ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「変態VS変態VS変態」

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「はあ、はあ……よかった、追いつかれなかったみたい」

「ったく、あんな変態どもに付き合ってらんないよな。ほら、帽子も取ろうぜ」


 私は黄色の帽子を脱いで、それでパタパタと顔をあおいだ。


「ふうー疲れたー。それにしても、ここってどこなんだろ?」

「どっかの山だろ。ちょっと落ち着いたら、街に戻ってタクシーで帰ればいいよ」

「そうだね。ていうかなんなの?あんたが連れてきた新種の変態は。超怖いんだけど」

「あー、涼子さん?恐ろしいよな。俺としたことが、こうも簡単に策にハマっちゃうなんて」

「朔が策に?」

「そうそう。朔だけに策に」

「……」

「……」


 面白くもないことを言い合ったあとで、私たちはバカらしくなって肩を落とした。それからなんの気なしに、空を見上げてみた。

 空はほとんど見えなかった。木枝と葉っぱたちが暗く風に揺れていて、隙間を埋めるようにある黒が、窮屈な空という景色があるばかりだった。

 そこはかとない不気味な光景に思えて、急に汗が冷えるみたいだ。私はぶるるっと身震いをした。


「よ、夜の森って、チビ朔は経験ある?」

「えー?さすがに森でエッチはないな~虫とか寄ってきたらヤダし、体位も限られて、なんかしゅうちゅ…」

「ハアーーーアッ!!」


 私は今日一番の気合をいれて、右ストレートを放った。


「なんだよなんだよ!今のはお前の聞き方に問題があるだろ!?」

「四六時中そんなことばっか考えてるから、なんでもそっち方向に聞こえんでしょ!なにナチュラルに答えてんのよ!」

「ナチュラルならいいじゃん!あ、そういえば、四六時中って、かけ算の4×6=24。つまり24時間、一日中って意味だってさ」

「へえー、なるほどねえ。そんな成り立ちがあるんだ」

「おいらの豆知識」

「……」

「……」

「……そろそろ戻るか?」

「……そうだね」


 来た道を戻っていると、チビ朔が思い出したように言った。


「そういえばさ、変な夢みた」

「夢?」

「うん。俺とお前は妖精で、双子の兄妹なんだよ。そんで、ボノレルって木の樹液を求めて森を探索すんの」

「なにそのメルヘンな夢は」

「ボノレルの樹液はすげーんだぞ。空だって飛べるんだからな。ないかなーボノレルの樹」


 チビ朔は辺りを見回し始める。そしてすぐに「わきゃー!!!」と叫んだ。


「きゃあー!!!なによなによ!!」

「なんかいる!なんかいるよ!!」

「や、やだやだ!!怖いこと言わないでよ!!」


 それは蛇だった。


「な、なんだ、ただの蛇じゃないの。霊的なものかと思ったじゃない」

「へー蛇は平気なんだ?」

「幽霊さん様よりはね」

「なんでそんなへりくだった呼び方なんだよ」

「どこかで聞いてらっしゃるかもしれないでしょ。私は呪われたくないんだから」


 チビ朔は蛇に近づき、木の棒でつついた。


「おー、怒ってる怒ってる、威嚇してくるぜ」

「あんたね、ランドセル背負ってそんなことしてると、本当に小学生に見えるよ」

「あー……これマムシってやつじゃね?」


 チビ朔はしゃがみこんで、持っている木の枝に巻きついてくる蛇を観察する。


「へえー、蛇の種類なんて分かるんだ?」


 私も隣にしゃがむ。


「まあな、ガキの頃はよく捕まえて遊んでたし」

「うっわー、すっごい想像つくね」

「昆虫博士とか言われてたしな」

「ヘビは昆虫じゃないじゃん」

「まあまあ、そんな細かいことはガキだから。今でもけっこう覚えてるぜ。なんでも聞いてみてくれよ」

「う~ん、そうだなあ……じゃあさ、このマムシって蛇はどんな蛇なの?」

「よしよし、昆虫博士がお答えしましょう。まず、これはかなり有名だけど、マムシは毒蛇だ。毒を持ってる」

「それくらいなら私も知ってるよ、マムシと言ったら毒蛇、毒蛇と言ったらマムシってくらいに……」

「……」


 ギギギ……錆びた音が鳴りそうな動きで、私たちはぎこちなく顔を見合わせる。


『ど、毒蛇だぁああーーーー!!!』


 マムシを放り、私とチビ朔は別々の方向に逃げ出した。そこで私たちは、夜の森ではぐれてしまった。



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