80日間宇宙一周

田代剛大

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第六章 地球より愛をこめて――From Earth with Love

56~57日目

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ブース
イルミナ「・・・私はもう死刑が確定しています。
弁護するにしても手遅れですよ、ウェイドさん」
書類をめくるイワン「死刑はあさってだったな・・・
ではその前に、キミのことをいろいろ教えてくれないか?
生い立ちからひとつずつ丁寧に・・・」
イルミナ「二日後に死ぬ人間の話を聞いて一体何の意味が・・・」
イワン「私はいろいろなところに顔がきいてね。あなたの証言によっては力になれるかもしれない。
つまり死刑を取り下げられる」
イルミナ「司法取引ですか?」
イワン「そうだ」
首を振るイルミナ「・・・それは不可能ですよ弁護士さん・・・私の運命は決まってしまった」
イワン「・・・そんなことないだろ。
未来は誰にもわからない。コインを投げるまで・・・」
イルミナ「・・・ひとつだけそれを知っている存在がいますよ」
イワン「・・・神か?」
イルミナ「宇宙そのものです・・・星々はすべてを記録している・・・過去も、そして未来も・・・」
笑みを浮かべるイワン「科学者らしい答えだな」
イルミナ「・・・私がここで死ぬのは宇宙が決めた運命なんですよ。」
イワン「いや、宇宙の未来のためにキミは生きるべきだ。
キミはサーペンタリウスに利用されただけなんだろう?
だから組織を裏切り、かつての旧友にテロを止めさせた・・・」
イルミナ「え・・・?」
イワン「・・・好きだったんだろう?ライト・ケレリトゥスのことが・・・」
表情が変わるイルミナ「ライトくんを知ってるんですか?」
イワン「ああ、この前会ってきた。いいやつだ」
嬉しそうなイルミナ「そうですか・・・ライトくんは元気ですか?」
イワン「それが火星のレース中にちょっとした事故を起こして怪我をした。
いや、怪我自体は大したことはないんだが・・・
その事故をしくんだのがサーペンタリウスだったんだ。」
イルミナ「・・・そんな・・・。」
イワン「教えてくれないか?君が知っていることを」
録音機をテーブルに乗せるイワン。
録音機を見るイルミナ。
イルミナ「・・・サーペンタリウスはただの社交クラブですよ・・・
テロはテロリストが勝手に実行しているだけです・・・」
イワン「では、キミが生物兵器開発に手を貸した理由はなんだ?」
うつむくイルミナ「・・・・・・。」
イワン「キミを救いたいんだ。
生きてライト君に会わせてやる」
イルミナ「・・・本当ですか??」
イワン「ああ、約束する」
イルミナ「・・・・・・。」
悲しげに首を振るイルミナ「でも・・・この球体からは絶対に出られない・・・
何があっても破壊できません・・・」
イワン「救う手段はある」
イルミナ「もういいんです・・・
すぐにでも死刑にしてください・・・準備は出来てますから・・・」
すべてを悟ったかのような目をするイルミナ。
その目を見つめるイワン。



刑務所に警報が鳴り響く
ブースから出てくるイワン「来てくれ!彼女がいなくなった!!」
看守「そんな馬鹿な、あの球体からは絶対出られない・・・!」
すべての監視カメラの映像をチェックする。
看守「どこかに写っているはずだ・・・!」
警備スタッフ「いません!」
看守「もう一度よく探せ!熱源探知は!?」
スタッフ「それも反応なし!消えました!」
イワン「博士が姿を消した以上、あの球体に直接入って確認しないと・・・」
看守「いや、あの球体には誰も入れない。
こうなったらマニュアル通り、ヴェルヌの死刑を早めよう」
マイクを掴む看守
看守「全職員に告ぐ!ヴェルヌ区に異常発生!30分後にこの施設を核焼却する!!
直ちに避難を開始しろ!」
自爆スイッチを押す職員

月面上空のミサイル衛星が動き出す。

エレベーターに乗り込む職員たち
ブースの中に置かれたボイスレコーダー。
ブースに戻ってレコーダーを手に取るイワン。
レコーダを切って懐に入れる。
看守「なにしてるんですか!さああなたも早く逃げて!急いで!」
イワン「いや・・・忘れ物をしてね・・・」
イワンもエレベーターに押し込まれる
看守「これで最後だな!?」
エレベーターが閉じる。

誰もいない管制室。
監視カメラの映像が切り替わり・・・・・・球体の中のイルミナを映し出す。
悲しい目でカメラを見つめているイルミナ。



トランキュリティ刑務所のヘリポート
フレミングがイワンにTIAの宇宙船を回す。
フレミング「どうなった!?」
宇宙船に飛び乗るイワン「死刑執行だ!すぐに出してくれ!」
急いで離陸し、月から離れる宇宙船

