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第二部~群雄割拠~

『青春アタック』脚本㉒前代未聞

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山の雲行きが怪しくなる。
葉に雨粒がつき、次第に雨が激しくなる。
合宿場のトタン屋根に雨音が響く。
観客席には雨を逃れて、ヤマネ、ウサギ、キツネ、浴衣を着たニホンザル、甲冑を装備したウマなど多くの野生動物が集まっている。

理央「・・・秘密特訓・・・?」
得意げな花原、ちおり。
理央「・・・オジカくん、どうすればいいかな。」
オジカ「レシーブ成功率の最も低い選手をねらえ・・・チェック済みだ。」

白亜高コート
華白崎「・・・相手が我々のデータをすべて把握しているなら、私たちの弱点をついてくるはずです。」
海野「・・・レシーブ・・・」
華白崎「ええ。・・・後衛にヘルプに入ります。」
首を振る後衛の乙奈。

主審のトビ「ピー!」
理央「いっきまーす!」
乙奈に向けてサーブを打つ理央。
海野「やっぱり乙奈さんだ・・・!」

向かってくるサーブボールを見つめる乙奈。
震える。
乙奈(あの時、わたくしが逃げなかったら・・・ソラちゃんは・・・!)
レシーブの姿勢で体を硬直させ、逃げずにサーブボールに腕を当てる乙奈。
海野「レシーブした・・・!」

病田「でも球速が落ちていない・・・!」
大此木「いや・・・そうでもない。」

レシーブしたボールが勢いよくセッターのちおりに向かっていく。
それと同時に、花原がアタックのモーションに入る。

海野「・・・速攻!!?」
華白崎「速いですよ・・・!」

理央「クマガイさん!バックアタックよ!」
慌ててブロックをするクマガイ。
花原のバックアタックはくまの高い壁に跳ね返される。
しかし、ネット際で落ちたボールをちおりがレシーブでひろう。

大此木「うまい!体勢を立て直して反撃・・・」

すると、花原がもう一度素早くバックアタックを決める。
大此木「・・・2段攻撃だと!?」

理央「しまった・・・!」
三畳高のコートに勢いよく飛んでいくバックアタック。
そのままラインズマンのカルガモにぶち当たる。
観客「でもアウトだ・・・!」
ガッツポーズで固まる花原「・・・・・・」

アライ「だいじょうぶか!カモタ3号!」
ぴくぴくしているカモタ3号。
理央「なんてパワー・・・」
ブロックしたクマガイが手を振る。
クマガイ「あたた・・・」
アライ「あいつら速攻なんて持ってたのか?」
オジカ「データ不足だったぜ」

大此木「おい・・・あいつらなんかマジでうまくなってねえか・・・?」
スコアを付ける山村「同感だな。」
酒瓶を煽るさくら「・・・・・・。」
海野「すごいよ!三人とも・・・!」
花原「はははー見たかオコ!」
大此木「くっ・・・アウトのくせに・・・!」

理央「あれが入ってたら危なかったね。」
オジカ「焦るな。確かにアタックのパワーはあるようだがコントロールは取れていないようだ。
アウトボールを気をつければ問題あるまい・・・」
クマガイ「落ち着いていきましょう・・・!」
理央「そうだね・・・しめてかからないと・・・」
今度は花原にサーブを打つ。
クマガイ「ナイスサーブ!!」

花原の方に飛んでいくサーブボール。
ブツブツ言う花原「・・・早すぎて顔に当たるなら・・・ワンテンポ遅らせて・・・」
サーブをきれいにレシーブする花原「やっぱり!」
華白崎「うまい・・・!」
トスを上げるちおり。
もう一度バックアタックする花原「おらああああ!!」
また、カルガモに当たる。
観客「でもやっぱりアウトだ!!」

意識のないカルガモを抱える理央「何羽倒す気ですか・・・!」
オジカ「やはり、コントロールができないようだな。」
アライ「あいつが穴だな。」

花原を囲んで褒める白亜高校
海野「すごいよ花原さん!」
華白崎「あのサーブをよく取れましたね・・・!」
花原「えへへ!」

アライ「なんだ、あの盛り上がりは・・・」
オジカ「レシーブできたのがそんなに嬉しいのか・・・?」

3度目は、ちおりにサーブを打つ理央「えいっ!」
花原「いけーちおり!特訓の成果の最後の締めよ!」
乙奈「ちおりちゃんがんばって!」
ちおり「まかして!」
理央のサーブをレシーブし、花原の顔面にぶつけるちおり「どりゃあああ!!」
白亜高校「・・・ガーン・・・!」
ちおり「最後は落としてみました!」
花原「おとすなー!!」

オジカ「・・・あいつは一体何がしたかったんだ・・・??」
アライ「・・・しかし、リオのサーブを3人とも返したじゃねえか・・・どこが弱点なんだよ。」
オジカ「なあに、そのうちメッキが剥がれるさ。」
サーブを打つ理央「ほんとう?」

