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仲直りの後の代償?
しおりを挟むポッチィーゲームで蓮さんと怜くんが………。
怜 「あっぶねぇ!」
ギリギリのところでポッチィーを折ってキスを回避した怜くん。
周りからは、「惜しい」とか「ちゃんと受け止めろ」とか「ふざけすぎー」とか……。
笑い声が絶え間なく続きます。
でも……。
何でだろう……。
何故か僕は………。
見たくない。
大翔 「…空……?……大丈夫か?」
大翔くんの声が笑い声の中でポツリと聞こえた。
少しだけ目を大翔に向けると……。
心配そうな目で僕を見ていた。
ふざけてやってるはずなのに、皆と同じ気持ちになれないのは、何故?
四人が僕に、「ふざけているように見えない」って……。
今の僕と同じ気持ちになるから?
蓮 「皆の期待を裏切るな!」
皆って、僕は?
怜 「期待とかの前に俺には、ちゃんとキスしたい人がいるからイヤなんだよ!」
怜くんのキスしたい人って?
蓮 「初耳だな。だったら、その子いるんだろ?今日、来てないのかよ?」
怜くんは、どんな女の子がタイプなの?
怜 「呼ぶとか呼ばないとか兄貴に関係無いだろ!」
蓮 「まだ片想いなのか?お前、結構手出すの早いと思ったが、奥手なんだな。ガキだなホントに!」
もう、イヤだ……。
聞きたくない……!
怜 「いいんだよ!今は、このままで!〈友達として〉で!」
怜くんのその言葉を聞いた時に、僕は、大翔くんとの事を思い出してしまった。
だって、怜くんが言った「友達として」って……。
結局は。
〈友達のフリ〉ってことでしょ?
蓮 「友達から恋人になって別れた後も、また友達に戻って付き合うつもりか?随分と身勝手な考え方だな!」
〈友達〉から〈恋人〉に……?
それは………。
亜木人「喧嘩してる場合じゃ無いです!時間が…!」
ベルが鳴る。
校内放送が流れ、制限時間のお知らせが。
こんなバカみたいな文化祭……。
何のために嫌な女装して…。
頑張っても頑張っても、僕は、やっぱり何も………。
友達なんて………。
〈僕には、必要無い〉。
黒木 「………着替えてくる……。」
下を向いたまま僕は、立ち上がった。
存在感の薄い僕。
声が小さい僕。
誰も気づかない。
誰も聞こえない。
ザワザワする教室を一目散にダッシュして出ていく。
大翔 「空!」
大翔くんが僕が出て行くのに気付いた。
そのまま追いかけて行く。
怜 「大翔!俺が追いかけ……!」
グッと怜くんの腕を掴んで止めたのは、
智 「怜さん!……大翔さんに追わせてあげて下さい…。…お願いします。」
亜木人「…大丈夫なんだろうな?…また同じ事、繰り返すんじゃ……。」
智くんは、亜木人くんの方を振り向いて、少し笑みを見せた。
智 「…バカは、バカですけど…。……同じ〈後悔〉をしてしまうほどのバカでは、無いと僕は、信じています。」
その言葉に亜木人くんも笑みで返した。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
僕は、泣いていた。
小さい僕しか隠れられない場所。
掃除用具のロッカー。
誰にも気づかれないし、こんな場所に隠れるなんて思わないから。
僕みたいな人間には〈違和感がない〉。
誰かの足音が聞こえてきた。
近くまで来てるけど、気づかないよ。
大翔「…昔っから、そういう所に隠れるの上手いな。」
声で解った。
「昔から」って言葉で解った。
でも、声の距離で直ぐ側にいない。
離れて話しかけてるけど…。
大翔「…ずっと言いかった事がある…。…そのままで良いから聞いてほしい…。」
…………僕は。
何も答えずそのまま大翔くんの話を聞くことにした。
大翔「…俺の突発的な発言で空を傷つけた。…ごめん……。…ホントに、〈友達〉だって思ってたんだ…最初は。…成長していく途中で俺は、友達っていう〈枠〉から離れて行くのが解った。空が俺の事を〈友達〉というなら、全然その〈枠〉で良かったんだよ…。…でも、高校くらいは、一緒になりたかった。…俺は、バカだから受からなかったけどな…。…〈嘘〉なんて付かなくても俺は、空の〈友達〉でいれたんだ。二重に重なった事で俺は、空を責め立てた…。〈友達なんて思ってない〉って、言い方がおかしかったって、智にも言われたよ。…俺は、また空と〈友達〉になりたい…!…折角、空が新しい〈友達〉に沢山囲まれてるの見てたら、安心したんだけど…俺も…戻りたい…。…あの頃みたいに……。」
今、僕は…………。
大翔くんを……。
泣かせてしまってるの?
