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十二章 ヴォジャノーイ
八
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空気が張り詰める。そうだ、彼はヴォジャノーイ。魔王軍第二位の、強敵だ。しかし、同時にヴェルシエルにとって、彼はノーイだ。いつも笑顔の仮面をかぶっていた兄に、本心からの笑みをもたらした、大切なお師匠様。自分の気持ちに素直になれない姉を、何だかんだ言いつつも受け入れてくれた、大切な旦那様。自分みたいな化け物と、普通におしゃべりしてくれた、大切な人。
ヴェルシエルは、深く息を吸った。聖剣の顕現を解除し、天を仰ぐ。そんなヴェルシエルに、ヴォジャノーイは怪訝そうな顔をした。槍は下ろさず、警戒は解かず、しかし、ヴェルシエルの明らかな隙を突くことはしなかった。だから、ヴェルシエルは諦めない。ヴォジャノーイから、ノーイを取り返すことを。
「ボクは、ヴェルシエル」
「……は?」
「アナタは、ヴォジャノーイ」
「何を……」
「『天つ星々に告げ知らす』!!」
その詠唱に、ヴォジャノーイが目を丸くして魔力障壁を張った。結界にすらなっていない、魔力の壁を作るだけの抵抗。だがその魔法は既に、発動条件を満たしている。そしてこの魔法は、発動したが最後。
「『天の剣と黒き沼の主は契約する』!!」
「バカお前何してんだ!?」
上級星魔法による契約。しゃらんと音がして、ヴェルシエルとヴォジャノーイの首に、点々と光の粒が散る。それは、星座のようにも、銀河のようにも見えるものだ。瞬間、ヴェルシエルが目を見開いて血を吐いた。ぱりんと音がして、互いの首に纏わりついていた光が砕ける。続いて、ヴォジャノーイが額を手で押さえてうずくまる。頭が激しく痛み、とてもではないが立ってられないのだ。
「なんで……」
「何ではオレの台詞だよバカ……!!」
それは、契約違反による罰。ヴォジャノーイは既に、契約を結ばされた身だ。その契約を上書きして掻き消すような真似は、決して許されない。何を思ってヴェルシエルが契約の魔法をぶちかましてきたのかは一切理解できないが、少なくとも契約違反による罰でこちらを弱らせようという気はなかったようだ。
「マジで何なんだよお前は……やることなすこと訳がわかんねぇ……!!」
「魔王め……」
「は?」
「魔王め、死してなお禍根を残すか!!」
「何で!? 魔王一切関係ないから!! 冤罪だぞそれ!?」
ヴェルシエルが血走った目で憎々しげに叫んで、ノーイは思わずツッコミを入れた。多分、ヴェルシエルは、ヴォジャノーイを縛る契約が魔王のものだと思っている。完全に冤罪だ。これはダンジョンの主のもので、魔王は一欠片も……いや、ダンジョンの主がペイン曰く次期魔王なら魔王の仕業とも言えなくはないのか? ノーイは思わず考え込む。
「死んだものがかけた呪いを解くには、そのものが信じる神を殺さなければならない……でも、ボクは勇者だ。今さら神殺しをためらうなんて、あるわけがない!!」
「即断即決止めな!? 冤罪から走り出した先が大惨事だよ!! 神様もびっくりだわ!!」
「安心してくださいお師匠様、お師匠様を縛る呪いは、ボクが必ず解いてみせるから……!!」
「お前の中でどんな話が展開してどういう理解をして何が腑に落ちたってんだ!!」
槍を影の中にしまってから、ヴェルシエルの頭を叩く。すぱーんといい音がして、ヴェルシエルがはっとしてノーイを見上げた。
「お師匠様……!!」
「頼むから何もしてない神様を殺すとか本当に止めて、無実の罪ってのはお前の仲間にも降りかかった災いでしょ、何でお前が厄災そのものになってんの?」
「大丈夫、ボク、負けない!!」
「あーもーこれ絶対わかってないし話聞いてない……オレがね、契約させられてるのは」
と、そこでノーイは口ごもる。ここでダンジョンの主ですよと言ったら、もっと話がややこしくならないだろうか、いやなる。しかし、それさえヴェルシエルの暴走の燃料と化した。
「わかってる!!」
「いやわかってない絶対にわかってない落ち着け駆け出すな動くんじゃねぇここで大人しくしてろ」
「むぐー!!」
止むを得ずヴェルシエルの影を踏み、拘束する。が、足にかなりの魔力を込めてるのに、ミシミシと音がして拘束が外れそうになっている。コイツ確か自己強化と聖剣の召喚二回と上級炎魔法、上級聖魔法を使ってたから、魔力的には半分以下のはずなのに。ノーイは戦慄して震えた。やっぱり勇者怖い。そういえば星魔法の契約は崩壊だったから半分以下じゃない、ほぼすっからかんになっているはずだ。勇者怖すぎる。