レシーブをしようとするちおり「おりゃーっ!くらえ花原さ~ん!」
ちおりの顔面を掴んで、遠くに放り投げる花原「おまえは・・・取るなあああ!!」
ちおりの代わりにレシーブする花原「ふっ!」
山村「おおっうまい・・・!」
病田「で・・・でも・・・セッターは??」
花原に投げられてコートのはじで倒れているちおり。
乙奈が代わりにトスを上げる「はいっ!」
それを海野がアタックする。
クマガイがブロックに入るが止められず、理央もレシーブできない。
鋭角のスパイクが決まり、主審の笛がなる。
大此木「すげえスパイクだ・・・!」

海野「やっとこっちに点が入ったね・・・!」
ちおり「かっけー!」

扇子であおぐ理央「4mもあるクマガイのブロックをはねのけるとは恐ろしい・・・!」
クマガイ「ショックっす・・・!」
オジカ「海野美帆子・・・噂通りの選手だ。彼女の力で無名の織戸高校は強豪校となった・・・」
理央「実力は本物ってわけね。」
オジカ「エースの花原よりも恐ろしいぜ。中学からバレーをやっているからな。」
アライ「逆に、こええのはあいつだけってことだろう?」
理央「アライくん・・・」
アライ「任せろ。俺があいつを止めてやる。この天才センターアライ様がな!」

海野「さあ、こっちのサーブよ!」
サービスエリアに入るちおり「わーい!」
花原「・・・おい坊主・・・なんでこっちを向いているんだ・・・コートは向こうだ・・・」
ちおり「花原さんが好きだから!えい!」
花原の後頭部にサーブをぶち当てるちおり。
ブチギレる花原「てめえかかってこいやあああ!!」
ボコボコに殴られるちおり「うう・・・」
海野「花原さん落ち着いて・・・!」

理央「・・・・・・。」
アライ「あいつの行動が読めん・・・」
シマダ「でもあのサーブ、真面目にやればかなり速いんじゃ・・・」
イノセ「・・・追い付けるかなあ・・・」
理央「手加減してるんじゃないでしょうね・・・
オジカくん、その必要はないってこと教えてあげて。」
オジカ「もちろんだ。」
角にボールを乗せて、首を振って放り投げ、ボールが落ちてきたところで、角をないでサーブを決めるオジカ。

山村「なんと器用な・・・!」

剛速球が花原に飛んでいく。
怯える花原「はえええ!!」
花原の顔面にぶち当たり、跳ね返るボール。
鼻血を出して倒れる花原「いってきます!!」
海野「出たー!花原さん必殺、顔レシーブ・・・!!」

動物解説――万石正一
「ニホンジカのオスは繁殖期になるとメスをめぐって角を付き合わせて力比べをする。そのパワーを活用したのだろう。」

ブーちゃんが花原が跳ね返したボールをアタッカーにつなぐ。
海野「ブーちゃんナイスアシスト!!」

防御体制を取る三畳高「くるぞ・・・!」
クマガイと一緒にブロックに入るアライ「来やがれ・・・!」
シマシマのしっぽを高速で振ってホバリングしている。

大此木「コミットブロック・・・!海野封じだ!」

飛び上がって腕を振り上げながら海野(・・・ツキノワグマのブロックは高すぎる・・・!狙うはとなりのアライグマ・・・!)
海野がボールをアタックする瞬間を見切るアライ「動きは・・・読めた!!」
アタックをする海野。
そのコンマ0秒後に、アタックをそのままアタックして返してしまうアライ「なめるな!!」
肝を潰す海野「うっそおお!!」
山村「何だあれは・・・!!?アタックを・・・アタックした!!???」
地面に落ちる海野「ぎゃふん!」
大此木「海野を吹っ飛ばしたぞ・・・!」
花原「海野さん・・・だいじょうぶ!?」
海野「うん・・・驚いちゃった。あたた・・・」

アライ「チビだからってなめんなよ!」
理央「さすがアタッカーキラー!」
観客の野生動物「うおおお、なんつープレーだ!反則じゃねえのか!!?うきょー!」

口を開ける華白崎「む・・・むちゃくちゃだ・・・」
花原「あのタヌキ、可愛い顔してるけど、プレースタイルは凶悪よ・・・!」

万石「もともと北アメリカの森林に生息していたアライグマは、ペットとして日本に連れてこられて帰化動物になりつつある・・・!なぜか?それはアライグマがペットにするにはあまりにも凶暴だったからだ・・・!」
理央「そのとおり・・・アライくんはシカゴの生態系をめちゃくちゃにしてFBIに指名手配されて、日本に高飛びしてきた本物のギャング。バレーのプレーも犯罪ギリギリよ・・・!」
万石「アライグマは餌を水で洗う習性が有名だが、あの行動の理由は衛生的なものではなく、手を濡らすことで感覚神経を研ぎ澄ましているのだという・・・
全集中した彼らが人間のスパイクを見切ることはわけはないだろう・・・」

ちおり「すげー!華白崎さんアレできる?」
華白崎「人間の動体視力で、できるわけないでしょう・・・
スパイクは下に向けて打ちますから、相手のアタックとほぼ同時に叩かないとネットにかかってしまうでしょうし・・・」
アライ「悪いがオレは目が悪い。
ボールなんかハナから見ちゃいねえ。・・・感じてんだよ。」
華白崎「じゃあ・・・絶対に無理です会長。」

外の雨足が強まる。ゴロゴロと雷の音が聞こえる。
アライ「さあ・・・次に死にたいやつは前に出な・・・!」
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