僕は、ゆっくりとロッカーの扉を開けた。
距離がある大翔くんの顔を見ると……………。
大翔「…空……ご…ごめ…っ…ん……!」
黒木「…ぅ…っ…!…大翔くん!!」
僕は、大翔くんの側まで走った。
そして、大翔くんに抱きついて泣きじゃくった。
僕が悪いから、本当は、僕が謝らなきゃいけなかったのに。
何で、こんなに僕の事を心配してくれる〈友達〉を僕は、平気で〈友達なんか辞める〉なんて言ってしまったんだろう。
大翔くんが僕に〈恋愛感情がある〉って、言ったのだって、僕は、ずっと〈差別〉してた。
お父さんとお母さんが〈同性愛者〉でも、表向きは、理解していても、きっと何処かで〈差別〉してた。
僕の生まれてきた環境が悪いって、僕の見た目が悪いって。
そんなの……。
ただ逃げてただけ。
本当に、最低だ。
黒木「…ごめん…な…さぃぃ~……。」
大翔「…空…俺の方が…悪いんだよ…。…ごめんな…。…ずっと〈後悔〉してたから…。」
黒木「…僕も…ぅ…ずぅ~…っと……謝らなきゃって……。」
大翔くんは、もうあの頃よりも背が伸びた。
僕の身体に大翔くんの腕が回ると、懐かしい気持ちになった。
お父さんが良く僕を抱きしめてくれた。
友達が出来た時も、凄く喜んでくれた。
いつか会わせたいって思っていたのに、僕は、大翔くんと智くんに〈嘘〉を言って、切ってしまった。
大翔くんが話した事を上手く解読することが出来なかった。
成長と共に変わる心と身体。
僕は、成長が伸び悩む中、きっと周りは、もう解ってる事なのかも。
身体だけじゃなく、心も小さいなんて…………。
大翔「…皆の所に戻ろ……な?」
黒木「……ぅん……。」
大翔くんと一緒に皆の所に戻る廊下で僕は、大翔くんがさっき言っていた答えを出した。
黒木「……こんな僕で…良ければ……〈友達〉に……なってください……。」
大翔「……こちらこそ…宜しくな…。」
大翔くんが僕の手を握った。
昔みたいに強く優しく。
離れることが怖かったのは、大翔くんも一緒だったんだ。
身体が離れても。
心までは、離れない。
大切な。
君と過ごした。
〈記憶があるから。〉
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
生徒 「…最下位だって……。」
皆は、途方に暮れていた。
そこに雅くんが保健室から戻ってきた。
亜木人「雅、大丈夫か?」
亜木人くんが駆け寄ると雅くんは、睨み付けた。
雅 「…最後に厨房仕切ってたの誰だよ?」
生徒 「…確か……黒木。」
怜くんと亜木人くんは、嫌な予感がした。
雅 「じゃあ、黒木のせいで負けたんだな。厨房仕切ってたなら、食材の確認くらいするだろ!」
皆は、言い返せなかった。
下手に僕をかばえば、自分も責められる。
その恐怖から何も言えない。
雅くんは、皆に言いたい放題自分の不満をぶちまけ始めた。
それを聞いていた智くんと蓮さんと直也さん。
蓮 「……あーあ。…やっぱガキだな…。」
智くんが蓮さんに言う。
智 「…ポッチィーゲームなんてくだらない事しなければ最下位では、無かったと思いますけど……。」
蓮 「何事も経験が大事なんだよ。思春期の内に出来ることは、やっといた方が社会に出てから役に立つ場合がある。」
智 「……ポッチィーゲームは、社会に出ても役に立ちそうもないですよ……。」
雅くんの怒りは、MAX。
雅 「何で黒木を厨房に入れたんだよ!役に立たねぇだろ!」
怜 「言い過ぎだろ!雅が怪我したから代わりに黒木を入れたんだよ!」
雅 「誰が黒木を俺の代わりに入れさせたんだよ!誰だ!名乗れよ!」
亜木人「いい加減、落ち着けよ!黒木戻ってきて、こんな所見たら、責任感じて不登校になったら、お前責任取れんのかよ!」
直也さんは、ボソッと言った。
直也 「……そんなん、連帯責任やろ…?」
その声は、決して大きくもないのに、皆に聞こえていて静まり返る教室。
雅 「……っ…!大体なぁ!黒木は、おかしなトコあるんだよ!」
怜 「…は?」
雅 「あんなに、女装しても違和感ないし!……もしかして……〈男なのに男が好きとか〉?」
その言葉に怜くんと亜木人くんがキレた。
雅くんを殴りにかかる時に智くんと蓮さんが止めた。
ただ……。