その時、遠くからシェムハザの声が聞こえた。ノーイは頭を抱えて、周りに転がっている人間たちの意識と記憶を飛ばしにかかる。完全に気勢が殺がれてしまった。なるほど勇者というのは殺すのがお得意で、と肩を竦めるも、ヴェルシエルには何もわからなかったらしく、というか実際に何もわかっていないので、満面の笑みが返ってきた。
ヴェルシエルは、深く息を吸った。聖剣の顕現を解除し、天を仰ぐ。そんなヴェルシエルに、ヴォジャノーイは怪訝そうな顔をした。槍は下ろさず、警戒は解かず、しかし、ヴェルシエルの明らかな隙を突くことはしなかった。だから、ヴェルシエルは諦めない。ヴォジャノーイから、ノーイを取り返すことを。
「ボクは、ヴェルシエル」
「……は?」
「アナタは、ヴォジャノーイ」
「何を……」
「『天つ星々に告げ知らす』!!」
その詠唱に、ヴォジャノーイが目を丸くして魔力障壁を張った。結界にすらなっていない、魔力の壁を作るだけの抵抗。だがその魔法は既に、発動条件を満たしている。そしてこの魔法は、発動したが最後。
「『天の剣と黒き沼の主は契約する』!!」
「バカお前何してんだ!?」
上級星魔法による契約。しゃらんと音がして、ヴェルシエルとヴォジャノーイの首に、点々と光の粒が散る。それは、星座のようにも、銀河のようにも見えるものだ。瞬間、ヴェルシエルが目を見開いて血を吐いた。ぱりんと音がして、互いの首に纏わりついていた光が砕ける。続いて、ヴォジャノーイが額を手で押さえてうずくまる。頭が激しく痛み、とてもではないが立ってられないのだ。
「なんで……」
「何ではオレの台詞だよバカ……!!」
それは、契約違反による罰。ヴォジャノーイは既に、契約を結ばされた身だ。その契約を上書きして掻き消すような真似は、決して許されない。何を思ってヴェルシエルが契約の魔法をぶちかましてきたのかは一切理解できないが、少なくとも契約違反による罰でこちらを弱らせようという気はなかったようだ。
「マジで何なんだよお前は……やることなすこと訳がわかんねぇ……!!」
「魔王め……」
「は?」
「魔王め、死してなお禍根を残すか!!」
「何で!? 魔王一切関係ないから!! 冤罪だぞそれ!?」
ヴェルシエルが血走った目で憎々しげに叫んで、ノーイは思わずツッコミを入れた。多分、ヴェルシエルは、ヴォジャノーイを縛る契約が魔王のものだと思っている。完全に冤罪だ。これはダンジョンの主のもので、魔王は一欠片も……いや、ダンジョンの主がペイン曰く次期魔王なら魔王の仕業とも言えなくはないのか? ノーイは思わず考え込む。
「死んだものがかけた呪いを解くには、そのものが信じる神を殺さなければならない……でも、ボクは勇者だ。今さら神殺しをためらうなんて、あるわけがない!!」
「即断即決止めな!? 冤罪から走り出した先が大惨事だよ!! 神様もびっくりだわ!!」
「安心してくださいお師匠様、お師匠様を縛る呪いは、ボクが必ず解いてみせるから……!!」
「お前の中でどんな話が展開してどういう理解をして何が腑に落ちたってんだ!!」
槍を影の中にしまってから、ヴェルシエルの頭を叩く。すぱーんといい音がして、ヴェルシエルがはっとしてノーイを見上げた。
「お師匠様……!!」
「頼むから何もしてない神様を殺すとか本当に止めて、無実の罪ってのはお前の仲間にも降りかかった災いでしょ、何でお前が厄災そのものになってんの?」
「大丈夫、ボク、負けない!!」
「あーもーこれ絶対わかってないし話聞いてない……オレがね、契約させられてるのは」
と、そこでノーイは口ごもる。ここでダンジョンの主ですよと言ったら、もっと話がややこしくならないだろうか、いやなる。しかし、それさえヴェルシエルの暴走の燃料と化した。
「わかってる!!」
「いやわかってない絶対にわかってない落ち着け駆け出すな動くんじゃねぇここで大人しくしてろ」
「むぐー!!」
止むを得ずヴェルシエルの影を踏み、拘束する。が、足にかなりの魔力を込めてるのに、ミシミシと音がして拘束が外れそうになっている。コイツ確か自己強化と聖剣の召喚二回と上級炎魔法、上級聖魔法を使ってたから、魔力的には半分以下のはずなのに。ノーイは戦慄して震えた。やっぱり勇者怖い。そういえば星魔法の契約は崩壊だったから半分以下じゃない、ほぼすっからかんになっているはずだ。勇者怖すぎる。
その時、遠くからシェムハザの声が聞こえた。ノーイは頭を抱えて、周りに転がっている人間たちの意識と記憶を飛ばしにかかる。完全に気勢が殺がれてしまった。なるほど勇者というのは殺すのがお得意で、と肩を竦めるも、ヴェルシエルには何もわからなかったらしく、というか実際に何もわかっていないので、満面の笑みが返ってきた。
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