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第二部~群雄割拠~
『青春アタック』脚本⑲深山幽谷
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全国から集まった参加選手を各地の港に降ろし、デゼスポワール号は海上へ消えた・・・
煙突からの煙は、これから始まる戦いの狼煙であった・・・
・
大会一日目――
栃木県北部の無人駅。
一両編成の蒸気機関車が引き返していく。
それを見送る、白亜高校バレー部。
駅は荒れ果てており、「動物注意!」の標識が倒れかけている。
ホームに獣が爪を立てた跡があることに気づく花原。
屈んで動物の毛をひろう。
花原「・・・・・・。」
華白崎「種類はわかりますか・・・?」
毛を眺める花原「・・・本州最大の捕食者・・・ツキノワグマだと思う。」
乙奈「まあ、おそろしい・・・」
海野「だ・・・だいじょうぶだよ、くまは基本的に臆病で、リュックサックに鈴をつけていてば向こうから逃げていくってスーパーJチャンネルのおじさんが言ってたよ。」
ちおり「海野さんものしり!」
糞を木の枝で突っつく花原「・・・野生動物は行動が読めない・・・」
華白崎「私も花原さんと同意見です。
この時期のくまは冬眠から覚めたばかりだから飢えている・・・
山中を進む際は十分注意したほうがいい。」
海野「・・・わたしたちバレーをしに行くんだよね・・・?ワンダーフォーゲル部じゃないよね??」
乙奈「・・・たぶん。」
花原「こんなこともあろうと、市販のスタンガンを改造して、くまでも一撃で行動不能にできる威力にしてきたわ・・・」
リュックサックから電気棒を取り出す花原。
ちおり「じゃあ、花原さんが先頭で行こう!」
花原「・・・え?」
山村「安心しろ。このマッスルが坂田金時のごとく、相撲をとってやる・・・」
山村に電気棒を渡す花原「じゃあ、これもあげるよ・・・」
華白崎「・・・そういえば監督は?」
海野「U字工事駅で待ってろって・・・」
・
その時ディーゼルエンジンの音が聞こえる。
軍用のトラックを駅のホームに荒々しく停車させるさくら。
標識にぶつかり、動物注意のパネルが飛んでいく。
さくら「おまたせ!さあいくわよ!」
海野「あ・・・あの・・・先生これって・・・軍用じゃないですか・・・?
SWATとか乗ってる・・・」
山村「レンコ社製のベアキャット装甲トラックだな・・・」
華白崎「なんで、そんなこと知ってるんですか・・・」
さくら「こっから先は獣道しかないからね。
暗くなったら、多分事故で死ぬから乗っちゃって!」
帰ろうとする花原「さ~て、私はそろそろ家に帰らないと・・・」
電気棒で花原を突っつくちおり。
花原「あんぎゃあああ!」
しびれて動けなくなる花原。
花原をひきずりトラックに載せるちおり「しゅっぱーつ!」
海野「・・・・・・。」
・
栃木県の山中は、中国の山水画のような勇壮な大自然が広がっている。
山中で地面を耕しているモンペを履いたセーラー服の女子高生。
茂みが揺れて、高校生の背後から巨大なくまが現れる。
立ち上がるくま「ガルルルルル・・・!!」
女子高生「あ・・・そこに差しといて。」
くま「わかりました・・・」
大木を地面につきたて、バレーボールのポールにする。
女子高生「はい、ご褒美のどんぐり。ご苦労さま。」
くま「いつもありがとうございます・・・!」
アライグマがシマリスと一緒にワラで編んだネットを引きずってくる。
シマリス「ネットが完成しましたよ。」
アライグマ「よおリオちゃん・・・これでいいのか?」
三畳農業高校女子バレー部部長、有葉理央「上出来。」
アライグマ「つーか、オレは気に入らねえな、バレーボールなんかおんな子どもの遊びだろ!?
