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十二章 ヴォジャノーイ
六
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さて、邪教の儀式を中断させ、魔道車を走らせる準備を終え、そうすれば後はまだ戻らないノーイを待つ時間になる。すぐにでも追ってきそうな風でいたのに、中々戻らない。数多存在する魔法生物の中でもほぼ最強格であるリーパーを呼び出していて負けることはないだろうが。
「まぁ……面白い男がとびきり面白い男になったと思えば……でもあのヴォジャノーイよ?」
「……敵同士だった男女が惹かれ合って、二人を引き離そうとする運命に抗って結ばれる展開ってどう思う?」
「正直おいしいと思うわ」
星詠みの巫女アリーシャの言葉に即答する大魔女パリカー。その話を聞くでもなく聞いていたダンジョンの主は、おいしいと思うのかとまばたきした。まぁ彼女がここで敵に回っても面倒なので、彼女の中でそういう結論が出たなら特にダンジョンの主から言うことはない。
「僕はノーイさんが何であれ、命の恩人ってことに変わりはないですし……あれ、恩人っていうとまずいですかね、恩モンスター?」
「語呂が悪いから恩人でいいんじゃないか?」
とはいえ、ジューダスの方には口出ししておく。ノーイがどんな状態で戻ってくるかはわからないが、少なくとも恩モンスターと呼ばれるのは嫌がるだろうと考えたからだ。そうですかねぇ、と首を傾げるジューダスからダンジョンの主は視線を外す。
その先では、ランスロットがシェムハザに八つ当たりしていた。ばしばしと背中やら頭やらを叩いている。しかし、シェムハザもランスロットの脛を蹴ったり足の小指を踏もうとしたりしているので……シェムハザの方が陰湿だな、とダンジョンの主は溜め息をついた。
先読みの巫女アルカディアは、儀式を中断させられて不服そうにしていたアークに指示を出し、魔道車に何か仕掛けを施している。特にこちらの害になるようなものでもないので放置していたが、ダンジョンの主の記憶が正しければあれは呪いの一種ではなかろうか。
とかく、ノーイの件についてはそれぞれ結論を出したようなのでよしとしておく。帝国に向かう道すがらで争うのは御免被る。死体は放り出していけばいいのだが、一度助けてやると言った手前やや後味が悪い。その程度には、ダンジョンの主にも人間の心があった。
「……で、お前もついてくる気なのか?」
「帝室御用達の看板がほしくテ?」
なので、今度はショクに声をかける。ショクは相変わらずへらへらとしていて、その本心は読み辛い。恐らくだが、心魔法をかけたとしても弾かれるか掻き消されるか。東のエルフは確かドラゴンとのハーフだったか、だとすれば魔力量は言うまでもなく、などと考えていた時だった。
「それに……多分、この国は終わりデショ?」
「まぁ、それはな」
「勇者パーティーの一員を冤罪で追放したってだけでもアレなのに、元とはいえ魔王軍第二位の怒りを買ったんだカラ。ワタクシでさえ売り買いしたくないモノに進んで手を出す気が知れナイ」
大きな袖で口元を隠したショクは、くっくと嗤った。その、色眼鏡の下に隠された目が細くなる。ドラゴン種固有の、独特の金色を湛えた目が。ダンジョンの主はローブの頭巾を僅かに上げて、静謐な湖のような青い目でショクを見詰める。
「まさかそんなものが出てくるとは思いもしなかったんだろう。奴等は、己の権益を侵しそうになった人間を排除しようと思っただけで、その人間の後ろに人間ではないものがいるなんて思考の埒外だった」
そもそも、人間に味方するモンスターなんて存在自体が稀有なのだ。エルフやドワーフ、マーメイドたちは、半分モンスターとはいえ半分は人間だ。人間とそれなりの付き合いがあるナイトメア種でさえ、友好的ではなく中立的。
だというのに、魔王軍の実質頂点にいたノーイは、人間に友好的で、人間と同じように行動する。人間ではないと知られたのだって、ノーイが悪かった訳ではない。仕方がない成り行きがあって、露見しただけだ。と、そこでダンジョンの主は気づいた。
