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契約精霊
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しおりを挟むだが、魔族の老人は犬科動物の精霊については、掘り下げてドラゴン族の男に聞かなかったようだ。目の前にいる伝説のドラゴン精霊に興味津々で、それどころではなかったらしい。
まぁいい。犬科動物の契約精霊がいるって事を覚えてくれていただけでも感謝しなきゃ。
魔族の老人に礼を言い、まだまだ続く宴から離れる。サンが山だとは長くらいしか知らないし、特に不信がられた様子もない。話しながらかなり酒も呑んでいたから、僕の事なんてそんなに記憶に残っていないだろう。
そうか、精霊界は一つだけではないんだ。この世界の魔族は猫科動物の精霊と契約するが、別の世界では犬科動物の精霊と契約する種族が居る・・・
伝説のドラゴン精霊と契約するドラゴン王族は、ものすごく遠い場所とはいえ、この世界に存在している。なら、犬科動物の精霊もこの世界に存在し得るかもしれない。
「ねぇ、お月様。お月様はこの世界を全部見下ろしてるんでしょう?犬科動物の精霊はこの世界のどこかに存在していますか?
それとも、伝説のドラゴン精霊とは違い、全く別の世界にいるんでしょうか?
もしラウが狼の精霊に生まれ変わっていて、犬科動物の精霊界に居たら・・・ここに来る事が出来ないんじゃ・・・」
答えなんて返って来るとは思っていない。だってラウを亡くした日以来、いくら話しかけても月は返事をしてくれなくなったから。
本物の神様ってそんなもんだと思う。絶対的だからこそ気まぐれで、助けてくれたとしても、一から十まで全ての面倒をみてくれるわけではない。
そういう存在なんじゃないかな?
けれど、今日の満月はいっそう綺麗で大きく見えて。その月光を浴びて白く輝く山でもある僕は、いつもとは違う光の温もりに少しだけ期待してしまう。
それだけ今日の僕に降り注ぐ月の光は優しい。
そろそろ月が南中する時刻。満月だからちょうど午前0時か。
じっと月を見つめていると、僕の頭の中に声が鳴り響いた。
「サン、こうやって話をする事はもうないと思っていたわ。でもあなたは予想以上に頑張っているし、ご褒美としてその質問に答えましょう。
まず最初に言っておくけど、私にはラウが何に生まれ変わって来るかまでは分からないの。
生まれ変わる事自体は、私が力を添えたから確実だけど・・・」
・・・えっ?本当に答えてくれた?!
「犬科動物の精霊と契約する種族はこの世界に存在するわ。でも、伝説のドラゴン精霊と契約するドラゴン王族の島よりも、更に遠い場所に生息しているの。だから実際に出会う事はまずないでしょう。
ただ、精霊界とは違って遠いといっても同じ世界ではあるから、そこに行くのは物理的には不可能ではない。
それでも、もし行くとなれば上位魔族が完全憑依して飛んで行く、くらいしか方法はないと思うの。
でも、何日も海の上を飛び続ける事は厳しいかもね。途中で休憩出来る島も一切ない海がひたすら続くから。
だから、もしラウが狼の精霊に生まれ変わっているのなら、何か方法を考えないと」
僕は頭をフル回転させながら月の話に聞き入る。
この世に船は存在するが、そんな長期にわたる航海が出来るような物ではない。船は、近場で漁業をする為か、少し離れた場所への輸送の為の簡単な作りの物だ。だから船で行くというのは無理。
滅多に居ないが、瞬間移動出来る魔族ならどうだろう?一回に飛べる距離に制限はあるみたいだが、何回か繰り返すなら可能かもしれない。そんな瞬間移動と同じ事が出来たら・・・いや、いっその事僕と、その遠くにある犬科動物の精霊が契約する場所を繋げる事が出来たなら・・・
僕は山として生まれてからの事を思い出す。
最初は何の意思もなかった。ただその場にある山ってだけの存在。けれど、いつしか僕は考える力を持った。それは、僕の中に住む生命体たちから力を少しずつもらったから。
そして僕の中に住む者が、心底僕を信仰してくれたりすれば繋がる事が出来る。相手の気持ちが僕に流れ込んで来るんだ。それは、その相手が山から離れ遠くに居ても、相手の思いが強ければ同じように繋がる事が出来る。
祈りが僕に届くって感じかな?
それは精霊同士が一度繋がった相手とは、どれだけ遠く離れていてもすぐに繋がって意思の疎通が出来るのに似ている。
なら・・・
「ねぇお月様。その犬科動物の精霊がいる場所にも山はありますか?」
同じ条件の山なら、きっと意思があるはずだから・・・
「山?そうね。こちらとはまた違った環境だけど、山はあるわ」
良かった。月はまだ会話をしてくれるようだ。
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