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おっさん、綾華のお手前を堪能する

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「ごめんごめん、別に可笑しい訳じゃないし責めているわけでもないよ」
「……でも、笑いましたわ」
「ごめんね、なんか可愛いなぁって思ってさ。なんつーか、年相応の姿が見れたっていうか。今までの綾華さんはお嬢様みたい感じで少し接しづらい部分があったから」

 涙ぐむのは止まったものの、今度は複雑な表情をされた。
 その場で正座し直し、背筋を伸ばしながらも不安げな目で言ってくる。

「わたくし、そんなに接しづらいですの?」
「いや、接しづらいって言うか、住む世界の違くて勝手に気後れしちゃうっていうか」
「ふふふ、若宮様の方が年上なんですし気後れなんてしないでくださいませ」
「そう言われてもねぇ。努力はするよ」

 言って直せるもんじゃないし、気にしない様になって慣れたら問題なんだけど。
 とりあえず、変な誤解は解かないとな、そもそも世界が違うからかく恥も無い。

「あー、正直に言うと茶道なんてしたことないから、どう飲めばいいか分からなかったんだ。ほら、なんか茶碗をクルクル回すとかあるのは知っているんだけど」
「左様でしたか。気を使わせてしまい申し訳ありません、お気になさらずに飲んでくださいませ」

 足の痺れから回復した綾華は棚から高級そうなようかんを切り分けて懐紙かいしにお盆にのせて運んできた。
 俺も綾華と一緒に元の位置に戻り、おたがいに向き合いながら正座する。
 懐紙に添えられた楊枝ようじで羊かんを切り分けて口に運ぶ。

 口の中に痺れる様な甘さが広がり、蕩けるような食感が口の中に行き渡った。

「美味い、何この羊かん。羊かんってこんな食感だっけ。甘みもまろやかだし、上品な甘みってこういうことを言うのか」
「恐れ入ります。お気に入りいただけたみたいで嬉しいですわ。代々お世話になっている京都の老舗の品ですの」

 さすが千年王都の京都の味だ、格が違う。
 そのまま出された抹茶を飲んだら、口の中の甘みが旨みに代わり滑らかに口を通り胃に染み渡った。
 抹茶って苦いもんじゃなかったっけ、こんなに美味いもんだったんだ。

「ふぅ、美味かった。羊かんも抹茶もこんなに美味いって感じたのは初めてだよ」
「ふふふ、ありがとう存じます。ご希望であれば、いつでもお出しいたしますわ」
「いや、いつでも食べたいけど、食べ過ぎたら更に太りそうで困るなぁ」
「わたくしは若宮様がふくよかになられても気にいたしませんわ。だから、いつでもおっしゃってくださいませ」

 ……いや、既にふくよかを通り過ぎて、実は健康診断の結果が色々とやばいんですが。
 なんかだかなぁ、都合がよすぎて逆に怖い、実はドッキリでしたぁって看板を持ったおっさんが出てきても可笑しくない状況なんだし。
 思わず隠しカメラがないか室内を見渡してしまった。

「どうか、いたしまして?」
「いや、どっかに隠しカメラがあるんじゃないかと……」

 キョトンとした顔で顎に人差し指を当てて首をかしげる綾華。
 お嬢様は隠しカメラという単語すら知らないのかもしれない。
 知っていいたとしても、脈絡なく言われれば混乱するか。
 変にとりつくろえばさっきの二の舞だ、ストレートに言った方が伝わるか。

「なんでもない。気にしないでくれ。なあ、それよりちょっと聞きたいことあるんだけどいいかな?」
「何でも聞いてくださいませ」

 何でもって言われると卑猥なことも聞いていいのかという考えが頭をよぎるのは下種の極みだろうか。
 そっち系の事もいつか聞いてみたい気もするが、聞いた瞬間に軽蔑されこの関係は終わるだろう。
 終わってもいいとは思っているが、何もいま彼女を傷つけてまでする事じゃない。

 それよりも、今は真面目な質問だ。

「あのさ、前に俺の人生をお世話するって言ってたでしょ。その、なんで俺なの? 俺じゃなくても若くて格好良くて頭もいい人たちは沢山いるでしょ」

 そう、亡くなった兄の代わりなら俺じゃなくてもいいはずだ。
 亡くなった兄ですら、年齢を計算すると二十六,七で俺よりも一回り以上若い。
 何も好き好んで、こんな頭髪の薄い太ったおっさんを選ばなくてもいいだろうに。

 綾華は困った顔で顔を赤らめながらも真剣に考えてくれているが、よくよく考えれば恋人同士ですら照れる困った質問か。
 ましてや、俺は恋人でもないし流れのままに傍にいるだけで、一緒に住まわせてもらっているだけなのに。

 明らかにデリカシーのない質問だ。
 質問をとり消そうかと思った時、綾華は優しい目で俺を見てきた。
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