オレは、これでも森のギャングって言われてんだ。忙しいんだよ・・・」
有葉理央「今週だけ付き合ってよ・・・」
アライグマ「・・・おい。」
シマリスがアライグマに手帳を渡す。
スケジュール帳をめくるアライグマ「マタタビの売人を締め上げるのは来週に回せるとして・・・
木曜日の外来生物イメージ向上会議は日程がずらせねえぞ・・・」
理央「そこをなんとか。」
アライグマ「しゃあねえな。だが、ブルーギルの野郎の機嫌次第だからな、約束はできねえぞ。」
理央「ありがとう。」
アライグマ「イノセとオジカはどうしたんだよ。」
理央「イノセくんは道路公団の仲間と、車両が通行できるように獣道の拡張工事をしてる。
・・・オジカくんは・・・見てないな。」
アライグマ「サボりか、あの野郎・・・」
くま「本当に、こんな山中の学校に人が来てくれるのかなあ・・・?」
理央「伝書鳩によれば・・・おそらく。
白亜高校のみなさんが・・・生きてここにたどり着ければだけどね。」
対戦チケットを取り出す理央。
・
木々をなぎ倒して、獣道を暴走する軍用トラック。
酒をかっくらいながら「一番星ブルース」を歌うさくら。
さくら「男の~旅は~一人旅~」
部員たち「ぎゃあああゆれる!!」
フロントガラスの視界が一気にひらけ、空が広がる。
急ブレーキを踏むさくら「おおっとおお!!」
崖っぷちでギリギリに停車するトラック。
華白崎「一体どこですか、ここは!!」
トラックから降りてくる一同。
さくら「わからん!完全に迷った!!」
地図を広げるちおり「ねー」
華白崎「助手席の会長がナビゲートしてましたよね・・・ちょっとその地図見せてください。」
地図を渡すちおり「おかしいなあ・・・」
華白崎「こ・・・これファイナルファンタジーの攻略本じゃないですか!!」
ちおり「どおりで目印の暗黒大陸が見つからなかったわけだ」
華白崎「ああ・・・完全に遭難した・・・」
崖っぷちのトラックに背中を預けるちおり「どんまーい!」
すると、トラックがゆっくりと前進し、崖から滑落してしまう。
華白崎「あああ~~~!!!」
崖下に落ちていき見えなくなるトラック。
華白崎「トラックが~~!!」
ちおり「・・・どんま~い!」
華白崎「帰りどうするんですかー!」
海野「ま、まあトラックの中に誰も乗ってなかったのが幸いだったよね・・・」
華白崎「乗ってたら大惨事ですよ!」
一同(・・・ひとり足りない・・・!?)
海野「しびれた花原さんが乗ってたーーー!!!」
震えるちおり「い・・・いやだよ・・・花原さん・・・」
華白崎「会長・・・ご自分を責めては・・・」
さくら「うん。サイドブレーキを引かなかった私も責めてはいけない。」
号泣するちおり「花原さああああん!!!」
その時、「三畳農業高校直進200m」の看板に気づくちおり。
ちおり「こっちだ!」
一同「た・・・助かった~!」
海野(え・・・花原さんは・・・?)
・
あばら家のような三畳農業高校。
笑顔で白亜高校を迎える理央「ようこそ~!三畳農業高校へ~!
吹雪せんせ、おひさしぶりです!」
さくら「おっきくなったね~」
海野「白亜高校バレー部部長の海野です。」
扇子を広げてパタパタする理央「わたしは有葉理央!森のバレー部の主将やってます!
みなさんご無事に到着できてなによりです!
山が険しくて事故が多いんですよ。」
海野「あの・・・それが・・・」
理央「・・・え?」
・
ハンドル式の電話の受話器を置く理央
「麓の山岳救助隊に出動要請を出しましたが、ここから10kmもあるし、もう日没です。
明日の朝じゃないと救助に向かえません・・・」
海野「そんな・・・」
理央「夜の山は危険すぎる。しかしトラックが滑落した場所は、この山でもかなり治安が悪い・・・
朝まで待てない。」
ダウンジャケットをはおり、懐中電灯を手に取る理央。
理央「私が助け出してきます。」
海野「有葉さんも危険じゃ・・・」
華白崎「二次被害が出ますよ・・・!」
微笑む理央「私はこの山で生まれたんです。だいじょうぶ。」
学校の前に白亜高校の一行を残して、夕闇の山中に消える理央。
理央「森のみんな!鬼切崖から落ちちゃった背の高い女の子を探して!」
茂みが揺れて、ウサギやヤマネ、野鳥などが集まってくる。
アライグマ「なんだよ・・・ねみーな・・・」
理央「夜行性じゃなかった?」
アライグマ「北米から輸入された時の時差ボケで生活リズムが変わったんだよ。」
理央「バレー部の女の子がひとり遭難しちゃったの・・・!」
アライグマ「気の毒だったな。一週間で白骨になるから、火葬場は借りなくていいぜ。」
涙目になる理央「・・・・・・。」
アライグマ「はいはい・・・分かりました・・・野郎ども!仕事だ!!
