青春アタック~女子バレー三國志~

田代剛大

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第三部~関東逐鹿~

『青春アタック』脚本㉝天下三分

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回想
スバル「・・・・え?廃部・・・?」
顧問「せっかくソフトボールをやりに入学してくれたのにすまない。
実は本校では新たに女子野球部を立ち上げることが理事会で決まってね・・・
同じような部活動はいらないという判断で、ソフトボール部をたたむことにしたんだ・・・」
スバル「ちょっと待ってくださいよ!野球とソフトボールは全然違うよ・・・!」
顧問「理事会としては、ぜひ榛東さんに野球部の主将を・・・」
スバル「ほかの人をあたってください。」
部室を出て行くスバル。

河川敷で野球の試合を眺めているスバル。
日傘を指しているりかぜ「・・・野球部の主将を引き受ければよかったじゃない。
もともとプロ野球選手になりたかったんでしょう?」
スバル「おう、天才少女か。」
りかぜ「・・・となりいい?」
ベンチを開けてやるスバル「・・・いまさらソフトを裏切れねえよ・・・野球をやらせてもらえない女の子がやるスポーツとかさんざん馬鹿にされて・・・ここまで極めたってのに・・・」
りかぜ「・・・で、そこまで極めたあなたの実力は、もう日の目を見ることはないの・・・?」
スバル「そりゃ、あんたの方だろ。IQが200もあって、やってることは川原で三波石集めか。」
ビニール袋の石をかかげてりかぜ「・・・やることがないもの。
戦国時代や戦時中だったら、この頭脳も使いどころがあったのかもしれないけれど・・・」
スバル「なら、あんたもスポーツをやるといい。肉体と頭脳の戦いだよ。」
白い髪をかきあげ、赤い目をすがめるりかぜ「・・・この炎天下で大量の紫外線を浴びて?」
スバル「・・・死んじまうか。でも、戦略は考えられるだろ・・・?」
りかぜ「なら、あなたの下で働きたい。」
笑って、川に石を投げるスバル「うちはもう帰宅部だぜ?」
石は水を切ってバウンドする。
りかぜ「私はあなたとやりたいの。」
スバル「なんで?」
真剣な顔でりかぜ「・・・そういう運命だから。」
スバル「よせやい。いまさら野球部には入らねえぞ・・・啖呵切っちまった。」
りかぜ「イニング制の他の球技なら?」
スバル「・・・ソフトボールくらいしかねえだろ・・・」
りかぜ「・・・あったら?」



現在――伊勢崎華蔵寺公園球場
遠くには観覧車やジェットコースターが見える。
野球場のベンチに座っているスバル。
りかぜ「・・・お見えです。」
立ち上がるスバル。

球場に入ってくる鮎原姉妹
咲「ふえ~・・・本当にここで試合をやるの?」
スバル「たまには青空の下で体を動かすのも悪くないでしょ?」
ゲームボーイをしながら幹「・・・バレーボールをやるんだよね・・・?」
りかぜ「もちろん。」



白亜高校
生徒会室に駆けてくる小早川
「はあはあ・・・!」
ちおり「あ、チョロQが来たよ!」
小早川「ぜえぜえ・・・ついに詩留々高専が聖ペンシルヴァニアと戦います・・・!!」
今日の対戦カードを小早川から受け取る海野
海野「・・・約束守ってくれたんだ・・・」
さくら「義理堅いわね、あいつら。見直しちゃった・・・」
海野「・・・あれ?今日って、この試合だけなの?」
小早川「え?は、はい・・・」
海野「ほかの学校は・・・?」
生徒会室に入ってくる狩野「・・・もういないわ・・・」
海野「・・・レイちゃん!?」
ビビって通路を開ける花原。
狩野「ノックもせずに失礼いたします。」
さくら「ああ、いいよ。で、高体連のスタッフがわざわざうちみたいな貧乏高校に何のよう?」
狩野「祝福を言いに来ました。本日、白亜高校女子バレー部の準優勝が確定しました。
おめでとうございます・・・」
拍手をする狩野。
海野「ええっ・・・!!?」
華白崎「ほかの部は全て敗退したと言うんですか?」
狩野「・・・ええ・・・鮎原姉妹に・・・」
花原「本当に化物ね・・・」
さくら「・・・霧ヶ峰漸新と暁工業も?」
狩野「あの2校は季節性インフルエンザで出場停止です。」
さくら「寺島先輩のあほたれ・・・横浜でみんなと大皿をつついたから感染したんだ・・・!」
狩野「みなさんは、今日の試合の勝者と決勝戦で戦っていただきます。場所は東京体育館。
これは、バスチケットです。」
花原「うおおおおお!!!本当に、ここまで来た・・・!」
その時、黒服たちが生徒会室のテレビにチューナーを取り付ける。
華白崎「・・・なにを?」
狩野「・・・みなさんは今日の試合の結果がたいへん気になることでしょう・・・
そこで、試合の様子を衛星中継いたします・・・」
ちおり「見れんの?やったー!」
海野「レイちゃん・・・」
小声で狩野「海野さん・・・やったね・・・」