静止衛星からミサイルが撃たれる。
核爆発で跡形もなく吹き飛ぶトランキュリティ刑務所

TIAの宇宙船
フレミング「なにか聞き出せたか?」
イワン「・・・いや・・・自分の運命はすでに決まっていると言っていた・・・」
月面で煌々と燃える核の炎を見つめるイワン



火星――昼。
青空。
閉鎖されたレッドシグナル空軍基地。
錆びたフェンスが開かない。
フェンスを蹴飛ばすライト。
ミグ「いいの!?」
広大な空軍基地を歩くライトとミグ。
滑走路には壊れた戦闘機や宇宙ロケットの機体がいくつも転がっている。
ミグ「男たちの夢の墓場って感じだな・・・」
ライト「一人だけ死にぞこないがおるんや。」

航空機の格納バンカーのシャッターの横に付けられたブザーを押す
インターホンから老人の声が聞こえる「帰れ」
ライト「・・・録音メッセージや」
ミグ「じゃあ留守?」

その時バンカーの奥の納屋が爆発して吹っ飛ぶ
ライト「ふせろ!!」
二人を衝撃波が襲う。
一機の宇宙ロケットが勢いよく飛んでいく
ミグ「なんだ!?」
上空を一直線に飛ぶロケット。
しかし速度を上げた途端翼がへし折れ、コントロールを失って落下し出す。
遠くの滑走路に墜落するロケット。
煙を吹くロケット
ミグ「ゴホゴホ・・・一体なんだったんだ・・・??」

格納バンカーの中にある粗末なオフィス
ホワイトボード、チラシ、机、壁・・・オフィスのそこらじゅうのものに数式や設計図が書かれていて、その全てに赤いバツがつけられている。
理系の変人の住処の異様な光景に落ち着かないミグ
コーヒーに酒を入れて出すゴダート「いや~すまない、すまない。怪我なかった?」
ライト「いきなりロケットで逃げるんやもん・・・どんなじいさんなんや」
ゴダード「てっきり借金取りかと・・・」
ライト「紹介するわ、オレの師匠の・・・」
ゴダード「ヘルマン。ヘルマン・ゴダードです。こちらの美しいお嬢さんは?」
ミグ「ミグ・チオルコフスキーです」
ゴダード「はじめまして。おっぱい触っていい?」
コーヒーを吹くライト「いきなり何てこと言い出すんや!」
ゴダード「とりあえず女性にはこう言っとくのがわしのモットーでな。
その・・・万が一ってのもあるし・・・この年になると、もう何回触れるかわからないからの」
ショックで絶句するミグ
ライト「なに考えとんねん・・・」
ゴダード「なんじゃ、そのために来たんじゃないのか・・・」
ライト「あんた頭おかしいんちゃうんか。
ここに来たのはあれや。前にここのみんなで作って頓挫した計画があったやろ。
あの設計図が欲しいんや」
ゴダード「ああ、プリンと醤油でガチのウニを作るマシン、バフンカイザーのことじゃな・・・」
ライト「ちゃう!超光速エンジンや!!」
ライトに小声で囁くミグ「ライト・・・この人大丈夫なのか・・・?」
ライト「バナナとマヨネーズでメロンは成功させた・・・信じろ。」
急に顔つきが変わるゴダード「なにくだらないこと言っておる。
超光速エンジンの実験はまだ続いとるぞ」
ライト「なんやって?」
立ち上がって壁のスイッチを押すゴダード。本棚が動き出す。
ゴダード「こっちだ。お前に見せたいものがある」

地下の秘密ラボラトリー
ランタンを持ちながら階段を下りるゴダード「軍は、超光速航行は相対性理論に反するとかなんとかぬかして資金を打ち切り、手を引きおったがな・・・
科学理論など人間が考えたルールに過ぎん。絶対不可能だと誰が決めた?」
部屋の電気を付ける
ラボの中央に、布をかぶった巨大なロケットエンジンが置かれている。
ゴダード「戦時中、軍の連中に持ってかれる前にここに隠したんじゃ」
ライト「シートをとっていいか・・・?」
ゴダード「ああ・・・」
布を取るライト。立派な恒星間エンジンが現れる。
ゴダード「リニアエクシードエンジンだ」
感動するライト「すげえ・・・」
ゴダード「あとちょっとのところで資金繰りに行き詰まってな・・・まだ未完成なのだ。
お前にやろう」
ライト「ええんか?」
ゴダード「こいつはお前に会うのをずっと待っていた・・・だからライト、お前が完成させろ」
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