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「お月見くださーい」
「おー、ちょっと待ってな!」
今年もお月見の日がやってきた。
時節柄、本当に月が出てからのお月見は危ないからまだ明るい夕方だけど子供達は戦闘開始だ。
玄関を開けるとすでに戦利品でパンパンになったリュックや袋を抱えた子供たちが俺のお菓子を待っている。
俺は用意してた段ボールいっぱいの小分けにしたお菓子を子供達に見せた。
「一人一個ずつ、順番にな」
何回も言われたんだろう。俺の言葉なんて聞きもしないで、わっと押し寄せて段ボールに手を伸ばす。
「こら、危ないから」
勢いにひっくり返りそうな俺のことなんて眼中にない子供達は口々に礼を言って去っていった。
まだ他にも来るかもしれないから、段ボールにお菓子の補充をするために家の中に入ろうとする俺の背中に声がかけられた。
「朔」
「十夜、もうちょっと待って」
「かまわぬよ。ゆっくりしていけばよい」
俺は十夜に笑いかけて家の中に追加のお菓子を取りに戻った。
あれから特にかしこまった儀式もなくさくっと「呪で縛る」は終わって俺は十夜の伴侶になった。
今日は、一度くらいお菓子をあげる側になりたいと十夜に連れてきてもらった。
黒スーツの十夜とスウェット上下の俺。お月見が終わったら一旦帰って着替えてから神様定例会議に参加する予定。
ちゃんと十夜の伴侶ですって顔見せするんだ。無理はしなくていいって十夜は言うけど俺がそうしたいだけなんだ。
多分一泊が限界だろうけど。
日が暮れて、もう子供たちもいなくなったから家の中に戻る。
一通り家の中を見て回って何も変わりのないことを確認して、大人しく座って待っていた十夜にそろそろ戻ろうと言おうとしたら呼び鈴がなった。
玄関の戸を開けると女の子を連れた父親が申し訳なさそうに立っていた。
「お月見まだやってますか?」
「あ、はい。ちょっと待ってください」
段ボールに残っていたお菓子を渡す。残しても仕方ないから三つあったのを全部あげた。
「ここは空き家だと聞いてたんですけどお月見をやってるって張り紙があったので、大丈夫でしたか」
女の子のお父さんが聞いてきた。引っ越してきたばかりでよく知らずに出遅れたらしい。
「大丈夫ですよ。俺、普段は別のとこに住んでるだけなんで。ちゃんとここの家の人間です」
「へーえ、お兄ちゃんどこに住んでるの?」
「えーとね。あっちの方かなあ」
俺の指差した方を見て、女の子は首を傾げた。
「月?」
まだ低いけど、家と家の間からまん丸お月様が見えていた。
俺と十夜が一緒に帰る場所。今住んでる俺の家。
女の子に手を振って俺は家の中に入った。
家の明かりを消して、鍵を閉める。
「十夜、帰ろう」
十夜は笑って俺を抱きあげて、月の方に向かってふわりと飛び上がった。
おしまい。
「おー、ちょっと待ってな!」
今年もお月見の日がやってきた。
時節柄、本当に月が出てからのお月見は危ないからまだ明るい夕方だけど子供達は戦闘開始だ。
玄関を開けるとすでに戦利品でパンパンになったリュックや袋を抱えた子供たちが俺のお菓子を待っている。
俺は用意してた段ボールいっぱいの小分けにしたお菓子を子供達に見せた。
「一人一個ずつ、順番にな」
何回も言われたんだろう。俺の言葉なんて聞きもしないで、わっと押し寄せて段ボールに手を伸ばす。
「こら、危ないから」
勢いにひっくり返りそうな俺のことなんて眼中にない子供達は口々に礼を言って去っていった。
まだ他にも来るかもしれないから、段ボールにお菓子の補充をするために家の中に入ろうとする俺の背中に声がかけられた。
「朔」
「十夜、もうちょっと待って」
「かまわぬよ。ゆっくりしていけばよい」
俺は十夜に笑いかけて家の中に追加のお菓子を取りに戻った。
あれから特にかしこまった儀式もなくさくっと「呪で縛る」は終わって俺は十夜の伴侶になった。
今日は、一度くらいお菓子をあげる側になりたいと十夜に連れてきてもらった。
黒スーツの十夜とスウェット上下の俺。お月見が終わったら一旦帰って着替えてから神様定例会議に参加する予定。
ちゃんと十夜の伴侶ですって顔見せするんだ。無理はしなくていいって十夜は言うけど俺がそうしたいだけなんだ。
多分一泊が限界だろうけど。
日が暮れて、もう子供たちもいなくなったから家の中に戻る。
一通り家の中を見て回って何も変わりのないことを確認して、大人しく座って待っていた十夜にそろそろ戻ろうと言おうとしたら呼び鈴がなった。
玄関の戸を開けると女の子を連れた父親が申し訳なさそうに立っていた。
「お月見まだやってますか?」
「あ、はい。ちょっと待ってください」
段ボールに残っていたお菓子を渡す。残しても仕方ないから三つあったのを全部あげた。
「ここは空き家だと聞いてたんですけどお月見をやってるって張り紙があったので、大丈夫でしたか」
女の子のお父さんが聞いてきた。引っ越してきたばかりでよく知らずに出遅れたらしい。
「大丈夫ですよ。俺、普段は別のとこに住んでるだけなんで。ちゃんとここの家の人間です」
「へーえ、お兄ちゃんどこに住んでるの?」
「えーとね。あっちの方かなあ」
俺の指差した方を見て、女の子は首を傾げた。
「月?」
まだ低いけど、家と家の間からまん丸お月様が見えていた。
俺と十夜が一緒に帰る場所。今住んでる俺の家。
女の子に手を振って俺は家の中に入った。
家の明かりを消して、鍵を閉める。
「十夜、帰ろう」
十夜は笑って俺を抱きあげて、月の方に向かってふわりと飛び上がった。
おしまい。
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お月見に間に合ってよかったなあ、って言う作品でした
最後のシーンは私も好きなシーンですので気に入ってもらえて嬉しいです!
ありがとうございました!