空中部隊!編隊を組んで鬼切崖の800m四方を捜索・・・!できるだけ低空飛行を維持しろ。
地上部隊!まずは足跡だ!スニーカーのサイズは25.5センチ・・・!
やっこさんが馬鹿じゃなかったら、そのトラックにとどまっているはずだ。
滑落したトラックを探せ!」
頷いて散っていく野生動物たち。
・
木の枝をついて山をさまよう花原
・・・彼女は生きていた・・・!
装甲車だったことが幸いしたのである・・・
しかし、外車の構造がわからず車両を修理することを諦めた彼女は、食料の調達に向かった・・・
花原「あれはナヨタケ・・・食えるわね・・・」
可愛いきのこに気がつく花原。
役立つ知識・・・!
ゲロを吐いて倒れる花原「ナヨタケモドキだった・・・!」
しびれる興奮・・・!!
花原「夜になるとやばいわ・・・早く森から抜け出ないと、さっきから野獣の遠吠えが・・・」
すると、自分の背後に狼たちが集まっていることに気づく。
花原「ははは・・・ニホンオオカミさんは、たしか絶滅したのでは・・・?」
花原に飛びかかる狼の群れ。
花原「きゃああああこいつら絶対狂犬病ワクチン打ってない!!!」
狼が花原に噛み付く刹那、巨大な角を持つシカが突進し、狼を吹き飛ばす。
シカ「彼女は私の客人でな・・・悪いが失礼するよ。」
オオカミ「オジカか・・・貴様とはまだ決着をつけてなかったな・・・
偶蹄類の分際で食物連鎖に抗うとは、馬鹿とは言ったものよ・・・」
シカ「再絶滅したくなかったらやめておけ・・・お前らでは私には勝てんぞ。」
飛びかかるオオカミたち「ほざいたな!やっちめえ!!」
シカ「・・・乗れ!」
シカにまたがる花原「・・・は・・・はい・・・」
オオカミ「少しは個体数減らしとけやああああ!」
狼たちを突進して蹴散らすオジカ「つのアタック!!」
そのまま走り去るオジカと花原
オオカミ「く・・・くそ・・・あの食害クソ野郎!」
オオカミ「いてて・・・ゆうごはんが・・・!」
オオカミ「な~にが、つのアタックだ・・・もう少しかっこいい技にしてほしいよな・・・」
・
三畳農業高校の校舎にはまだ雪が残っている。
花原にとってきてもらったバレーボールを抱きしめるちおり
ちおりの頭を撫でる海野「大丈夫だよ・・・花原さんは賢いから・・・」
別の地図を取り出して悔やむちおり「私が地図を間違えなければ・・・」
華白崎「そっちはドラゴンクエストです。いい加減にしてください・・・」
白亜高校一行にかけてくる理央「花原さんが見つかりました!」
ちおり「ほんと!?」
校舎の外に出ると、たくさんの野生動物が集まっており、シカにまたがって花原が戻ってくるのが見える。
ちおり「すげえ!もののけ姫だ・・・!」
憔悴している花原「黙れ小僧・・・」
理央「それでは、こちらの部員も集まったので紹介いたします!」
海野「・・・部員?もしかして、この野生動物が・・・??」
理央「まず、シマダさん!」
キョロキョロする海野たち「・・・え?どこ??」
足元で声が聞こえる。
シマリスのシマダ「ここで~す、お~い!!」
海野「リスだ~~!!」
理央「シマダさんは少々小柄でして・・・」
理央の肩に乗るシマダ。
乙奈「・・・バレーボールの方が大きいと思うのですが、シマダさんはボールはあげられまして!?」
理央「そしてアライくん!!」
アライグマのアライ「おう、よろしくな。ちなみにおすすめの食器用洗剤はジョイだ。
よく研究されてる。」
理央「天才レシーバーのイノセくん!」
ニホンイノシシのイノセ「・・・せっかく道を工事したのに、崖から転落するなんて・・・」
理央「そして・・・チーム1のセンタープレーヤー・・・クマガイさん!!」