「……待て、勇者はどこだ?」
見回す、いない。ヴェルシエルの姿がない。どこに、と思った刹那、さっき逃げ出してきた方向から天を焼く炎の渦が見えた。
「まぁ……面白い男がとびきり面白い男になったと思えば……でもあのヴォジャノーイよ?」
「……敵同士だった男女が惹かれ合って、二人を引き離そうとする運命に抗って結ばれる展開ってどう思う?」
「正直おいしいと思うわ」
星詠みの巫女アリーシャの言葉に即答する大魔女パリカー。その話を聞くでもなく聞いていたダンジョンの主は、おいしいと思うのかとまばたきした。まぁ彼女がここで敵に回っても面倒なので、彼女の中でそういう結論が出たなら特にダンジョンの主から言うことはない。
「僕はノーイさんが何であれ、命の恩人ってことに変わりはないですし……あれ、恩人っていうとまずいですかね、恩モンスター?」
「語呂が悪いから恩人でいいんじゃないか?」
とはいえ、ジューダスの方には口出ししておく。ノーイがどんな状態で戻ってくるかはわからないが、少なくとも恩モンスターと呼ばれるのは嫌がるだろうと考えたからだ。そうですかねぇ、と首を傾げるジューダスからダンジョンの主は視線を外す。
その先では、ランスロットがシェムハザに八つ当たりしていた。ばしばしと背中やら頭やらを叩いている。しかし、シェムハザもランスロットの脛を蹴ったり足の小指を踏もうとしたりしているので……シェムハザの方が陰湿だな、とダンジョンの主は溜め息をついた。
先読みの巫女アルカディアは、儀式を中断させられて不服そうにしていたアークに指示を出し、魔道車に何か仕掛けを施している。特にこちらの害になるようなものでもないので放置していたが、ダンジョンの主の記憶が正しければあれは呪いの一種ではなかろうか。
とかく、ノーイの件についてはそれぞれ結論を出したようなのでよしとしておく。帝国に向かう道すがらで争うのは御免被る。死体は放り出していけばいいのだが、一度助けてやると言った手前やや後味が悪い。その程度には、ダンジョンの主にも人間の心があった。
「……で、お前もついてくる気なのか?」
「帝室御用達の看板がほしくテ?」
なので、今度はショクに声をかける。ショクは相変わらずへらへらとしていて、その本心は読み辛い。恐らくだが、心魔法をかけたとしても弾かれるか掻き消されるか。東のエルフは確かドラゴンとのハーフだったか、だとすれば魔力量は言うまでもなく、などと考えていた時だった。
「それに……多分、この国は終わりデショ?」
「まぁ、それはな」
「勇者パーティーの一員を冤罪で追放したってだけでもアレなのに、元とはいえ魔王軍第二位の怒りを買ったんだカラ。ワタクシでさえ売り買いしたくないモノに進んで手を出す気が知れナイ」
大きな袖で口元を隠したショクは、くっくと嗤った。その、色眼鏡の下に隠された目が細くなる。ドラゴン種固有の、独特の金色を湛えた目が。ダンジョンの主はローブの頭巾を僅かに上げて、静謐な湖のような青い目でショクを見詰める。
「まさかそんなものが出てくるとは思いもしなかったんだろう。奴等は、己の権益を侵しそうになった人間を排除しようと思っただけで、その人間の後ろに人間ではないものがいるなんて思考の埒外だった」
そもそも、人間に味方するモンスターなんて存在自体が稀有なのだ。エルフやドワーフ、マーメイドたちは、半分モンスターとはいえ半分は人間だ。人間とそれなりの付き合いがあるナイトメア種でさえ、友好的ではなく中立的。
だというのに、魔王軍の実質頂点にいたノーイは、人間に友好的で、人間と同じように行動する。人間ではないと知られたのだって、ノーイが悪かった訳ではない。仕方がない成り行きがあって、露見しただけだ。と、そこでダンジョンの主は気づいた。
「……待て、勇者はどこだ?」
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