雅くんの胸ぐらを掴んだ直也さんは、止められなかった。
蓮 「おい!」
直也 「…安心しろ蓮……!……流石に殴ぐらんけどなぁ~…お前、アイツの事、なんも知らんくせに、ベラベラ喋りよって……!」
雅 「ぐぅぅ!!」
直也 「…ええか?…〈可愛い〉までは、セーフや。…ただそれ以上の言葉は、アウトや!…女装して、一番嫌気さしとるのは、アイツや!…自分からふざけたくても、そんな風に受けとめられるんがどんなに嫌か、お前には、一生解らんやろなぁ…?…これ以上、えぐるなや!…お前は、皆の責任をただ一人のアイツに責任負わせて、逃げとるだけや!…集団生活しとるんやから、誰のせいとか無いやろ?…特に一番相手が傷付く言い方して、何がしたいん?服従させて、思い通りにしたいだけちゃうか?」
雅 「…ぐ…っ…!…何だよ……!……何で…?……てめぇ…黒木と…どういう関係なんだよ……!」
直也さんは、少し睨みを弱くした。
そして………。
直也 「……黒木は……黒木空は……俺の………お…」
黒木 「…今、戻り……ん……?」
扉を開けたら、皆、僕を見てた。
何も知らない僕と大翔くんは、顔を合わせて。
「何かした?」って感じで目を合わせた。
蓮 「…帰る…。」
そう言って蓮さんは、直也さんの肩を叩いた。
既に雅くんから手を離していたので、何があったのかは、解らない。
帰り際、直也さんは、僕の頭を軽くポンッと触った。
直也さんの目は、凄く優しい目だった。
結局、直也さんは、僕の知ってる直也さんなのかは、聞けなかった。
怜くんと亜木人くんが駆け寄って来た。
怜 「黒木、大丈夫?」
黒木 「…うん。…もう、大丈夫……。」
亜木人「……〈仲直り〉…出来たか?」
二人に話したんだ……。
その言葉に、僕は、迷わず。
黒木 「…うん。」
★☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
大翔くんと智くんも帰ってから、皆で片付け。
元の制服に戻って、黙々と片付けていたけど……。
皆が僕を避けているように感じた。
また振り出しに戻ったみたいに。
大翔くんと智くんと、また友達に戻れた。
まるで、それと引き換えに高校の友達を失ったみたいに……。
怜 「…黒木……あのさぁ……。」
なんだか怜くんまでよそよそしい。
黒木 「…なに…?」
怜 「…ごめん……。」
……………え?
………何が?
怜くんは、そう言ってまた片付けを始めた。
何に対しての「ごめん」なんだろう……?
ワカラナイ
ワカラナイ
★☆★☆★☆★★★★☆★☆★☆★
大翔くんと智くんの帰り道での話。
智 「…来て良かったですね。」
大翔「…まぁな。」
智 「…大翔さん。ありがとうございます。」
足を止めて頭を下げてお礼を言う智くん。
大翔「…別にいいって…。…お礼言わなきゃいけないの俺だし……。」
智 「…本当に大翔さんには、いつもヒヤヒヤさせられますよ…。」
大翔「それ俺のセリフだ!空に対してヒワイな発言ばっかりしやがって…。…お前のせいだからな智。」
智 「…お互い様ですよ。…それよりも……。」
智くんの目が少しだけ遠くなった。
大翔「……それよりもって…?」
智 「…怜さんのお兄さんといた人、直也さんの事ですよ。……案外、黒木さんと深い関わりがありそうですよ…。」
その言葉に大翔くんも少し目が秋めいた夕焼けの遠い空を見上げた。
大翔「…大丈夫だろ……。…何があっても俺らが〈守ってやればいい〉……そうだろ?」
智くんは、大翔くんの顔を見て同じように空を見上げた。
そして、笑みを浮かべながら、
智 「……黒木さんの女装の制服、ムラムラきました。」
大翔「ほんっとヒワイだな!そんな目で見んな!」
智 「…そういう大翔さんこそ、顔が凄く緩んでましたよ。人の事言えないですよ。」
大翔「うるせぇ!緩んでたのは、怜だろ!俺を怜と一緒にすんな!」
そして蓮さんと直也さんも帰り道での話。
蓮 「……直がキレるなんて珍しいな。」
直也さんの目線は、少し下を向いている。
直也「…ホンマに……何でやろな……。」
蓮 「……〈黒木〉と聞いて直ぐには、ピンとこなかったが……。…顔見ると直に似てなくもないな。」