巨大なくまが立ち上がる。
逃げ出す白亜高校「うぎゃああああ!!」
ちおりとブーちゃんだけは逃げない。
ちおり「かわい~!プーさんだ~!!」
包丁を取り出すブーちゃん「・・・クマナベ・・・」
クマガイ「ひいいい食べないで・・・!!」
理央「クマガイさんはわりと臆病なんでよろしく・・・」
海野(あってた・・・)
理央「最後に副部長のオジカくん!」
ダンディなオジカ「どうも。そろそろ白馬から降りてもらえるかな、姫。」
慌ててオジカから降りる花原「あ・・・ああ、すいません・・・!助けてくれてありがとう・・・」
オジカ「彼女の怪我は軽傷だが、あの高さの崖から落ちている・・・
鞭打ちなどの後遺症が心配だ・・・」
白衣を着るさくら「了解、見てみる。ここに保健室は?」
アライグマ「東棟の1階にあるぜ。」
さくら「マッスルくん、手伝ってくれる?」
花原に肩を貸すマッスル「無論だ。」
校舎に入っていく、マッスルと花原とさくら。
理央「それでは、今夜は森のみんなで歓迎パーティを準備しました、どうぞ楽しんでください!」
動物たちに混ざってちおり「わーい!!」
切り株の椅子に座る一行。
草花で出来たなぞの料理を食べるちおり「うめー!なにこれ!?」
シマダ「どんぐりとたんぽぽのサラダです。こちらは菜の花のおひたし・・・」
ブーちゃんもひとくち食べて頷く。
ジョッキを傾ける乙奈「あら、これは上品なのどごしですわ・・・」
クマガイ「はちみつを発酵させてヤギのミルクを混ぜたなにかです。」
森の晩餐会の様子を遠巻きに見つめる華白崎と海野
華白崎「・・・なんかもう打ち解けてますよ・・・」
海野「まるでシルバニアファミリー・・・」
煙突からの煙は、これから始まる戦いの狼煙であった・・・
・
大会一日目――
栃木県北部の無人駅。
一両編成の蒸気機関車が引き返していく。
それを見送る、白亜高校バレー部。
駅は荒れ果てており、「動物注意!」の標識が倒れかけている。
ホームに獣が爪を立てた跡があることに気づく花原。
屈んで動物の毛をひろう。
花原「・・・・・・。」
華白崎「種類はわかりますか・・・?」
毛を眺める花原「・・・本州最大の捕食者・・・ツキノワグマだと思う。」
乙奈「まあ、おそろしい・・・」
海野「だ・・・だいじょうぶだよ、くまは基本的に臆病で、リュックサックに鈴をつけていてば向こうから逃げていくってスーパーJチャンネルのおじさんが言ってたよ。」
ちおり「海野さんものしり!」
糞を木の枝で突っつく花原「・・・野生動物は行動が読めない・・・」
華白崎「私も花原さんと同意見です。
この時期のくまは冬眠から覚めたばかりだから飢えている・・・
山中を進む際は十分注意したほうがいい。」
海野「・・・わたしたちバレーをしに行くんだよね・・・?ワンダーフォーゲル部じゃないよね??」
乙奈「・・・たぶん。」
花原「こんなこともあろうと、市販のスタンガンを改造して、くまでも一撃で行動不能にできる威力にしてきたわ・・・」
リュックサックから電気棒を取り出す花原。
ちおり「じゃあ、花原さんが先頭で行こう!」
花原「・・・え?」
山村「安心しろ。このマッスルが坂田金時のごとく、相撲をとってやる・・・」
山村に電気棒を渡す花原「じゃあ、これもあげるよ・・・」
華白崎「・・・そういえば監督は?」
海野「U字工事駅で待ってろって・・・」
・
その時ディーゼルエンジンの音が聞こえる。
軍用のトラックを駅のホームに荒々しく停車させるさくら。
標識にぶつかり、動物注意のパネルが飛んでいく。
さくら「おまたせ!さあいくわよ!」
海野「あ・・・あの・・・先生これって・・・軍用じゃないですか・・・?