さくら「どうだ見たか!これぞ私の天下三分の計よ・・・!
聖ペンシルヴァニアが勝とうが、詩留々が勝とうが、どちらにせよ、今日の戦いで憔悴している・・・
そいつらに最後の止めをさせば、私らは優勝!
まあ、ここまで来たら12億がもらえる聖ペンシルヴァニアとやりてえけどな!」
花原「先生・・・!孔明先生・・・!」
華白崎「・・・信じられない・・・」
さくら「言ったでしょう?優勝するなら、負けなきゃいいだけ。簡単な話よ。」
乙奈「・・・海野さん泣いてるんですか・・・?」
海野「・・・だ・・・だって・・・ほんの数ヶ月前までは、一人でバレーをしてたのに・・・
生原さんがこの学校に来て・・・すべてが変わった・・・
サイエンスクラスの授業が変わり・・・
芸能クラスからはプロのアイドルがデビュー・・・
女子バレー部は活動を再開し・・・
生徒会室はみんなの憩いの場に・・・
栃木県の自然は守られ・・・
埼玉県のいじめはなくなり・・・
群馬県とは同盟が結べた・・・
そして・・・全国制覇の夢まで後一歩のところまで来ている・・・
こんなの奇跡だよ・・・」
微笑む花原「そういうセリフは、優勝してからでしょ・・・」
海野「だけど・・・」
ちおり「にゃー、なんかバレーじゃなくて野球してるよ!」
テレビ画面を指差すちおり。
花原「何言ってるのよ・・・チャンネルが違うだけでしょ・・・」
狩野「いや・・・そんなはずは・・・」

テレビ画面には野球のようなスコアボードが表示されている。
実況「最終回7回裏、詩留々高校の攻撃です!聖ペンシルヴァニアは守りきれるか!」
詩留々部員「ナイスサー、スバル!!」
咲「ばっちこーい!」
幹「この3点を死守しよう!」
下手打ちで強力なサーブを打つスバル「ウインドミルサーブだオラー!!」

ポカンとする花原「こいつら何やってるの・・・?」
狩野「正真正銘のバレーボールです。」
花原「いやいや・・・私が今までやってきたバレーと違うんだけど・・・」
さくら「イニング制バレーボールだ・・・」
華白崎「イニング制?」
さくら「もともとバレーボールってイニング制だったのよ。各チーム交互に攻撃と守備に入れ替わって得点を取り合うスポーツだった・・・そう・・・野球のように。
攻撃側がラリーを制すれば1点、守備側が制すれば1アウト。3アウトでチェンジ。」
花原「うそでしょ?」
さくら「・・・榛東スバルはもともとソフトをやってたって言ってたっけ?」
海野「・・・はい・・・」
さくら「・・・この試合・・・わからないわよ・・・」
花原「・・・・・・。」

実況「スバルのバックアタックが決まった~!同点!同点です!!
これで詩留々高専が聖ペンシルヴァニアに追いついた・・・!!
カウントは2アウト!ここで、詩留々高専がラリーを制すれば、逆転サヨナラ勝ちです!!」

ブラウン管にかぶりつく花腹「なんですって・・・・!!??」
華白崎「・・・あの鮎原姉妹が・・・負ける??」



華蔵寺公園球場
詩留々高専の応援団「あと一点!あと一点!!」
野球帽をかぶっているりかぜ(・・・やはり、聖ペンシルヴァニアは鮎原姉妹以外は脅威ではない・・・
確かにほかのメンバーも強いには強いが想定の範疇・・・
この勝負もらったわ・・・)

