ドМ彼氏。

「デートしましょうよ」

3

　年齢の分そこそこの役職にはついてるけど、この人ぜったい仕事してないよね。
ホントこの人のいる部署に配属されなくてよかったあ。

　こっちは仕事してるのに、ばかでかい声で文句を言い続けるもんだから最悪。つのるイライラ。最低の空気。


「申し訳ありません。まだ期限までには日がありますから、それまでには……」


　しょうがないから対応している女の子がかわいそう。舞ちゃんっていう、可愛くて人気のある子なんだけど。たぶんこのおっちゃんは、舞ちゃんに気があるみたいで、なにかとセクハラっぽい発言をする。


「ま、君の顔に免じて許すけどさっ。でももし納期を過ぎたら、罰としておっぱい揉ませてよ。なあーーーーんって！がはは！」

「……はは」

「冗談だよ冗談！でも君も大変だよねー君は仕事できるから、こんなのろま集団の遅れた仕事やらされてんだろ？うちの部署にきてくれれば、もっと優遇するのになあ‥…おい！何見てんだ！こっち見てる暇あったらとっとと仕事しろ！」


　向けられる視線に蔑視が含まれていることには気づいたのか、おっちゃんは目を剥いてキレる。


「っち。ほんとろくでもねえのろまだなあ？俺が若いころは」


　言いかけたところで、オフィスのドアが開く。入ってきたのは、主任だった。時が止まったみたいに静まり返った。

　主任はおっちゃんを見下ろして、凛とした声で問いかけた。


「うちの精鋭たちになにか？」


　へこへこと逃げ出すおっちゃん。「ありがとうございます！」、深く頭を下げる舞ちゃん。一気に取り戻される私たちの尊厳！みるみる上がるやる気！

　この人は、私たちを認めてくれてる！

　こぉ～～～んなにかっこいい主任だよ？土下座名人のドエムだなんて言ったら、私が同僚にハーフ殺しくらいにはされちゃうよぉ～！


「清水」


　ふと気が付くと、主任がこっちを見ていた。みんなに注目されている人が急に私を呼ぶから、ちょっと驚いて「は、はい！」と元気に返事をしてしまう。


「この間実施した社内アンケートなんだが……ちょっといいか？」


　主任は会議室へ来い、としめす。そこに行けば、必然的に二人きりになる……。ああ、女性社員の『いいなあ』っていう心の声が聞こえてきそうだよ！

　ふっふっふー。なんといっても、私はこの人の彼女！あの向井主任の彼女なんだよ！？みかにゃん(帝人からとった愛称)ったら、私と２人きりになりたくなっちゃったのかにゃあ～？

　２人きりの会議室……。みんなには秘密の関係……。彼氏彼女が２人になれば、たとえ無機質な会議室であっても、そこはさながら甘いあま～いサンクチュアリ！