SWATとか乗ってる・・・」
山村「レンコ社製のベアキャット装甲トラックだな・・・」
華白崎「なんで、そんなこと知ってるんですか・・・」
さくら「こっから先は獣道しかないからね。
暗くなったら、多分事故で死ぬから乗っちゃって!」
帰ろうとする花原「さ~て、私はそろそろ家に帰らないと・・・」
電気棒で花原を突っつくちおり。
花原「あんぎゃあああ!」
しびれて動けなくなる花原。
花原をひきずりトラックに載せるちおり「しゅっぱーつ!」
海野「・・・・・・。」
・
栃木県の山中は、中国の山水画のような勇壮な大自然が広がっている。
山中で地面を耕しているモンペを履いたセーラー服の女子高生。
茂みが揺れて、高校生の背後から巨大なくまが現れる。
立ち上がるくま「ガルルルルル・・・!!」
女子高生「あ・・・そこに差しといて。」
くま「わかりました・・・」
大木を地面につきたて、バレーボールのポールにする。
女子高生「はい、ご褒美のどんぐり。ご苦労さま。」
くま「いつもありがとうございます・・・!」
アライグマがシマリスと一緒にワラで編んだネットを引きずってくる。
シマリス「ネットが完成しましたよ。」
アライグマ「よおリオちゃん・・・これでいいのか?」
三畳農業高校女子バレー部部長、有葉理央「上出来。」
アライグマ「つーか、オレは気に入らねえな、バレーボールなんかおんな子どもの遊びだろ!?
オレは、これでも森のギャングって言われてんだ。忙しいんだよ・・・」
有葉理央「今週だけ付き合ってよ・・・」
アライグマ「・・・おい。」
シマリスがアライグマに手帳を渡す。
スケジュール帳をめくるアライグマ「マタタビの売人を締め上げるのは来週に回せるとして・・・
木曜日の外来生物イメージ向上会議は日程がずらせねえぞ・・・」
理央「そこをなんとか。」
アライグマ「しゃあねえな。だが、ブルーギルの野郎の機嫌次第だからな、約束はできねえぞ。」
理央「ありがとう。」
アライグマ「イノセとオジカはどうしたんだよ。」
理央「イノセくんは道路公団の仲間と、車両が通行できるように獣道の拡張工事をしてる。
・・・オジカくんは・・・見てないな。」
アライグマ「サボりか、あの野郎・・・」
くま「本当に、こんな山中の学校に人が来てくれるのかなあ・・・?」
理央「伝書鳩によれば・・・おそらく。
白亜高校のみなさんが・・・生きてここにたどり着ければだけどね。」
対戦チケットを取り出す理央。
・
木々をなぎ倒して、獣道を暴走する軍用トラック。
酒をかっくらいながら「一番星ブルース」を歌うさくら。
さくら「男の~旅は~一人旅~」
部員たち「ぎゃあああゆれる!!」
フロントガラスの視界が一気にひらけ、空が広がる。
急ブレーキを踏むさくら「おおっとおお!!」
崖っぷちでギリギリに停車するトラック。
華白崎「一体どこですか、ここは!!」
トラックから降りてくる一同。
さくら「わからん!完全に迷った!!」
地図を広げるちおり「ねー」
華白崎「助手席の会長がナビゲートしてましたよね・・・ちょっとその地図見せてください。」
地図を渡すちおり「おかしいなあ・・・」
華白崎「こ・・・これファイナルファンタジーの攻略本じゃないですか!!」
ちおり「どおりで目印の暗黒大陸が見つからなかったわけだ」
華白崎「ああ・・・完全に遭難した・・・」
崖っぷちのトラックに背中を預けるちおり「どんまーい!」
すると、トラックがゆっくりと前進し、崖から滑落してしまう。
華白崎「あああ~~~!!!」
崖下に落ちていき見えなくなるトラック。
華白崎「トラックが~~!!」
ちおり「・・・どんま~い!」
華白崎「帰りどうするんですかー!」
海野「ま、まあトラックの中に誰も乗ってなかったのが幸いだったよね・・・」
華白崎「乗ってたら大惨事ですよ!」
一同(・・・ひとり足りない・・・!?)
