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九章 アーク
三
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自称、魔王様の元右腕、ヴォジャノーイ。びゃあびゃあ泣き喚く彼女を推定神官であるジューダスに宥めさせて、根気よく事情を聞き出させた結果、ジューダスからノーイにもたらされた情報はおおむね以下のようなものである。
曰く、彼女の本名はアーク。衆生救済を旨とする箱舟教団の巫女であり、巫女になる前は貧乏子爵の三女であったらしい。言い方は悪いが口減らし或いは身売り的な流れで教団に入ることとなり、それでも先代魔王が存命の間は子爵家にいた頃より余程裕福な暮らしができていたと。
何せ、巫女のスキルである神託はとんでもない。普通ならば諜報を専門とする人間が数か月かけて持ち帰るような情報を、神とかいう何もかもを見通すと評判の存在から一瞬にして与えられるのだ。それは魔王やその配下を討伐する際に大層役立つもので、故に各国からの資金援助……いや、寄進もとんでもない額だった。
「それをですねぇ、魔王様が亡くなられた途端、もう用済みだとか何とか言っていきなりお金配りを打ち切ったんですよ!!」
「うん、寄進か寄付って言いなね、お金配りはいくらなんでも表現としてちょっとあれだからね。ていうか魔王様って何?」
「私たちにお金を恵んでくれていたのは確かに人間の国かもしれませんが、その大元は魔王様ですから!! 魔王様こそ私たちの飯の種だったんですよ!!」
「うん、飯の種って呼び方も止めなね。いや、単純な魔王信奉者よりは許されるかもだけど」
まぁ、そのような理由で食い詰めた箱舟教団の巫女たちは、各々金策に走り回ることになった。ある者は権力者の下に身を寄せ、ある者は他国の軍事機密を切り売りし、そしてアークは新たな脅威を生み出そうとした。
「魔王様の右腕、ヴォジャノーイと言ったら正体不明の大魔法使いって噂でしたし、討伐されたって話もありませんし、だったら魔王様の次に飯の種になってもらってもいいかなって」
「全然よくなくない?」
「ここで魔王様を崇拝するっぽい儀式を繰り返して、ヴォジャノーイって飯の種が……じゃなかった、人間の国の脅威が新たに生まれたって噂が広がったら、教団へのみかじめ料も」
「お金配りよりもっと悪い表現ってあったんだなって」
呆れ返ったノーイに、しかしアークは真剣そのもの。ぷんぷん、とでも音がしそうなくらいあからさまに怒りを露わにする。
「とにかく!! 私がヴォジャノーイってことでこう、わーってやったら教団に縋りつく愚民どもが増えて、またお芋とお野菜のスープが日に三回食べられるように」
「待って、愚民どもって、いやそっちじゃない……え、何、お金もらってた時はもっといいもの食ってたんじゃないの?」
「え? だって教団に行く前はお芋と塩だけのスープでも食べられればいい方だったし……教団ではお芋を食べたいだけ食べていいし、スープにはお野菜が入ってるんですよ? とってもぜいたくじゃないですか!!」
「それって巫女さん皆そうなの? 可哀想じゃない?」
「アルカディア様とかアリーシャ様とかは同じご飯を食べてましたけど」
「可哀想じゃない?」
新米冒険者のふりをしていたノーイでさえ、芋ではなくパンを、スープは野菜と干し肉が入っているものを食べていた。アークが小柄で平たい、直截にいうなら貧相な体つきなのは食事が可哀想だからではなかろうか。
しかも箱舟教団の巫女は皆、同じような食事だという。ノーイの頭の中では、アークのような細っこい女子どもたちが、でっぷりと肥え太った教団長に搾取されている図が浮かんでは消えていった。
「でも、教団長様と同じご飯を食べると私たちの体に悪いからって……たくさんのお肉や白いパンを食べたらお腹を壊したり吐いたりしちゃうかもしれないって……」
「可哀想だよ!!」
ついにノーイの中で何かが決壊した。特に理由はないけれど箱舟教団とやらに遭遇したら潰しておこうと決意する。食に関する可哀想は、とても可哀想だ。まだ生まれて間もなかった頃のノーイは、日々の食事に事欠く暮らしを送っていたので、その手の話題には絆されやすい。とにかくこの子に何かおいしいものを……とノーイは泣きそうになりながらジューダスに頼んだ。
曰く、彼女の本名はアーク。衆生救済を旨とする箱舟教団の巫女であり、巫女になる前は貧乏子爵の三女であったらしい。言い方は悪いが口減らし或いは身売り的な流れで教団に入ることとなり、それでも先代魔王が存命の間は子爵家にいた頃より余程裕福な暮らしができていたと。
何せ、巫女のスキルである神託はとんでもない。普通ならば諜報を専門とする人間が数か月かけて持ち帰るような情報を、神とかいう何もかもを見通すと評判の存在から一瞬にして与えられるのだ。それは魔王やその配下を討伐する際に大層役立つもので、故に各国からの資金援助……いや、寄進もとんでもない額だった。
「それをですねぇ、魔王様が亡くなられた途端、もう用済みだとか何とか言っていきなりお金配りを打ち切ったんですよ!!」
「うん、寄進か寄付って言いなね、お金配りはいくらなんでも表現としてちょっとあれだからね。ていうか魔王様って何?」
「私たちにお金を恵んでくれていたのは確かに人間の国かもしれませんが、その大元は魔王様ですから!! 魔王様こそ私たちの飯の種だったんですよ!!」
「うん、飯の種って呼び方も止めなね。いや、単純な魔王信奉者よりは許されるかもだけど」
まぁ、そのような理由で食い詰めた箱舟教団の巫女たちは、各々金策に走り回ることになった。ある者は権力者の下に身を寄せ、ある者は他国の軍事機密を切り売りし、そしてアークは新たな脅威を生み出そうとした。
「魔王様の右腕、ヴォジャノーイと言ったら正体不明の大魔法使いって噂でしたし、討伐されたって話もありませんし、だったら魔王様の次に飯の種になってもらってもいいかなって」
「全然よくなくない?」
「ここで魔王様を崇拝するっぽい儀式を繰り返して、ヴォジャノーイって飯の種が……じゃなかった、人間の国の脅威が新たに生まれたって噂が広がったら、教団へのみかじめ料も」
「お金配りよりもっと悪い表現ってあったんだなって」
呆れ返ったノーイに、しかしアークは真剣そのもの。ぷんぷん、とでも音がしそうなくらいあからさまに怒りを露わにする。
「とにかく!! 私がヴォジャノーイってことでこう、わーってやったら教団に縋りつく愚民どもが増えて、またお芋とお野菜のスープが日に三回食べられるように」
「待って、愚民どもって、いやそっちじゃない……え、何、お金もらってた時はもっといいもの食ってたんじゃないの?」
「え? だって教団に行く前はお芋と塩だけのスープでも食べられればいい方だったし……教団ではお芋を食べたいだけ食べていいし、スープにはお野菜が入ってるんですよ? とってもぜいたくじゃないですか!!」
「それって巫女さん皆そうなの? 可哀想じゃない?」
「アルカディア様とかアリーシャ様とかは同じご飯を食べてましたけど」
「可哀想じゃない?」
新米冒険者のふりをしていたノーイでさえ、芋ではなくパンを、スープは野菜と干し肉が入っているものを食べていた。アークが小柄で平たい、直截にいうなら貧相な体つきなのは食事が可哀想だからではなかろうか。
しかも箱舟教団の巫女は皆、同じような食事だという。ノーイの頭の中では、アークのような細っこい女子どもたちが、でっぷりと肥え太った教団長に搾取されている図が浮かんでは消えていった。
「でも、教団長様と同じご飯を食べると私たちの体に悪いからって……たくさんのお肉や白いパンを食べたらお腹を壊したり吐いたりしちゃうかもしれないって……」
「可哀想だよ!!」
ついにノーイの中で何かが決壊した。特に理由はないけれど箱舟教団とやらに遭遇したら潰しておこうと決意する。食に関する可哀想は、とても可哀想だ。まだ生まれて間もなかった頃のノーイは、日々の食事に事欠く暮らしを送っていたので、その手の話題には絆されやすい。とにかくこの子に何かおいしいものを……とノーイは泣きそうになりながらジューダスに頼んだ。
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