ドМ彼氏。

秋月 みろく

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最終話「初踏みの日」

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「でも主任はロボットじゃないからね」


 美里は念を押すみたいに言った。


「えー?ロボットみたいなもんじゃーん?」

「あんたねえ……」

「そうそう、この間なんて凄かったよな」


 隣に腰を下ろしながら、スムーズに会話に参加してきたチビ朔を見て、私はもはや驚かなかった。


「ホントどこでも現れるね?バイキンかな?」

「俺は見張ってるわけじゃねーからな。あ、てかこの間あいつがうちに来たぜ」


 軽い調子で言って、「おばちゃん牛丼大盛りつゆだくで」と注文を済ませる。


「あいつって主任のこと?」

「ああ、舞ちゃん問題勃発したあの日だよ。あの後あいつ追いかけて来なかったじゃん?なにしてたか知ってる?お前にもらったビンタ跡を残す方法考えてたってよ」

「プレゼントのつもりじゃないんだけどな。で、主任はなにしに来たの?」


 主任とチビ朔という組み合わせは異色な気がした。2人でどんな会話をするのか、想像つかない。


「んー?なんか謝りたいってよ。どうやったら許してもらえるか知りたいってさ。人に謝った経験がほとんどないんだって。そういえばあん時はあんまりロボットっぽくなかったな」


 そのときのことを思い出すようにチビ朔は視線をあげる。


「聞いといてなんだけどさ、あんたなんでも喋っちゃうんだね」

「俺に言ってきたってことは、清水に伝わるのも想定内だろ。それにしても、おかしーんだよな」

「なにが?」

「あいつ、相談に来たわりには、とくに助言を求めずにすぐ帰ってったんだよなあ」

「ねえ、それってさ、たまにはあんたとコミニケーション取りたかっただけなんじゃないの?」

「気持ちわりーこと言うなよ……。あ」

「なに?」

「あいつ、お前が望むなら別れるってよ」


 ……え?


「よかったじゃん」とチビ朔が私の顔を見る。


 急に呆けてしまった。別れる……って言えば、主任は受け入れる。それってなんか……予想外だ。


「そうね、今ちょうどその話をしてたの。主任に別れを告げるって。詩絵子、よかったじゃない。平和に別れられそうよ」


 美里が冷静に言う.
 パチンと割り箸をわる音がして、この話に終止符を打ったようだった。




 主任とはオフィスで顔を合わせるけど、相変わらず上司と部下だった。

 舞ちゃんが、たまに主任に話かけていて、内容は仕事の質問とかなんだろうけど、なんていうのか……楽しそうに見えた。

 いつも真一文字に引き締められた主任の口も、心なしか……緩んでいるようないないような……。


 ふ~ん。ま、いいや。もう別れるんだし。舞ちゃんとうまくいけばいいじゃん?舞ちゃんなら美人で愛想がよくてみんなに好かれてて、主任にもお似合いだしさ。

 舞ちゃんが主任の本性知って引いちゃわないといいけどね?心配なのはそれくらいだよね。

 私には、無理だった。


「…………」


 ていうかこれって超いいじゃん!舞ちゃんが主任を引き受けてくれればいいんだよ!舞ちゃん押しも強いし、Sの素質ありそうじゃん!?

 そこまで考えて、私はデスクにうなだれた。固くて平らなデスクにほっぺたをくっつけると、はあ~っとため息がもれた。


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