直也「……似とって当たり前やろ…。」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
片付けが終わって帰る僕の背後に誰かが歩いてきていた。
ただ同じ道を歩いていると思ったけど………。
なんか違う。
何故か歩く歩幅を僕に合わせている感じがした。
いつもと違う道を通っても。
……………付いてくる。
怖くて後ろを振り向けない。
もう日が短くなって夕方5時でも暗い。
少し早歩きしても、それに合わせている。
段々と距離が近くなるのが解ったから、一気にダッシュしようとした時。
強い力で左肩を掴まれた。
栗生「…はぁ…はぁ…制服姿……萌えるぅ~…♪」
気持ち悪い声と吐息で血の気が引いた僕。
僕にこんな事を言う人は、ただ一人。
黒木「……………く、栗生…さん……。」
栗生「…あぁ~ん♪…空ちゃんに名前呼ばれるなんて…股間が反応…」
黒木「Stop making obscene statements!(卑猥な発言やめろ!)」
栗生「…空ちゃんだけだよ…僕のMっ気を覚醒させてくれるのは……♪」
僕は、思いました。
栗生さんには、勝てる気がしない。
どんなに罵倒しても痛めつけても、栗生さんにとっては、〈愛のムチ〉に捉えられて、喜びになるから。
逆効果だった。
栗生さん…………。
僕の前から消えてよー。
栗生「…ところで…どおだった?文化祭!」
何で知ってるの…?
怖い~。
黒木「…まぁ…あの…最下位…。」
栗生さんは、凄くビックリした顔をした。
栗生「…そっかぁー。…残念だったね…。…でも、空ちゃん頑張ったんじゃない?皆の為に黒漆くんに頼んで制服準備したり!…結果は、どうであれ頑張った事に変わりないんだし!…来年こそ、最後だからね。」
栗生さんに励まされるなんて……。
どうしよう……。
泣きそうになる……。
帰りまで誰も話し掛けてくれなかった。
怜くんも亜木人くんも雅くんに呼び出し受けて帰って来なかったし。
栗生「…空ちゃん…?…元気出して。ね?」
黒木「…ありがとうございます…。…大丈夫です…。」
栗生さんて変態だけど、しっかりした大人だ。
ほんのちょっとだけ見直した僕。
栗生「…今からお父さんに会いに行く所だったから、一緒に帰ろう。…最近この辺り変質者出るって噂だから。」
黒木「……それ、栗生さんじゃ…」
栗生「ヒドイよ空ちゃん……流石に凹む……。」
☆★☆☆☆☆☆★★★★★★☆☆★
自宅に帰って来た雅くん。
部屋は、ゴミが散乱していて足の踏み場がない。
自分の部屋に行く時に通る一つの部屋から聞こえる声。
何かにシーツを擦る音。
水を弾くような音。
息を荒そうに吐く人の声。
雅(…またかよ……。)
自分の部屋に入ろうとすると、その部屋から綺麗な人が出てきた。
桜「…あら。今晩わ。」
雅「……………。」
黙って睨み付ける雅くん。
桜「…そんな怖い顔しないでよ。こっちは、ビジネスでしてる事なんだから。…それとも……自分のお父さんが相手にしているのが〈男〉っていうのが、気に入らないの?」
雅「うるせぇよ!女になりきれない中途半端な野郎なんか気持ち悪ぃだけだろ!」
その言葉に桜さんは、雅くんの右頬を平手打ちした。
桜「そういう所が子供ね!貴方は、気づいてないフリをしているだけよ!…自分にも〈その血が流れている〉って事に。…どっかの誰かにソックリだわ。…認めてしまった方が楽なのに、グダグダ言い訳ばかりして。馬鹿ね。」
そう言い切って雅くんの家を出て行った。
雅くんは、頬を押さえて悔しさと痛さを感じて泣いた。
解っていても、理解しているはずなのに、上手くいかない。
誰かに馬鹿されて批判されて苦しく辛く悲しく悔しく一生をそんな気持ちで生きていくくらいなら………。
一生認めず生きて行くか。
自ら命を絶つか。
雅「…誰でもいいから……俺の……苦しみ解ってくれよ……。」
言葉にしないと相手の気持ちは、解らない事の方が多い。
苦しみも悲しみも辛さも悔しさも解り合える存在が欲しい。
それは………。
ワガママなんかじゃない。
##############
仲直りの後の代償? 完
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