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雄狼の子と僕
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しおりを挟むえっ??僕の意識に直接話しかけてるのは・・・この子?!
僕の目の前には、もう弱い個体じゃなくなった雄狼の子が居る。
「オレをたすけてくれてありがとう。君がいなかったらオレはうまれてすぐにしんでいた。ほんとうにかんしゃしてる。
それでね、だいすきな君がだれなのかずっとかんがえてたんだ・・・オレとずっといっしょにいてくれる君は、母さんよりもやさしくてあたたかい。父さんよりもそんけいしてるし、兄弟のだれよりもだいすきなんだ!
そんな君は・・・だれなの?ねぇ、君のことをおしえて?」
尻尾をパタパタと振りながら僕を見つめる雄狼の子の眼差しが、長が番を見る目と重なる・・・いや、そんなわけはない。この子の番は狼のはずだ。
この山に、つまりは僕の中にいなくても違う山に居るかもしれない。
けど・・・
「ねぇ、君のなまえは?まぞくにはひとりひとりになまえがあるんでしょ?
君がいっぱいはなしかけてくれたから、オレはいろいろかんがえるようになったんだ。それで君のなまえをしりたいなっておもって。オレにはなまえなんてないからね。
父さん母さん、兄弟たちにもはなしかけてみたけど、なまえはないしオレのいってることも、ぜんぶはわからないみたいだし・・・」
「分からない?」
「うん。こんなかんじにはなしかけてるんだけど、クゥーンとかキャンとか、おおかみのことばでしかかえってこないから。
もちろん、オレもおおかみのことばもしゃべれるよ?っていってもかんたんなことばしかないけど。おおかみのなきごえだと『おなかすいた』とか『あそぼう』『たのしい』『いやだ』『あぶない』『ねむい』『だめ』みたいにしかはなせないんだ。
おおかみはほかのどうぶつよりはかしこくて、おさのいうことをみんなきくけど、オレと君みたいにはしゃべれないみたい」
「そうなんだ。でも雄狼の子は喋れる・・・っていうか、色々考えてるんだね。けど残念ながら僕にも名前はないんだ」
そう、雄狼の子は喋ってはいない。僕の意識に直接話しかけているんだ。
「その『雄狼の子』ってのやめてほしいんだけど・・・そうだ!ねぇ、おたがいになまえをつけあおうよ。オレもなまえがほしいし、君のことをなまえでよびたい」
それはとてつもなく魅力的な提案だった。
「いいよ。雄狼の子は・・・ルプ、ロウ、いやラウ・・・うん『ラウ』はどう?」
「ラウ?・・・ラウ・・・いいね!きにいった。じゃあ君は・・・えっと『サン』ってどうかな?!」
「サン?すごく素敵な名前・・・ありがとうラウ。サン・・・そうか、僕はサンなんだ」
その瞬間「僕」は「サン」となり、山の意識が具現化された存在であった僕は、サンとして完全に実体化されたんだ。
あやふやな姿ではなく、サンという人物として固定された。
まぁ、それでも僕が山である事に変わりはないんだけど。
「うん!じつはね、オレ、まえから君のなまえがなんなのかかんがえてたんだ。で『サン』ってなまえがにあうんじゃないかなぁって。
だって君のくろっぽいけどひかりにあたるとみどりにみえるかみのけも、キラキラひかるうすいみどりのめも、ほんとうにきれいだから。それにかおもすごくきれい!そんなきれいな君ににあうなまえは『サン』だとおもうんだ」
「そ、そうなんだ。すごく嬉しいよ。ねぇ、ラウは今、僕と繋がってるんだけどどうやってその方法を知ったの?」
「つながる?」
「そう、ラウは僕の意識に直接話しかけてるんだ。それは僕の心と繋がってるって事。僕は・・・この山の意識だから・・・僕を、山を、心の底から大切に思ってくれる存在が祈ったりして無我の境地に達した時に、たまに繋がる事が出来るんだけど・・・」
ラウは少し考えてから言った。
「・・・よくわからないけど、オレはいつもサンをたいせつにおもってるよ?その『むがのきょうち』がなんなのかわからないけど、オレはいつもサンのことをおもってるから・・・しらないうちにそうなってたのかもしれないね。
そうか・・・サンはこの山そのものなんだ。だからやさしくてあたたかいんだね」
僕が山だとすんなり納得するラウ。
僕はそれがすごく嬉しくて・・・本当に優しくて温かい気持ちになったんだ。
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