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美里の裏話と「向井帝人の妻です」
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しおりを挟む主任は手早く運転手に告げる。その時の彼はおどろおどろしいオーラを纏っており、その右手には大きな黒いバッグが、左手には開いたままのノートパソコンが、耳にはワイヤレスのイヤホンが装着されていた。
「主任その時からいたんだ……。まるで変態さんが来たのを知って駆け付けたようなタイミングだね……」
「……おそらくはそうでしょうね」
そこで美里はやばいと思った。今主任が行っては、チビ朔と鉢合わせになってしまう。
どう考えても修羅場は必至。しかし主任の滲ませる空気は、声をかけるのも躊躇させるものだった。
『やばいやばい!今行ったら絶対やばいってえ~!』
美里が焦るそうしたとき、チビ朔に蹴り落とされた変態男が階段を転がってきた。主任は素早く壁に隠れる。
『え、どうした、そんな怖かったの?』
『……怖か、った……』
階段の上からはそんな声が聞こえてくる。
そこに慌てた変態男が走ってきた。壁の裏に控えていた主任は、奴の足をはらって転ばせ、その口をガムテープで塞ぎ、すばやくロープで拘束した。
「それはそれは見事なお手並みだったわ」
「さすがはロープ使いだな」
変態男は訳の分からないままに、セイウチのようにその重たい体をじたばたとよじった。そんな男の横にしゃがみ込み、主任は真夜中の悪魔よりも低い声音で言った。
『このアパートの半径10キロメートル以内に、二度と近づかない。今言った範囲は、お前の危険地帯になった』
男は恐怖に目を見開き、主任を見返す。街灯に照らされた薄闇の中、主任は口元だけをかすかに笑わせる。
『予言をしようか。このことを破れば、お前は不慮の事故に遭う。どのような例外もない』
「こっわ!あの主任でも怒ることあるんだ!?」
「そうよ。しかも冷静で有無を言わさない戦法よ」
「いっちゃんヤなやつだな」
「そうやって絶対に外れることのない予言を叩きつけて終わると思うじゃない?」
「うん…。じゅうぶんだよ」
「それがこの上、主任は男を警察にまで連れてったのよ」
「ええ!?」
美里は警察署までこっそり後をつけた。
中まで入ることは出来なかったが、どうやら主任は男の犯行の証拠となる会話の記録などを所持しており、それらを警察官に差し出した。
男はすっかりものを言わず、借りられてきた猫のように大人しかったが、そういう男なので前科があったらしく、今回とは別件で逮捕に至ったという。
そうして警察署をあとにし、主任はうちのアパートへ戻った。
階段を上がる中ごろで、主任はふと電柱に隠れる美里の方を向いて、何気ない様子で言った。
『遅刻するなよ』
『!!は、はい!』
「というわけなの。声かけられたときはホントびっくりしたわ」
話を終えて、美里はふーっと長く息を吐いた。それから私に顔むける。
「よかったじゃない」
「よかったじゃない……?」
今の話に、よかった要素あるかな?
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