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「クソバカ駄犬」
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しおりを挟むチビ朔の背中をぐいぐい押す。でも、隠れる場所が見当たらない。
「お前、ついにチビって言ったな。朔はどうした、俺が消えたじゃねーか」
「しっ!」
今度は私がシー…の仕草をする。
「主任帰ってきたよ。どうしよどうしよ、どこに隠れよう」
「それならほれ、こっちはどう?」
おろおろする私に、チビ朔はある場所を指さした。
「階段……なんてあったんだ、この家に」
「俺の部屋も同じつくりだから。ロフトだよ。上もけっこー広いぜ」
私たちがロフトに上がったのと、リビングのドアが開いたのは、ほぼ同じタイミングだった。『セーーーーー…フ』、呼吸音みたいな声で同時に言って、私たちはロフトからちょっと目を出して主任の様子を見てみた。
主任はリビングの入口から、玄関の方を振り返った不自然な体勢で止まっていた。
「主任、なにしてんだろ?」
「動かねーな……。あ」
「なに?」
「あいつ、ロープ様見てるんじゃねーの?」
チビ朔の言うとおり、主任は入口に落ちているのか置いているのか供えてあるのかはよく分からないけど、とにかくそこにあるロープ様を見ていた。
「清水、あれ触ってないよな?」
「触るわけないじゃん、祟られたくないもん」
「だよな。触るとロープ様が発動しちゃうもんな」
主任はやがてロープ様の横にしゃがみ、そっとなにかをつまんだ。
「服の繊維……?さっきまでここに落ちていなかったような……」
間近で視認するのがやっとという極小の服の繊維らしいものを、ロープ様の上からつまみ上げて主任は呟く。
(し、清水、おまえあそこに服の繊維落としたんじゃねーか?)
(し、知らないよ!落としたとしても気づかないよ!)
(そりゃそうだよ、あいつはなんでナチュラルに気づいてんだよ!しかもさっきまではなかったことを把握してるっぽいぞ!)
(これはどんな些細なことでも気づかれちゃうよ!あんた、ちゃんとゲームは戻してきたの!?)
(それはばっちり元の場所に戻して……)
「おや?」
主任がまた何かに気づいたらしい。テレビの方に寄っていき、そこで腕組みをしてゲームの辺りを凝視し始めた。
(やばい……見てる……ゲームらへんをめっさ見てる……)
(やっぱり場所間違ってんじゃないの!?)
(そんな……俺はたしかにちゃんと……)
「2ミリずれてるな」
主任は見た目には分からないくらい、ほんの少しだけゲームを動かして元の位置に戻す。
(くそー!2ミリズレてたかー!)
(2ミリならたいしたもんだよ!かなり正確に元に戻してるよ!)
(他は!?他は大丈夫か!?俺らなんか動かしたっけ?)
(大丈夫……なはず。まだここに来て数分だったし)
(いや待て。俺らたしか……ソファーに座ったよな……?)
「ん?」
チビ朔の声を聞きつけたがごとく、主任の鋭い目がソファーに向けられる。主任は顎に手を当てて、ソファーを目で点検していく。
「背もたれに、指のような跡が……」
(くあっ!あれだ、パスタだ)
(あー、パスタつまんだあとに座っちゃったから)
(……)
(……)
パスタ……?
(そうだよそうだよ!私たちパスタつまみ食いしちゃったじゃん!)
(いや、さすがにバレねーって!皿の中に何本の麺あると思ってんだよ!気づくはずねーだろ!)
「おやや?」
((!!))
主任のその目は、ついにパスタへ向けられた。
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