十三歳の聡

茶熊

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1章 退屈から多忙へ

新学期

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聡「母さんの料理ってほんと美味しいよね」

俺はテーブルに並べられた卵焼きとウインナー、フレンチトーストを見ながら言った。

母「何、急にどうしたの?」  

聡「いや、なんでもない」

母「なら、いいけど…早く食べなよ!」

ホカホカの朝ごはんなんて本当に久しぶりだ。
見ると目の前には弁当も置いてある。
弁当なんていつ振りだろうか…
自分の為にご飯を作ってくれる相手が居るということに温かみを感じる。

聡「んじゃ、行ってくるなー!」

母「はい、行ってらっしゃい」

聡「そういや母さん、俺って何年何組だっけ?」

母 「は?」

頭でも打ったんじゃないのという顔をした母さんに学年とクラスを聞いて俺は久々に中学校へ向かう為に家を出た。
車が二台あるのを見て、そうかこの時はまだ父さんと共働きだったんだということを思い出した。
父さんが家にいなかった所を見ると、もう仕事に行ったみたいだな。


なんと懐かしい景色だろうか。
毎朝、この長い坂を上っていったなぁ…。
去年久々に正月、実家に顔を出した時には取り壊されてた公園もまだ残っている。

色々、思い出に浸っていると懐かしき母校に着いた。
割と遅刻ギリギリだったので靴箱を探して急いで教室まで走っていく。
後ろから誰かが走るなという怒鳴り声がした気がするが、まぁいいだろう。

聡「うわ…懐かしい…」

教室には懐かしい面々が教室で先生が来るのを待っていた。
俺の席どこだっけ。
近くにいた同級生に自分の席がどこなのかを聞いた。

「俺の隣だよ!
夏休みのたった1ヶ月でもう忘れたのか?」

俺の中では夏休みから12年経ってるんですけどね。
あと、君誰だっけ…顔は覚えてるんだが、ぼんやりとしか名前が出てこない。

聡「あぁ、ありがとう
そういえばさ…ちょっとノート見せてくれない?」

「ん?いいけど」

六瀬康太(むつせこうた)…
あぁ…あの六瀬か。
部活一緒だったわ。

聡「さんきゅ!」

康太「うい」

中学卒業してからは別の高校にお互い進学して連絡もとらなくなったんだよなぁ…。
中学三年間、同じクラスで部活も同じなだけあって1番仲良かったっけ。

康太「1時間目いきなり世界史だよ…
 絶対寝ちゃうわ笑」

聡「うわマジかよ、寝ないように頑張らないと」

康太 「いいよなお前は、勉強できてさ~
俺、世界史とか全く頭に入らねぇもん」

聡「別に頭良くねーよ笑
授業ちゃんと聞いてたら何とかなるだろ」

あっなんかこの会話、学生っぽい。

1限目から5限目が終わり6限目の体育が始まる。
康太からスポーツテストがあると聞いて、そういえばそんなの学生の時にあったなぁなんて思っていた。

康太「今日は50m走とシャトルランと握力測定をやるらしいぞ」

聡「げっ50m走とシャトルランかよ」

康太「聡、そんなに遅くないだろ」

聡「まぁそうだけどさ…」

康太は運動が出来た。
体育祭はリレーでいつもアンカーだったし本人も勉強できない分、運動神経に経験値全振りしてるなどと言ってた気がする。

聡「あ、康太の番だ」

50m走は三人一組で走る。
康太は他の追随を許さない圧倒的なスピードで走り抜いた。

聡「何秒だったの??」

康太「6秒9!
7秒切れたのマジで嬉しいんだけど!」

中学二年で6秒9って凄いな…
えっと二年の男子の平均タイムは7秒84か。
めちゃめちゃ早いな。

「森田~!」

俺の名前が呼ばれた。
中学の時どうだったかな…確か平均よりは早いくらいだった気がするけど。

「よ~い…ドン!」

久々だな本気で走るのは。
かなりしんどい。
俺は真ん中だったので、ちらっと左右に目をやると誰もいなかった。
どうやら俺は1番のようだ。
まぁ他の二人が鈍足なのだろう。
走り抜けた俺は先生にタイムを聞いた。

「森田、6秒7!」

聡「え」

「お前、去年は7秒6だったんだぞ
かなり速くなったな!
学年一位の山下でも6秒8だ。
部活でラントレーニングでもしてるのか?」

聡「そ、そうっすね…めちゃめちゃしてます。」

康太「速かったな~聡!
何秒だった?」

聡「6秒7だったよ」

康太「嘘だろ!?
夏休み部活以外でも走り込みでもしてたのか!?
めちゃめちゃ速くなってるじゃん!」

聡「そうなんだよ、康太に負けてられないからな!」

短距離走は学年でも中の上くらいだった気がするが…
その後のシャトルランでも握力測定でも俺は学年一位の数字を叩き出した。

康太「まるで別人みたいだ、どんなトレーニングしてたのか教えてくれよ笑」

聡「いや、会社の帰りに週3でジムに通ってただけだけど」

康太「会社?」

聡「間違えた部活!」

康太「へぇ…俺もジムに行こうかな!」

どうやらそのままなのは記憶だけではないようだ。
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