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おっさん、綾華と部屋で過ごす

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「お帰りなさいませ、英二様」

 お袋から割り振られた部屋で綾華は満面の笑みで出迎えてくれた。
 自分の実家の客室でお帰りなさいと言われるのも変な気がするが。
 一週間も綾華と同じ部屋なわけだが本当に綾華は良いのだろうか。

「とりあえず、一週間も俺と同じ部屋な訳だけど本当にいいの?」
「もちろんですわ、わたくし夢の様ですの。まるで夢が叶ったようですわ」
「えぇと、一応俺も男なんだけど?」
「はい、英二様は素敵な殿方でございますわ」

 ……うん、この子には俺が何が言いたいか伝わっていない。
 純粋培養なお嬢様だからなのか、同じ部屋に男女が一緒にいるという危険性が分かっていないな。
 綾華はニコニコしながら俺が持っていたコートを受け取り、クローゼットにかけてくれた。

 既に沸かしてくれていたのだろう、ポットの白湯さゆを急須きゅうすに注ぎ温かいお茶を用意してくれた。
 暖房は効いているが体の芯を早く温めるには温かいお茶がありがたい。

「ありがとう、お茶美味い」

 実家のお茶ではあるのだが、温泉旅館だけに地元の高級茶を使っている。
 高級茶も淹れ方次第では渋くなってしまうのだが、茶道を嗜んでいる綾華は急須での淹れ方も分かっている様だ。
 俺の言葉に綾華は微笑みながら、隣に座ってきた。
 この前の様に身体を預けてはこないが距離が近い。

「一週間、何して過ごす? 俺は親父たちを手伝うつもりで来たけど」
「わたくしも何かお手伝い出来ることがあれば良いのですが」

 そういや、綾華の出来ることってなんなんだろう。
 旅館業務は体力業務だ。炊事・洗濯・掃除に配膳業務。
 受付や経理の仕事もあるが、綾華が受付をしたら場違い感丸出しだし経理を他人に任すなんてあり得ない。

「そうだな、何かあったら頼むと思うから」
「かしこまりました。それまでは英二様の身の回りのお世話をさせていただきますわ」
「あ、うん。別に特にやることないと思うけど頼むね」
「先ほど、この部屋を一通り確認させていただきましたが、良い部屋ですわ。くつろげますもの」

 綾華は何故か顔を赤くし俯いてしまった。特に落ち込んだとか泣いているという風でもない。
 ヒザの間で指を絡ませ、心なしか身体をもじもじさせている。トイレか?

「どうした、綾華?」
「あの、その……」
「うん?」
「こういうのって、夫婦みたいですわね」

 ……もはや何も言うまい。綾華はクビまで真っ赤にして顔を手で覆ってしまった。
 今の綾華は防寒着を脱いでいるため、四条家で見るお洒落な私服だ。
 髪の毛を後ろで束ねて横に流しているため、今の俺の位置からだと綾華のうなじが良く見える。

 桜色に染まったうなじは妙に可愛すぎ、思わず綾華の頭を撫でたくなったが、この密室で撫でたらブレーキが効かなくなりそうなので我慢した。
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