3 / 31
雄狼の子と僕
3
しおりを挟むそれから僕とラウはよく繋がって話をするようになった。
会って話すのはもちろん、僕が実体化していなくても繋がって話をする事がある。
まぁ、ラウが居る場所はすべて僕なんだから不思議ではないんだけど、そんな事が出来るのはラウだけだ。
たまに山を信仰する魔族が契約精霊と完全憑依(✳︎ 下記参照)した際に、無我の境地に達し、トランス状態になって僕と繋がる事はある。僕の中で儀式と呼ばれる謎の宴が行われたりしてね。
けどそれは魔族にとっては祈りと同じ行為で、僕と対等に会話が出来るわけじゃない。
なんて言うか、魔族の魂が僕(山の意識)を覗き見して勝手に感動するんだ。
その際に山への賛美をひたすら語られるのは嬉しくはあるけど、それは一方的な言葉の羅列だ。そこに僕との意思の疎通はない。だから僕もそれに応えて多少の恩恵を施すくらいで、その魔族を友だちだと思う事はない。
もちろん、僕の中に住むものはすべて大事だし愛おしいよ?繋がるまで僕を崇拝してくれるなんて非常に喜ばしいし、もっと豊かな場になるよう努力しようという気持ちになる。
けど、ラウは違うんだ。ラウと僕は対等で、きちんと会話が出来る友だち・・・なのかな?よく分からないけど、たった一人の大事な存在だって事は間違いない。
ラウと繋がって話をするようになってから二年近くが過ぎた。
相変わらず僕の中で作られている生態系の頂点は、ラウの親の群れだ。
少数の魔族もいるが、狼の群れには敬意をはらい、刺激しないよう住み分けている。山に住む魔族の間では「山」は神で、狼はその御使いのような認識をされているようだ。
僕が神なんて笑っちゃうけど。
神って、太陽とか月とか、他にはない唯一無二の圧倒的な存在の事じゃないの?
少なくとも僕は太陽や月を崇拝している。太陽の恩恵で僕(山)は豊かに肥えていくし、その太陽が沈んでも、月があるから真の闇夜にはならない。夜行性の動物からしても月は崇拝の対象だ。
それにどうやらラウも月が好きみたいで、二人でよく月を眺めながら話をする。
それは僕たちにとって本当に大切な時間なんだ。
山ではない平地では、魔族が街を作り急速に発展している。そこでの神は太陽だったが、今ではその信仰も薄れているらしい。
魔族は遠い存在の神よりも、自分たちの力を信じ始めたんだろう。
僕の中でも、いずれは信仰心が薄れた魔族が支配するようになるのかな?それだけ魔族の力は強く、生命力、繁殖力にも優れている。僕にはその能力を否定する気はない。
だが、今はまだ僕は神で御使いの狼が生態系の頂点。
そして、僕は今の状況が気に入っている。
すっかり大人になったラウは群れから出て独り立ちをした。普通なら群れから出た雄狼は、自分の番の雌狼を探す旅に出る。そして新たな群れを作り長となるのだが・・・ラウは僕の中から出ようとはしなかった。
ラウは群れからは出たものの、僕の中に居る。しかも、僕が具現化した意識、サンの側に居るんだ(ちなみに僕の姿もラウとともに成長し、成人したての魔族と同じくらいの見た目になっている)。
「ねぇラウ。君は番を探しに行かなくていいの?群れから出た雄狼は、番の雌狼を探して新しい群れを作るんだよね?」
「・・・サンはオレに出て行って欲しいの?」
「えっ?!そうじゃない!!僕だってラウがここに居てくれるのは嬉しいよ?けど・・・群れを出たって事は新しい家族を作りたいんじゃないの?」
「新しい家族を作りたいってのは合ってるけど・・・オレが家族になりたいのはサンとだよ」
「・・・僕は山だよ?」
「知ってる」
「ラウは番の雌狼に子を産んでもらって、新しい群れを作る未来を選ぶべきだ」
「どうして?」
「どうしてって・・・それがラウの、狼としての幸せだから」
「勝手に決めつけないでよ。オレの幸せはサンと一緒に居る事だ。狼としてなんか関係ない。だって、オレはラウだから。ただの狼じゃない、サンが付けてくれたラウって名前があるから。
だからオレは・・・お月様に誓って言うよ。狼としての幸せよりラウとしての幸せを取る」
そう言い切られて僕は考え込んでしまった。
僕は、いずれラウが長となった狼の群れが僕の中の頂点に君臨するのだと、そう思っていた。
ラウの勇姿を見守る気満々だったんだ。
群れの長になるのなら、当然番の雌狼とたくさんの子を成すって事だ。狼の群れは、ファミリーで構成されているのが当たり前だから。ちょっと胸がチクッとするけど、それには気付かない振りをしていたのに・・・
僕はラウを望んでもいいの?