海野「しびれた花原さんが乗ってたーーー!!!」
震えるちおり「い・・・いやだよ・・・花原さん・・・」
華白崎「会長・・・ご自分を責めては・・・」
さくら「うん。サイドブレーキを引かなかった私も責めてはいけない。」
号泣するちおり「花原さああああん!!!」
その時、「三畳農業高校直進200m」の看板に気づくちおり。
ちおり「こっちだ!」
一同「た・・・助かった~!」
海野(え・・・花原さんは・・・?)
・
あばら家のような三畳農業高校。
笑顔で白亜高校を迎える理央「ようこそ~!三畳農業高校へ~!
吹雪せんせ、おひさしぶりです!」
さくら「おっきくなったね~」
海野「白亜高校バレー部部長の海野です。」
扇子を広げてパタパタする理央「わたしは有葉理央!森のバレー部の主将やってます!
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・
ハンドル式の電話の受話器を置く理央
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明日の朝じゃないと救助に向かえません・・・」
海野「そんな・・・」
理央「夜の山は危険すぎる。しかしトラックが滑落した場所は、この山でもかなり治安が悪い・・・
朝まで待てない。」
ダウンジャケットをはおり、懐中電灯を手に取る理央。
理央「私が助け出してきます。」
海野「有葉さんも危険じゃ・・・」
華白崎「二次被害が出ますよ・・・!」
微笑む理央「私はこの山で生まれたんです。だいじょうぶ。」
学校の前に白亜高校の一行を残して、夕闇の山中に消える理央。
理央「森のみんな!鬼切崖から落ちちゃった背の高い女の子を探して!」
茂みが揺れて、ウサギやヤマネ、野鳥などが集まってくる。
アライグマ「なんだよ・・・ねみーな・・・」
理央「夜行性じゃなかった?」
アライグマ「北米から輸入された時の時差ボケで生活リズムが変わったんだよ。」
理央「バレー部の女の子がひとり遭難しちゃったの・・・!」
アライグマ「気の毒だったな。一週間で白骨になるから、火葬場は借りなくていいぜ。」
涙目になる理央「・・・・・・。」
アライグマ「はいはい・・・分かりました・・・野郎ども!仕事だ!!
空中部隊!編隊を組んで鬼切崖の800m四方を捜索・・・!できるだけ低空飛行を維持しろ。
地上部隊!まずは足跡だ!スニーカーのサイズは25.5センチ・・・!
やっこさんが馬鹿じゃなかったら、そのトラックにとどまっているはずだ。
滑落したトラックを探せ!」
頷いて散っていく野生動物たち。
・
木の枝をついて山をさまよう花原
・・・彼女は生きていた・・・!
装甲車だったことが幸いしたのである・・・
しかし、外車の構造がわからず車両を修理することを諦めた彼女は、食料の調達に向かった・・・
花原「あれはナヨタケ・・・食えるわね・・・」
可愛いきのこに気がつく花原。
役立つ知識・・・!
ゲロを吐いて倒れる花原「ナヨタケモドキだった・・・!」
しびれる興奮・・・!!