ネット越しに話しかけるスバル
「なあ鮎原さんよ、下のやつらに追いかけられるってのはどんな気分だい?」
咲「ん?楽しいよ。」
スバル「・・・あんた、この状況でどういうメンタルしてんだよ・・・
ルールに慣れてなかったから負けたっていう言い訳はよしてくれよ・・・」
咲「まさか・・・こんな楽しいルールを教えてくれて感謝したいくらいよ。
それに・・・私たちが負けたことがないとでも?
負けるのはいいことよ。勝ち方は負けなければ学べないからね。」
スバル「負けるのがいいこと・・・?」
昨年、海野に敗れた記憶が蘇る。

回想
笑顔の海野「はあはあ・・・ありがとう、いい試合だった・・・!」
スバル(3セットストレート敗けが・・・?)

スバル「負けるより勝つほうがずっといいだろうがあああ!!」
渾身のバックアタックを打つスバル。
それをひろう幹。
アタックを打つ咲。
咲の強烈なアタックを必死にブロックする詩留々高専の前衛。
球速が落ちたボールを立て直す。
もう一度バックアタックを決めるスバル。
エンドラインギリギリを狙うが、守備の天才の幹が超反応で飛び込みレシーブをする。
咲「ナイレシ幹姉!」
もう一度咲がアタックを決める。
そのアタックを根性で食らいついてひろうスバル「負けるかあ!!」

激しいラリーの応酬を見つめる白亜高校。
海野「すごい・・・あの鮎原姉妹と互角だなんて・・・!」
華白崎「それは違うわ・・・追い込まれてるのは明らかに鮎原姉妹です・・・」

なかなか終わらないラリー
咲「ずいぶんしぶといわね・・・!はあはあ・・・」
スバル「連戦の疲れが出てるんじゃないのか?ぜえぜえ・・・
こっちはな・・・仮想海野ロボを6台相手にして毎日特訓してんだ・・・
あんたたち2人なんて目じゃねえさ・・・」
幹「オール海野さんチームは確かにやばいね。うん。」
スバル「どうする?絶対王者・・・」
幹「このままラリーを続けていてもキリがない・・・終わりにしようか。」
そう言うと、幹がバックアタックをする。
スバル「勝負を焦ったな!アウトだ!!」

何かを察するりかぜ「・・・!!だめ・・・!!」

その時、強風が吹き、地面にボールが落ちる直前で風に煽られ向きが変わり、ぎりぎりコート上に落ちる。
ショックを受けるスバル「な・・・!なんだって・・・!!??」
幹「あ~よかった。午後になるまでラリーを粘ったかいがあったわ。」
スバル「あんた・・・風が出てくるのを、待ってたのか・・・?」
幹「群馬の名物は空っ風なんでしょ?まあ、これは春一番かな。」
咲「さすが幹姉・・・!」
膝をつくスバル「野外での試合という逆境を活かして・・・
な・・・なんてやつだ・・・」
りかぜ(・・・・・・あの姉妹は・・・バレーに愛されてる・・・)
実況「15分にも及ぶラリーは鮎原姉妹が制しました!これにより、この試合は引き分けです!!」

テレビにかぶりつく花原「ちょ・・・!ちょっと待ってよ!バレーボールで引き分け?」
さくら「イニング制でしか起こりえない結果ね。」
華白崎「・・・ということは・・・どうなるんです?」
気まずそうな狩野「・・・すいません・・・白亜高校の準優勝確定は撤回いたします・・・」
ちおり「バスチケット返すの?」
乙奈「みたいですわね・・・」
海野「スバルちゃんは同盟を結ぶ際に、条件をつけた・・・
聖ペンシルヴァニア大附属と戦う代わりに、次は私たちと戦いたいと・・・」
花原「ちょっと待った!じゃあ・・・」
華白崎「わたしたちの優勝は、詩留々高専と聖ペンシルヴァニア大附属の連勝しかなくなったってことです・・・」
ちおり「わーい!あと2回も戦える~!やったー!」
花原「うそでしょ・・・!これじゃあ立場が逆転よ・・・!」
ちおり「私たちも引き分ければ?」
花原「・・・いったい何がしたいのよ・・・」
海野「・・・監督・・・」
さくら「・・・うん。けっこうやばいね。」
花原「先生・・・策は・・・?」
さくら「・・・ない。つーか引き分けって・・・」
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