92 / 188
「興奮しちゃうじゃないですか」
6
しおりを挟むぽつんと一言吐き、彼女はすぐに風呂場へ戻っていく。すぐにシャワーを浴びる音が聞こえてきたが、私はしばし放心し、それからヘタリとその場に座り込んだ。
な、な、な、なんなの今の!?すごい躍動感だったんだけど!!殺しにかかってる!?
私は洗面台を掴んであわあわ立ち上がり、壁づたいに部屋に戻った。またメールが着ていた。
『もしもの時は、すぐにベランダから脱出してください』
ベランダ!?なぜベランダ!?ベランダなんて行っちゃったら、逃げ場ないじゃん!飛べってか!?ここ二階だよ!
ガチャ。背後で、ドアが開く。私はスマホを背中に隠しながら振り返った。髪をタオルで抑えながら、美雪さんが立っていた。
「はやかったですね……」
なんだか息が苦しく思えた。大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせる。
美雪さんは私と同じか弱い女性だ。武器らしいものなんてなにも持ってないみたいだし、殺人なんてするはずないよ。
「メール中でした?」
視線が、私の腹あたりに下がる。彼女には、背後で握り締めているスマホが、透けて見えているみたいだった。
「え?ま、まあ」
「メールといえば、私、何度も帝人さんにメールを送ったんですよね。でも、一度も返事はきませんでした」
彼女は虚ろな目をしていた。どこを見ているのか分からない、焦点の定まらない目だ。
「返事がないと、寂しいものです。あなた、清水さん?」
「……清水詩絵子と、言います」
「返事は、してあげてくださいね。誰からのメールかは、分かりませんが……いつどの瞬間が、最後になるか、分かりませんから……」
彼女の目の焦点が、私に定まる。今まさに銃口を向けられているような、そんな威圧的で無機質な目だった。
「さ、さっきの……」
私はなんとか声を出す。
「さっき、シャワーで私を殴ろうと、しませんでしたか?」
なんでこんなことを聞いているのだろう。言いながら思った。こんなことを聞いて、どうするつもりなんだろう、と。
美雪さんはしとやかに笑った。
「気づかれてたんですね。他に硬いものが見当たらなかったので、あれを使いました。あそこなら私が裸だから、少し油断してたでしょう?」
彼女の話しの途中から、私は全身を強ばらせて固まっていた。すぐに美雪さんは言った。
「台所、借りますね」
低い声。言葉が持つ意味以上に、深みを持った台詞だった。美雪さんは台所へ聞いていく。
台所……。それを聞いて真っ先に思い浮かんだのは包丁だった。
やばいやばいやばい。なに?すぐに台所を借りるのはドエムの習性なの!?ていうか柊さんの時といい、主任と付き合ってから危険なことばっかりな気がするんだけど!
いやいや、そんなことよりも逃げないと……。私はすぐに主任からもメールを思い出した。
もしも時は、ベランダへ。
ベランダになにがあるかは分からないけど、私は今にも腰が抜けてしまいそうなまま急いで窓へ向かった。おそるおそる、後ろを振り返りながら。
半開きのドア。奥からはシャリン……シャリン……という、独特な、何かが擦れるような音がゆっくり響いていた。
私はぞっとした。これ、包丁といでる音だ……。
なんでなんで!?うちに研ぎ石ないはずなんだけど!持参したの!?
私は縋るように窓を開けた。それと隣の部屋の窓が開いたのは、たぶん同時だった。
「詩絵子様!」
聞き慣れた声。私は弾かれたように声の方を振り返る。
「しゅに……!……え」
隣のベランダには主任がいた。私は後ろを振り返ってみる。そちらにもベランダがある。そこは今井のおばちゃんの部屋だ。
もう一度、顔を元に戻す。
「詩絵子様!はやくこちらへ!」
主任は私へ腕を伸ばす。
「……」
……貴様、今どこから出てきた……?
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる