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白の記録 三
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タイミングがシビア、とてもシビア。何せ三階から一階まで徘徊する十蔵先生を回避しつつ駆け下りて、相手が事を起こす前に制圧しなければならない。そう、制圧だ。それもあって恵一を最初に捕獲しなければならなかった。まぁ、全員生存エンドの流れに従っているともいうのだけれど。
と、ここで憎きあん畜生こと、岸祐樹について語ろうと思う。ポジション的にはミステリアスな同級生。博識で、クールで、包容力があって、キザっぽい所もチャームポイントだと思われる。私の推しではない、というか、私は彼にヘイトを向けている人間の一人なので、思われるとしかいえないのだけれど。
そう、ヘイトだ。私はあの苦行のような周回の中で……いや、私じゃないな、ゲームの主人公である有子は彼に何度も殺された。中盤のバッドエンドの六割が彼関連だといえば、この憎悪が少しでも伝わるだろうか。
しかも好感度が高ければ高いほどバッドエンドになるとかはっ倒すぞとしかいえない。いや、上がり切ってしまえばBエンドになるのだけれど、あれはあれでなぁ。後日談で絶対に有子が殺されてる風の描写があったからなぁ。許さん。
奴は、サディストだ。それと、頭がおかしい。こう、頼れると見せかけておいて実は敵みたいなポジション。ファンの間では二重人格説がささやかれていたけれど、後日発売された設定資料集で普通に頭がおかしい人物だと言及されていた。単純に、猫をかぶるのがうまかっただけだと。
「あ……有子、速い……待って……!!」
「待てない!!」
追いかけてきている恵一がひぃひぃと荒い息を繰り返している。野球部で鍛えられてるでしょ情けない、とは思ったけれど状況が状況だ。けれど、恵一がいないと奴を止められない。ほんの少しだけ減速しつつ、頭の中で奴の現在位置を予測する。
と、そこで聞こえた悲鳴。ヤバい、始まった。あん畜生の人間狩り、あん畜生に言わせれば楽しい楽しい鬼ごっこ。完遂されたら普通に殺人罪であり、そして初犯が成立した時点で全員生存エンドへのルートが閉ざされる。
どうする、あの声からするに現場は……まずい、もしかして既に全員生存エンドは絶望的か? いや、まだだ、私は恵一を教室に引きずり込めたことで確信している。私は、ある程度、原作の選択肢を無視して行動できる。転生的な物語でよくあるような、強制力の存在はまだ感じられない。
「……ッ、お父さん、助けてェー!!」
刹那、絶叫したのは私。ぎょっとして立ち止まる恵一。これは賭けだ。そしてごめん、犠牲者君。でも、祐樹に嬲り殺されるよりはマシだと思ってほしい。そして聞こえてきたチェーンソーの音と、重たい駆け足の音。私はそれが自分の背後から聞こえてきたことを確認してから、恵一の腕を引っ張って走り出した。
何をしたのかって? 私はこのゲームの設定資料集まで買ったプレイヤーだ、各キャラクターの裏話も熟知している。だから、有子の声帯を持つ私があぁして叫べば、十蔵先生が全力でやってくることも知っていた。
十蔵先生は、娘を殺されている。そのことを、ずっとずっと悔やみ続けて、犯人たちを殺害して、自殺した後も人間を殺して回るようになった怨霊だ。だから彼は、娘を殺した犯人たちと同年代、同じような姿の男を執拗に狙って殺そうとする。そういう、キャラクターだ。
そして、主人公である鏡野有子は、彼の娘によく似ているのだという。だから、彼は有子を守ろうとする。恵一を殺したのだって、有子が恵一に殺されると誤認したから……いやまぁ、ルートによっては恵一も有子を殺しにくるので誤認と言い切るのはちょっとまぁ、うん。
とにかく、有子の声で、彼の娘と似た声で、あぁ叫べばどうなるかといえば結果は火を見るよりも明らか。彼は、娘を助けようと、全力で走ってくる。そして、娘を殺そうとした男を、惨殺しようとする。
「何!? 何!?」
