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十章 アリーシャ
二
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「……まぁ、アンタらがあの人に巻き込まれただけだってのはわかってるんだけどね、あの人がアンタのことを婚約者だって、浮気したから怒ったって言い張ってるもんだからね」
場所は衛兵団の詰所である。
ノーイと巫女三人衆は、呆然自失のパリカーとよくよく距離を取った状態で衛兵により連行された。事情聴取とのことだ。それこそここで逃げてもよかったのだが、そうすると巫女たちがこの街にこられなくなる。それは本末転倒だと考えたノーイは、渋々ながらそれに応じた。
ノーイだけならば、顔を変えればどうとでもなる。確かに今の顔や姿は気に入っているし、人間でいう所の普段着みたいなものではあるが、執着している訳ではない。が、巫女たちはそうもいかない。世話係とはかくも面倒なものであるのか、とノーイは内心で嘆いていた。
「婚約者じゃないです」
「うん、念のために国と庵に確認したけど、それは確かだったよ。あの人には正式な婚約者はいない。でも、婚約者候補とか、非公式な婚約とか、色々あるだろう?」
「どれでもないです、僕は大魔女様に急に絡まれて、いきなり攻撃魔法を向けられた被害者ですよ?」
常と口調を変え、いかにも一般冒険者、それもそんなに強くはない方ですと装いながら、ノーイは答える。背後の椅子に座らされている巫女三人衆は、流石に空気を読んで黙っていた。
「女性三人で旅をしているこちらの方々……えーと、詳しい事情は話せないんですが……その、見える護衛兼街の案内人として雇われてて……」
「依頼票は?」
「あの、その……ね? あんまり、こう……」
「うーむ……」
高貴な方々が気紛れに市井へ下りて、いわゆるお忍びでの遊びに興じるのはそこそこあるものだ。ノーイはやたらと曖昧な物言いをして、衛兵がそう勘違いするように仕向けた。何せ、巫女三人衆は肉付きこそ足りないが、顔は美しく、仕草も洗練されている。一人を除いて。瞬間、アークは何故か宙を見上げ、何故かとても不服そうな顔になった。
とにかく、衛兵としてはお忍びの貴族云々にはあまり関わりたくないものだ。下手に関われば意味不明な言いがかりをつけられて、変な責任を負わされた挙句に左遷されるか、悪くすれば物理的に首が飛ぶ。今のように、貴族であることを明かしたくないなぁと思っている内に放り出したい。そういうものだ。
「ねぇ御主人様」
「空気読んでた!?」
と、そこでアリーシャがノーイに話しかける。ノーイは反射的に振り向いて叫んだ。アークはともかくアリーシャが状況を読み間違えるなど有り得ない。何せ彼女は、数多の国々を渡り歩いて機密情報を切り売りしてきた女だ。察する力がないとは言わせない。
が、アリーシャは面食らっているノーイも衛兵も意に介さず、すっと立ち上がった。猫のようなにやにや笑いを浮かべ、するりと衛兵に近づく。いくら女とはいえ貴族かもしれない相手だ、不用意に触れてしまい、それこそ見えない護衛に切り捨てられるのは御免だ。そう思って硬直した衛兵に、アリーシャは何事かを囁いた。
「……帰って!!」
「違うよね?」
「見てない会ってない聞いてない知らない!!」
「そう、いい子」
突然耳を塞ぎ目を閉じて叫んだ衛兵に驚いたノーイが仰け反る。が、衛兵はただ何も見ていない聞いていないの姿勢を崩さない。アリーシャはノーイに頬を擦り寄せ、にやにや笑いのまま告げる。
「私たちは今日、平和な一日を過ごしたよ。衛兵の詰所になんて近づいてもいない」
「何!? 何したの!? 怖いよぉ!!」
「褒めて」
「よーしよしよし頑張ったねぇ何を頑張ったかはわかんねぇけど!!」
