ETDの雑用係

とりい とうか

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十一章 ランスロット

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 エロトラップダンジョンの最上階には、ダンジョンの主とノーイが暮らす居住区域がある。まぁ、ダンジョンの主の研究室やら実験室やら、エルフの商人であるショクが売りつけてきた雑多な品々を放り込んでおく物置やら、色々な部屋が詰まっている場所だ。
 その中には一応ながら応接室、客間、そういう風に呼ばれる所もある。ダンジョンの主とノーイ以外の人間は、基本的にここ以外には入れないようになっている。例外はジューダスで、彼の自認が雑用係の雑用係になっている場合は他の部屋へ入れるように設定されていた。

 なので、この話の始まりはその客間的な部屋からだ。

 大神官であるシェムハザは、ノーイのことを(一方的かつ執念深く)慕っているので、定期的にエロトラップダンジョンを訪れる。そして大抵、ダンジョンの主やノーイの機嫌を取るための品を携えている。今日のそれは濃い色の硝子瓶に詰められた葡萄酒だった。

「甘いのじゃないと嫌なんだけど」

 シェムハザの手によって栓を抜かれ、酒杯に注がれた葡萄酒の色は深く、ノーイから見ればどうにも渋味の方が強そうである。疑い深そうな顔をしているノーイをそのままに、シェムハザは続けて干し果物の詰め合わせを卓に並べた。

「もし口に合わなければお口直しに」
「んー……まぁそんなら飲んでみるけど……」

 にこり、と爽やかそうな笑顔でこちらを見詰めるシェムハザに、ノーイが折れるのはいつものこと。シェムハザが先んじて酒杯を傾けるのを横目に、ノーイもその葡萄酒を口に含み。

「『凝れ土精』!!」

 瞬間、それを盃へと吐き捨てて詠唱。初級土魔法の一つである『凝れ土精』の効果は、土精に関わるものを分別し、集結させること。鍛冶師の職業技能である精錬より精度は落ちるが、集められる種類が多い。
 発動、対象はシェムハザ。否、シェムハザが口にした葡萄酒。分別し、集結させる先はノーイの掌の上。そうして、凝ったのは青を帯びた灰色の小片。小指の爪の先程もないそれが何か、ノーイは知っていた。

「『揺れ動け、迷い惑え、汝が心は玻璃の宮』!!」

 続いて発動させた上級闇魔法と初級心魔法。シェムハザの体の力が抜け、手から酒杯が転げ落ちる。ノーイは、己の偽りの心臓が嫌な速さで鼓動を刻むのを押さえつけながら、彼に問いかけた。

「……お前、この葡萄酒の中に鉛が入ってるって知ってた?」
「いいえ」

 その答えを聞いて、ノーイの緊張が僅かに緩む。そこは最初から疑ってはいなかった。その程度には、シェムハザという人間を信用していた。しかし、ならば。

「この葡萄酒の出処は?」
「名前は知りませんが、見知った神官からの差し入れです。とても甘くて美味しかったから、是非にと」
「そいつから恨まれるような覚えは?」
「さぁ……恨みなんて、知って買うようなものではないでしょう?」

 ぱち、ぱち、とシェムハザが緩くまばたきを繰り返す。ノーイがかけた魔法は思っていたよりもすぐに解けてしまったが、かけ直す気はなかった。そもそもシェムハザが抵抗もせずあの魔法を受けた時点で、多くの疑いは晴れている。

「私を狙ったのか、あるいは私が酒席を共にする相手を狙ったのか、どうにも判りませんね」
「顔見知りなら、何となくでも判らねぇかなぁ?」
「大神官という地位は、貴方が思っているよりも人が群がってくるものでして」
「群がってくるって言うの止めなぁ?」
「量としては……どうでしょう、殺すつもりだったのかどうか」
「あー……どうだろう、人間ってどれくらい鉛飲んだら死ぬ?」
「その葡萄酒に入っていた量ならば、随分と気が長い殺害計画だと言えるな」
「うぉわっ!?」

 突然割り込んだ声に驚き、仰け反ったノーイ。足音もなく歩いてきたダンジョンの主は小さな杖を掲げ、こぼれた葡萄酒やら何やらを魔法で片付け始める。凝れ土精、とダンジョンの主が呟けば、葡萄酒の中から分離させられた鉛が小さな雫のような形になって床に落ちた。

「もしこの味が気に入って毎日のように飲み続ければ、遠からず気が触れて死ぬ程度だとも言える」
「こっわ……」
「しかしよく気づけたな、普通は甘い葡萄酒だなとしか思えんらしいが」
「や、味じゃなくて……あー、うんまぁ、取り込んだらこう、つい癖で色々と……?」

 あまりダンジョンの主に己の手の内を明かしたくないノーイである。もにゃもにゃと言い淀むノーイからシェムハザへと視線を移したダンジョンの主は、もう一度杖を振ってシェムハザに解毒の魔法をかけてやった。
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