはサンって名前があるけど、その山にはもちろん名前なんてない。まぁ「サン」も人型をとった僕の名前であって、山そのものの名前ではないんだけどね。
そうそう、僕が人型で実体化してるっていいのもかなり驚かれた。そんな事考えもしなかったって。
だよね。僕もラウに会わなかったら「サン」として存在する事はなかっただろうから。
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