「・・・ラウは本当に僕と居るのが幸せなの?」
「だからさっきからそう言ってるよね?確かにオレは狼だけど、それよりもラウっていう一個体だから。で、そのラウはサンと居る事が幸せなんだ。いい加減理解してくれないと怒るよ?」
ーーーーーーーーー
✳︎ この世界の魔力が高い一部の魔族は、猫科動物の姿で翼を持った精霊と契約しています。
そして、その精霊が魔族に憑依すると人型の魔族に精霊の耳と尻尾が生え、背中に翼がある獣人のような姿になれます。そして戦闘能力などが上がります。
契約精霊について詳しく書いた章が後で出て来るので、今は何となく認識だけしていただければ・・・
ルコ
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
かくして王子様は彼の手を取った
亜桜黄身
BL
麗しい顔が近づく。それが挨拶の距離感ではないと気づいたのは唇同士が触れたあとだった。
「男を簡単に捨ててしまえるだなどと、ゆめゆめ思わないように」
──
目が覚めたら異世界転生してた外見美少女中身男前の受けが、計算高い腹黒婚約者の攻めに婚約破棄を申し出てすったもんだする話。
腹黒で策士で計算高い攻めなのに受けが鈍感越えて予想外の方面に突っ走るから受けの行動だけが読み切れず頭掻きむしるやつです。
受けが同性に性的な意味で襲われる描写があります。

鬼は精霊の子を愛でる
林 業
BL
鬼人のモリオンは一族から迫害されて村を出た。
そんなときに出会った、山で暮らしていたセレスタイトと暮らすこととなった。
何時からか恋人として暮らすように。
そんな二人は穏やかに生きていく。


【完結】神様はそれを無視できない
遊佐ミチル
BL
痩せぎすで片目眼帯。週三程度で働くのがせいっぱいの佐伯尚(29)は、誰が見ても人生詰んでいる青年だ。当然、恋人がいたことは無く、その手の経験も無い。
長年恨んできた相手に復讐することが唯一の生きがいだった。
住んでいたアパートの退去期限となる日を復讐決行日と決め、あと十日に迫ったある日、昨夜の記憶が無い状態で目覚める。
足は血だらけ。喉はカラカラ。コンビニのATMに出向くと爪に火を灯すように溜めてきた貯金はなぜか三桁。これでは復讐の武器購入や交通費だってままならない。
途方に暮れていると、昨夜尚を介抱したという浴衣姿の男が現れて、尚はこの男に江東区の月島にある橋の付近っで酔い潰れていて男に自宅に連れ帰ってもらい、キスまでねだったらしい。嘘だと言い張ると、男はその証拠をバッチリ録音していて、消して欲しいなら、尚の不幸を買い取らせろと言い始める。
男の名は時雨。
職業:不幸買い取りセンターという質屋の店主。
見た目:頭のおかしいイケメン。
彼曰く本物の神様らしい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる