80日間宇宙一周

――厄介な侵略者は、突然宇宙の果てからやってくる。

高度な知性を持つ異星人が巨大な宇宙船に乗って襲来し、その都市で一番高いビルを狙って、挨拶がわりの一発をお見舞いする。

SF映画でお馴染みのシーンだ。

彼らは冷酷非情かつ残忍で(そして目立ちたがりだ)、強大な科学力を武器に私たちの日常を脅かす。

その所業は悪そのものと言ってもいい。

だが、敵に知性や感情があり、その行為が侵略戦争ならば、場合によっては侵略者と交渉の余地はあるのではないだろうか。

戦争とは外交手段の一つだという人がいる。

これまでの戦争でも、宣戦布告もせずに敵国を奇襲した卑劣な独裁者はたくさんいたのだから、戦況によっては、ひとつのテーブルを囲み、恐るべき侵略者と講和会議をすることだって可能なはずだ。

それは現実離れした希望的観測だろうか?



では現実の話をしよう。

長身で色白の美人だが、彼女はスーパーモデルでもハリウッド女優でもない。

冥王星宇宙軍のミグ・チオルコフスカヤ伍長(31)は、太陽系の果てで半年に4回ほど実際に侵略者と戦っている百戦錬磨の軍人だ。

彼女がエッジワースカイパーベルトという場所で、相手にしている敵のパワーは強烈だ。

彼らには、たった一つで全人類を73回分絶滅させるだけの威力があり、さらにその数は確認されているだけでも2千を超える。

最近の観測では、その百倍は存在するらしい。

現実の敵は絶望的に強く、さらに強すぎて私たちのような小さな存在など、認識すらしていないのだ。

私たちが大地を踏みしめるとき、膨大な数の微生物がその足の下敷きになって死んだと仮定しよう。

果たしてそれは、人類の土壌生物に対する侵略戦争と言えるのだろうか?

攻撃をするものと、されるものとのあいだに、圧倒的なスケールの差が存在する場合、それは戦争とか外交とか、そういった次元の話ではなくなる。

それは不条理な事故であり、理由のない大量虐殺なのだ。



だから、冥王星の軍人たちは、決まってこうつぶやく。

もしもこれが“戦争”であったらどんなに素晴らしいことか、と。

たとえ侵略者が冷酷非情で残忍だろうと、言葉が通じるならば、終戦の可能性は0ではない。

だが残念ながら、この敵に決して言葉は通じない。

彼らは目的もなく人を殺す。

彼女たちが戦っている相手は、小惑星――ただの石と氷の塊だ。
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