涙目で己の頭を撫でるノーイに満足したらしいアリーシャが喉を鳴らす。ノーイはついさっき起こった意味不明なやり取りとその結果に恐怖を感じ、ひぃ……と喉の奥で悲鳴を上げた。
場所は衛兵団の詰所である。
ノーイと巫女三人衆は、呆然自失のパリカーとよくよく距離を取った状態で衛兵により連行された。事情聴取とのことだ。それこそここで逃げてもよかったのだが、そうすると巫女たちがこの街にこられなくなる。それは本末転倒だと考えたノーイは、渋々ながらそれに応じた。
ノーイだけならば、顔を変えればどうとでもなる。確かに今の顔や姿は気に入っているし、人間でいう所の普段着みたいなものではあるが、執着している訳ではない。が、巫女たちはそうもいかない。世話係とはかくも面倒なものであるのか、とノーイは内心で嘆いていた。
「婚約者じゃないです」
「うん、念のために国と庵に確認したけど、それは確かだったよ。あの人には正式な婚約者はいない。でも、婚約者候補とか、非公式な婚約とか、色々あるだろう?」
「どれでもないです、僕は大魔女様に急に絡まれて、いきなり攻撃魔法を向けられた被害者ですよ?」
常と口調を変え、いかにも一般冒険者、それもそんなに強くはない方ですと装いながら、ノーイは答える。背後の椅子に座らされている巫女三人衆は、流石に空気を読んで黙っていた。
「女性三人で旅をしているこちらの方々……えーと、詳しい事情は話せないんですが……その、見える護衛兼街の案内人として雇われてて……」
「依頼票は?」
「あの、その……ね? あんまり、こう……」
「うーむ……」
高貴な方々が気紛れに市井へ下りて、いわゆるお忍びでの遊びに興じるのはそこそこあるものだ。ノーイはやたらと曖昧な物言いをして、衛兵がそう勘違いするように仕向けた。何せ、巫女三人衆は肉付きこそ足りないが、顔は美しく、仕草も洗練されている。一人を除いて。瞬間、アークは何故か宙を見上げ、何故かとても不服そうな顔になった。
とにかく、衛兵としてはお忍びの貴族云々にはあまり関わりたくないものだ。下手に関われば意味不明な言いがかりをつけられて、変な責任を負わされた挙句に左遷されるか、悪くすれば物理的に首が飛ぶ。今のように、貴族であることを明かしたくないなぁと思っている内に放り出したい。そういうものだ。
「ねぇ御主人様」
「空気読んでた!?」
と、そこでアリーシャがノーイに話しかける。ノーイは反射的に振り向いて叫んだ。アークはともかくアリーシャが状況を読み間違えるなど有り得ない。何せ彼女は、数多の国々を渡り歩いて機密情報を切り売りしてきた女だ。察する力がないとは言わせない。
が、アリーシャは面食らっているノーイも衛兵も意に介さず、すっと立ち上がった。猫のようなにやにや笑いを浮かべ、するりと衛兵に近づく。いくら女とはいえ貴族かもしれない相手だ、不用意に触れてしまい、それこそ見えない護衛に切り捨てられるのは御免だ。そう思って硬直した衛兵に、アリーシャは何事かを囁いた。
「……帰って!!」
「違うよね?」
「見てない会ってない聞いてない知らない!!」
「そう、いい子」
突然耳を塞ぎ目を閉じて叫んだ衛兵に驚いたノーイが仰け反る。が、衛兵はただ何も見ていない聞いていないの姿勢を崩さない。アリーシャはノーイに頬を擦り寄せ、にやにや笑いのまま告げる。
「私たちは今日、平和な一日を過ごしたよ。衛兵の詰所になんて近づいてもいない」
「何!? 何したの!? 怖いよぉ!!」
「褒めて」
「よーしよしよし頑張ったねぇ何を頑張ったかはわかんねぇけど!!」
涙目で己の頭を撫でるノーイに満足したらしいアリーシャが喉を鳴らす。ノーイはついさっき起こった意味不明なやり取りとその結果に恐怖を感じ、ひぃ……と喉の奥で悲鳴を上げた。
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