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美里の裏話と「向井帝人の妻です」
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しおりを挟む「ちゃっかりしすぎぃいい!!!」
「ぶはっ!!!」
朝。出勤前に家まで寄ってもらった美里に事情を打ち明けたところ、強烈なラリアットをくらい、私はベッドへ沈んだ。
「サイテー!その状況でさっくり連絡事項ねじ込む辺りが、あんたの身勝手さを全部あらわしてるわ!!」
「だってだって!他になに言えばいいか分からなくって……!あとで連絡とる方が気まずいと思って……!」
「それが最低だって言ってんのよ!!とにかく引き留めて話し合うべきでしょ!!」
「だって主任が避けるんだもん!」
「口答えすなーー!!」
美里は飛び上がって私にのしかかり、背中に乗り上げて腕で首を絞めにかかった。
「ぐ、ぐるじ……!」
バシバシとベッドを叩いてギブアップを示す。その横でチビ朔が「ギブ?ギブ?」とカウントを開始する。
「ふう。しょうがない。黙っておこうと思ったけど、あんた達に話しましょう」
パンパンと手をはたいてベッドに座り直し、やや神妙なトーンで美里は言った。私はむくりと体を起こす。
「なに?なんかあったの?」
「主任のためには黙っておいた方がいいと思ったんだけどね」
「主任のためって……美里って実は主任スキなの?」
「そりゃあ尊敬してるでしょ。あんなに仕事できる人もそういないからね。私も助けてもらったことあるし。未だにドエムなのが信じられないくらいよ」
「へえ。あいつってそんなに仕事できるんだ?」
チビ朔は意外そうに言ったあとで、「それもそっか。あのマンションの最上階に住めるんだから、そこそこの役職についてるはずだよな」とひとりで納得した。
「では、少し時間をさかのぼり、変態男がこの家を訪ねてきた辺りの話をしましょうか。その時、このアパートの外では、こんなことが起こっていました」
そうして美里は、真面目な顔で話を始めた。
『あ~けっこう飲んだなあ~』
真夜中、合コンからの帰宅途中だった美里は、ほろ酔いで歩いていた。
「えー美里、女の子一人で酔っぱらって歩いてちゃ危ないよ~」
「俺もそういうの反対だなあ。野郎に送ってもらえよ」
「ていうかこの間の彼氏は?合コンで出会ったって言ってた人」
「もうとっくに別れたよ」
美里は回想を続ける。気持ちよく歩いていたところ、その辺りが私の住むアパートの付近だと美里は気が付いた。
『あー。なんか見覚えのあるアパートだ。詩絵子寝てるかな。キシシ。ちょっと脅かしに行こーっと!』
「美里ちゃん、これは誰なの?あなたは酔っぱらうとそんなに陽気な子になるの?キシシなんて笑い方なかなか出てくるもんじゃないよ」
「気分がよかったのよ。最近寒くなってきて空気が綺麗に感じるし」
美里がアパートに入ろうとしたところ、チビ朔が横からやってきて、階段を上がっていった。なんとなく美里は隠れてしまい、電柱の影からその様子を見守った。
「あん時いたんだ?」
「実はね」
「なんで隠れるのよ」
「見ちゃいけないところだと思ってさ。浮気現場になるわけじゃない?でも本題はここからよ」
チビ朔が階段を上がってすぐ、アパートの前に一台のタクシーが急ブレーキで停まった。中から出てきたのは主任だった。
『釣りはいらない』
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