「走って!! あっ見つけた畜生……じゃない、祐樹!! と、ぎせ……えぇとモブ、じゃなくて……とにかく走って!!」
危ない、犠牲者君というのは流石に人の心が失われている呼び名だ。私は恵一とあん畜生、そしてモブ君(仮)を引き連れて廊下を疾走した。
と、ここで憎きあん畜生こと、岸祐樹について語ろうと思う。ポジション的にはミステリアスな同級生。博識で、クールで、包容力があって、キザっぽい所もチャームポイントだと思われる。私の推しではない、というか、私は彼にヘイトを向けている人間の一人なので、思われるとしかいえないのだけれど。
そう、ヘイトだ。私はあの苦行のような周回の中で……いや、私じゃないな、ゲームの主人公である有子は彼に何度も殺された。中盤のバッドエンドの六割が彼関連だといえば、この憎悪が少しでも伝わるだろうか。
しかも好感度が高ければ高いほどバッドエンドになるとかはっ倒すぞとしかいえない。いや、上がり切ってしまえばBエンドになるのだけれど、あれはあれでなぁ。後日談で絶対に有子が殺されてる風の描写があったからなぁ。許さん。
奴は、サディストだ。それと、頭がおかしい。こう、頼れると見せかけておいて実は敵みたいなポジション。ファンの間では二重人格説がささやかれていたけれど、後日発売された設定資料集で普通に頭がおかしい人物だと言及されていた。単純に、猫をかぶるのがうまかっただけだと。
「あ……有子、速い……待って……!!」
「待てない!!」
追いかけてきている恵一がひぃひぃと荒い息を繰り返している。野球部で鍛えられてるでしょ情けない、とは思ったけれど状況が状況だ。けれど、恵一がいないと奴を止められない。ほんの少しだけ減速しつつ、頭の中で奴の現在位置を予測する。
と、そこで聞こえた悲鳴。ヤバい、始まった。あん畜生の人間狩り、あん畜生に言わせれば楽しい楽しい鬼ごっこ。完遂されたら普通に殺人罪であり、そして初犯が成立した時点で全員生存エンドへのルートが閉ざされる。
どうする、あの声からするに現場は……まずい、もしかして既に全員生存エンドは絶望的か? いや、まだだ、私は恵一を教室に引きずり込めたことで確信している。私は、ある程度、原作の選択肢を無視して行動できる。転生的な物語でよくあるような、強制力の存在はまだ感じられない。
「……ッ、お父さん、助けてェー!!」
刹那、絶叫したのは私。ぎょっとして立ち止まる恵一。これは賭けだ。そしてごめん、犠牲者君。でも、祐樹に嬲り殺されるよりはマシだと思ってほしい。そして聞こえてきたチェーンソーの音と、重たい駆け足の音。私はそれが自分の背後から聞こえてきたことを確認してから、恵一の腕を引っ張って走り出した。
何をしたのかって? 私はこのゲームの設定資料集まで買ったプレイヤーだ、各キャラクターの裏話も熟知している。だから、有子の声帯を持つ私があぁして叫べば、十蔵先生が全力でやってくることも知っていた。
十蔵先生は、娘を殺されている。そのことを、ずっとずっと悔やみ続けて、犯人たちを殺害して、自殺した後も人間を殺して回るようになった怨霊だ。だから彼は、娘を殺した犯人たちと同年代、同じような姿の男を執拗に狙って殺そうとする。そういう、キャラクターだ。
そして、主人公である鏡野有子は、彼の娘によく似ているのだという。だから、彼は有子を守ろうとする。恵一を殺したのだって、有子が恵一に殺されると誤認したから……いやまぁ、ルートによっては恵一も有子を殺しにくるので誤認と言い切るのはちょっとまぁ、うん。
とにかく、有子の声で、彼の娘と似た声で、あぁ叫べばどうなるかといえば結果は火を見るよりも明らか。彼は、娘を助けようと、全力で走ってくる。そして、娘を殺そうとした男を、惨殺しようとする。
「何!? 何!?」
「走って!! あっ見つけた畜生……じゃない、祐樹!! と、ぎせ……えぇとモブ、じゃなくて……とにかく走って!!」
危ない、犠牲者君というのは流石に人の心が失われている呼び名だ。私は恵一とあん畜生、そしてモブ君(仮)を引き連れて廊下を疾走した。
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