ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「今日は会社やすみ、ます……」

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 台所へ顔を出してみる。主任は食器を洗い終え、手を拭いたところだった。



「あの、ちょっとお話が」


「詩絵子様、今鍋を火をかけています。あと5分ほどしたら火を止めておいてください」



 ぐつぐつと音を起こす鍋をさして主任は手早く言った。そういえば、煮物かな?おだしのいい匂いがする……。


 もう一つ鍋があったので、私はそちらを覗き込んだ。



「わあ。豚汁だあ~」



 ほのかな生姜の匂い~。体があったまりそうだよ~。



「お、うまそ~」



 チビ朔もやってきて、後ろから鍋を覗き込む。



「おいしそうだね」


「おいしそうだな」


「身体ポッカポカになるね」


「ポッカポカだよ~」



 実家でお母さんに看病してもらってるみたいだなあ。私たちはその懐かしさを感じる料理の香りを堪能し、顔を緩めて湯気を吸った。




「この薬を一錠ずつ飲んでください。こっちは解熱鎮痛剤、こっちは咳止めです。解熱鎮痛剤の方は、次の服用まで6時間はあけてください。それでは、これで失礼します」



 テーブルに薬を並べ、主任は荷物をまとめて帰り支度を整える。



「えっ!主任帰っちゃうんですか!?」


「すみません。用事がありまして」


「そ、そんな……!」


 まだなにも解決してないじゃん!ご飯ごちそうになってる場合じゃなかったんだよ!
ちゃんと話し合わないと……ッ!


 どうやって話し合いに持ち込もうか。そう考えている間に、主任はもうドアの前まで行ってしまう。


 しかしそこで主任は一度止まって、こちらを振り返った。



「詩絵子様……。その、大丈夫ですか?」



 私は質問の意図がよく分からず、ぽかんとして答えた。



「え……大丈夫です、けど」


「そうですか。それではお二人とも、お大事に」



 と言って、主任はドアの向こうへ消えていく。扉が閉まりきってしまう前に、私は腕を伸ばして叫んだ。



「主任!今日は会社やすみ、ます……」



 パタン。
 そうして主任は出て行ってしまった。






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