花原「夜になるとやばいわ・・・早く森から抜け出ないと、さっきから野獣の遠吠えが・・・」
すると、自分の背後に狼たちが集まっていることに気づく。
花原「ははは・・・ニホンオオカミさんは、たしか絶滅したのでは・・・?」
花原に飛びかかる狼の群れ。
花原「きゃああああこいつら絶対狂犬病ワクチン打ってない!!!」
狼が花原に噛み付く刹那、巨大な角を持つシカが突進し、狼を吹き飛ばす。
シカ「彼女は私の客人でな・・・悪いが失礼するよ。」
オオカミ「オジカか・・・貴様とはまだ決着をつけてなかったな・・・
偶蹄類の分際で食物連鎖に抗うとは、馬鹿とは言ったものよ・・・」
シカ「再絶滅したくなかったらやめておけ・・・お前らでは私には勝てんぞ。」
飛びかかるオオカミたち「ほざいたな!やっちめえ!!」
シカ「・・・乗れ!」
シカにまたがる花原「・・・は・・・はい・・・」
オオカミ「少しは個体数減らしとけやああああ!」
狼たちを突進して蹴散らすオジカ「つのアタック!!」
そのまま走り去るオジカと花原
オオカミ「く・・・くそ・・・あの食害クソ野郎!」
オオカミ「いてて・・・ゆうごはんが・・・!」
オオカミ「な~にが、つのアタックだ・・・もう少しかっこいい技にしてほしいよな・・・」
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三畳農業高校の校舎にはまだ雪が残っている。
花原にとってきてもらったバレーボールを抱きしめるちおり
ちおりの頭を撫でる海野「大丈夫だよ・・・花原さんは賢いから・・・」
別の地図を取り出して悔やむちおり「私が地図を間違えなければ・・・」
華白崎「そっちはドラゴンクエストです。いい加減にしてください・・・」
白亜高校一行にかけてくる理央「花原さんが見つかりました!」
ちおり「ほんと!?」
校舎の外に出ると、たくさんの野生動物が集まっており、シカにまたがって花原が戻ってくるのが見える。
ちおり「すげえ!もののけ姫だ・・・!」
憔悴している花原「黙れ小僧・・・」
理央「それでは、こちらの部員も集まったので紹介いたします!」
海野「・・・部員?もしかして、この野生動物が・・・??」
理央「まず、シマダさん!」
キョロキョロする海野たち「・・・え?どこ??」
足元で声が聞こえる。
シマリスのシマダ「ここで~す、お~い!!」
海野「リスだ~~!!」
理央「シマダさんは少々小柄でして・・・」
理央の肩に乗るシマダ。
乙奈「・・・バレーボールの方が大きいと思うのですが、シマダさんはボールはあげられまして!?」
理央「そしてアライくん!!」
アライグマのアライ「おう、よろしくな。ちなみにおすすめの食器用洗剤はジョイだ。
よく研究されてる。」
理央「天才レシーバーのイノセくん!」
ニホンイノシシのイノセ「・・・せっかく道を工事したのに、崖から転落するなんて・・・」
理央「そして・・・チーム1のセンタープレーヤー・・・クマガイさん!!」
巨大なくまが立ち上がる。
逃げ出す白亜高校「うぎゃああああ!!」
ちおりとブーちゃんだけは逃げない。
ちおり「かわい~!プーさんだ~!!」
包丁を取り出すブーちゃん「・・・クマナベ・・・」
クマガイ「ひいいい食べないで・・・!!」
理央「クマガイさんはわりと臆病なんでよろしく・・・」
海野(あってた・・・)
理央「最後に副部長のオジカくん!」
ダンディなオジカ「どうも。そろそろ白馬から降りてもらえるかな、姫。」
慌ててオジカから降りる花原「あ・・・ああ、すいません・・・!助けてくれてありがとう・・・」
オジカ「彼女の怪我は軽傷だが、あの高さの崖から落ちている・・・
鞭打ちなどの後遺症が心配だ・・・」
白衣を着るさくら「了解、見てみる。ここに保健室は?」
アライグマ「東棟の1階にあるぜ。」
さくら「マッスルくん、手伝ってくれる?」
花原に肩を貸すマッスル「無論だ。」
校舎に入っていく、マッスルと花原とさくら。
理央「それでは、今夜は森のみんなで歓迎パーティを準備しました、どうぞ楽しんでください!」
動物たちに混ざってちおり「わーい!!」
切り株の椅子に座る一行。
草花で出来たなぞの料理を食べるちおり「うめー!なにこれ!?」
シマダ「どんぐりとたんぽぽのサラダです。こちらは菜の花のおひたし・・・」
ブーちゃんもひとくち食べて頷く。
ジョッキを傾ける乙奈「あら、これは上品なのどごしですわ・・・」
クマガイ「はちみつを発酵させてヤギのミルクを混ぜたなにかです。」
森の晩餐会の様子を遠巻きに見つめる華白崎と海野
華白崎「・・・なんかもう打ち解けてますよ・・・」
海野「まるでシルバニアファミリー・・・」
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